マッキンゼーが唱える企業のサステナビリティ取り組みの合理性

中国やドイツでの洪水、北米での熱波など、2021年夏も世界各地で異常気象が続き、人々の気候変動や環境問題への関心は一層高くなっていることが想定される。

民主国家であれば人々の意思