決裁者マッチングという独自のソリューションを展開し、設立7年にして今期、約13億円の資金調達に成功。ほかにも「ベストベンチャー100」の3年連続の選出や、「はたらきがいのある会社ランキング」にも2年連続で選出された株式会社オンリーストーリー。しかし30歳にして代表取締役CEOを務める平野哲也氏に話を聞くと、ここまでの道のりの大部分は決して“サクセスストーリー”ではなかった。

「自分の失敗談とそこから得た知見が、今後起業を志すビジネスパーソンの役に立てば」と語る平野氏。ビジネスモデルや組織を構築するにあたり、経営者が知っておきたいマインドとは? 平野氏の実体験をもとに、自身のnote記事とともに紹介する。

決裁者同士がつながるためのマッチング支援「ONLY STORY」

平野氏の考えを解剖する前に、まず事業内容を俯瞰する。株式会社オンリーストーリーが設立されたのは2014年。主力サービスの一つが、審査制の決裁者専用ビジネスマッチングサービス「ONLY STORY」とその有料版、「チラCEO」だ。

「BtoBビジネスの場合、『決裁者まで到達できず、商談や協業に発展しない』といった悩みを抱える企業が多くあります。この課題を解決するのがONLY STORYで、独自審査を通過した企業の決裁者同士が、サービスを通して出会うことができます。有料版サービスの『チラCEO』も提供しており、より深く、広くマッチングを生み出すことができます」

決裁者マッチングプラットフォーム「ONLY STORY」を無料展開。有料版「チラCEO」ではBtoB商材を専門に決裁者アポイントの獲得支援を行なっている。

「チラCEO」を利用する決裁者は、4つの導線によって決裁者商談を獲得できる設計になっている。ユーザー同士が直接送付し合える「メッセージ」、売り手側・買い手側両方の課題を投稿できる「GIVER掲示板」、会社や事業などのプレゼンテーションを行える「オンラインイベント」、オンリーストーリー社の担当者からの直接的な決裁者の紹介だ。

現在、登録者の8割以上は取締役以上の決裁者で、登録決裁者数は4,000名を上回り、毎月200名程度のペースで増えているという。サービスはオンライン完結で利用できることも特徴だが、オンリーストーリーのカスタマーサクセス担当者によるサポート体制も充実する。

「チラCEOは月額20〜40万円 で利用でき、サービスを積極利用した場合、約3万円台で決裁者商談を生み出すことができます。意思決定者同士が直接出会う最大のメリットは、スピーディーに話が進むことだけではありません。営業的な一方向の提案ではなく、お互いの課題を補填し合う双方向的なコミュニケーションが成立し、持続的な関係を結びやすくなります」

このビジネスモデルは、2019年度のグッドデザイン賞を受賞。オンリーストーリー社は他にも多くの受賞実績を持つ。一方で組織づくりにも注力しており、「2021年版『働きがいのある会社』ランキング」では100名未満部門で、日本5位、アジア43位に選出された。

そんなオンリーストーリー、並びに平野氏は、どのように成長してきたのだろうか。その裏側には、愚直な挑戦と失敗の繰り返しがあった。

「挫折」と「改善」、ゴールまでどう分析し走り続けるか

1990年、横浜に生まれた平野氏は、父親と叔父が経営者という環境で育った。小学生から大学卒業までは、テニス一筋。早稲田大学政治経済学部に入学した。そんな中、在学中に髄膜炎により緊急治療室に搬送。大手術を受ける運命に直面する。

「生死をさまよう体験をし、自分の人生の尺度が大きく変わりました。具体的にはそれまでは『周りからの評価軸』で決断をしていたのが『後悔を残さない生き方をする軸』に変わりました。

それまで囚われていた、周りの人に流されることや、やりたいことをやらないことを、リスクと捉えるようになったんです。ちなみに自分の価値観を熟考して気づいたのは、『健康で、愛し愛され、やりがいをもてる仕事をして、お金持ち』という4つの条件が揃わなければ幸せになれないこと。そして、自分において『やりがいを持てる仕事』にあたる、起業の道を志しました。」

株式会社オンリーストーリー 代表取締役CEO 平野哲也氏

こうしてキャリアをスタートさせた平野氏。しかし、着手すべきビジネスのアイデアはない。そんな中、平野氏は、「WILL(自分がやりたいこと)」「CAN(自分ができること)」「NEED(市場、顧客から求められていること)」の3つのポイントを自分に当てはめ、取り掛かるべきビジネスを分析していった。

「経営者や会社の力になりたいという願望が 『WILL』として、インターンでインタビューをした経験とスキルが『CAN』としてありました。そして経営者にとっては無料で取材をしてもらい、記事をつくってもらえればありがたいという、『NEED』に気づき、経営者のインタビューサイトをつくろうと思ったんです」

しかしその取り組みは、若き起業家にとっては無謀であった。

「インタビューをつづけて半年ほど経ったころ、預金がゼロに近づきました。無料でやっていたので、そうなるのは当たり前ですよね。『良いことをやっていれば、お金は後からついてくる』という、性善説の極みの考えを持っていました(笑)。

なんとか今の活動をつづけながら、マネタイズできる方法はないかと試行錯誤を重ねました。結果として思いついたのが、取材先となる経営者に、別の会社がチラシで宣伝している商品やサービスを紹介し、その広告費用を受け取るというアイデアです。テレビCMをイメージいただけるとわかりやすいと思います。『無料で記事を作ってもらえる』という経営者側のメリットと、『決裁者に直接売り込みをしたい』という課題を組み合わせたモデルで、現在のチラCEOの原型になっています」

初期チラCEOのサービス内容

【平野氏が体験したビジネスを生み出すまでの道のり】

収益化に成功したこのモデルは、ビジネスコンテストでも高い評価を受けた。しかしそんなに簡単ではなく、実際にはその後、「うまくいかなかった」と平野氏は振り返る。

「顧客企業に請求書を送るたびに、『成果が出ていない』とクレームや解約依頼が来る状態でした。『ビジネスモデルとして美しいこと』と『顧客満足度が高いこと』は、全く異なるのだと気づかされました。メンバーの満足度も低く、『なぜ周りにいる人を不幸せにすることに時間を使っているのか』と、自分や事業の存在意義を見失いました」

それでも平野氏は諦めず、サービスの改善に努めた。宣伝元となるユーザーが、経営者にアクセスできる機会を増やしていき、提供できる価値を高めていったのだ。地道な改善を積み重ね、先述した4つの導線が誕生した。

起業に必要なマインドセットとは。平野氏の“しくじり”から伝えたいビジネスヒント

起業という選択肢がスタンダードになった現代だが、リスクがゼロになったのではない。令和の起業家は、どのようなマインドで事業を展開するべきなのだろうか。愚直な努力が必要である前提で、「努力の仕方を間違えないでほしい」と平野氏は言う。

「20代の頃は、サービス、収益、マネジメント、顧客との関係性、株主への対応、プライベートまで、あらゆることで頭がいっぱいになり、結局何一つ進まないということがよくありました。この失敗から学んだのが、『何をやって、何をやらないか』をしっかりと考える必要性です。

努力をつづけていると、やるべきことが自然とわかるようになります。すると、ボーリングの中央のピンを打つように、シンプルな方法で多くの効果を得ることができるようになります。泥臭く挑戦しながら、今何が必要かを考えることが大事だと思います」

【経営をする上でのプライオリティに対する考え方】

高度な精神力を要する起業だが、それでも迷いは付き物だ。本当に自分が起業家に適しているかどうかを、どう判断すればいいのだろうか。

「もし企業に所属しているなら、まずは決裁者に近いポジションにチャレンジするのがいいと思います。私の周りの起業家でも、メンタル面で疲弊してしまうケースは多発しています。自分が起業をして、どのような精神状態になるのかを、組織にいるうちに体感しておくことは有効です。

また、起業をする上では、取り組む事業・理念が自分の性格にフィットしているかも重要なポイントにもなります。自分を知ることが第一歩。もし『自分は起業に向いていない』という考えに至ったとしても、それは有意義な発見なのではないでしょうか」

【「経営者自身の性格」と「事業や理念」のフィットを考える】

では、平野氏自身の性格とフィットした理念とはどのようなものなのだろうか。

「私が目指すのは、強さと良さを備える会社です。売り上げや利益といった成果指標と、顧客や従業員が応援してくれるような関係性。両方の大切さに気づけたことで、事業を大きく成長させることができました」

平野氏が理想とする会社像は、“つよいい会社”という企業理念、温かみのあるロゴマークで表現され、現在に受け継がれている。

【目指すべき理想像を明確に描く必要性】

しかし、「つよいい会社」は、平野一人の思考と努力だけでは実現しない。会社を一緒に創る仲間の存在が不可欠だ。では、メンバーを採用し、会社を経営することに対しては、どのように向き合えばいいのだろうか。「メンバー」と「経営層」には、決定的な違いがあると平野氏は考えている。

「両者の違いは、日々抱く感情です。経営層は会社の舵取りをするのが役割。そこに必ず生じるのが“不安”です。一方、メンバーは、経営層と自分の考えの違いに気づき、“不満”を抱くようになります。不安と不満、どちらも地獄のような感情ですが、避けて通ることはできません。経営者になるならばある程度、不安と共存をする覚悟を決めるのも大切かと思います」

一方で、経営としてはメンバーの不満を解消し、組織運営をする必要がある。組織と向き合う上で最も役に立ったのがクレドだったと平野氏は語る。現在のオンリーストーリー社では徐々に浸透してきているクレドだが、なかなか浸透せず2度作り直した過去があるという。

【クレド浸透を目指す過程での、葛藤としくじり】

こうした度重なる失敗と挫折から、自身の経営論を磨き上げてきた平野氏。オンリーストーリー社のサービスには、これらの経験値が総動員されているのだろう。「これからも改善を重ね、顧客価値をどんどん拡充していきたい」と意欲的な姿勢を見せる平野氏のソリューションは、日本の起業家にとって強い味方になるに違いない。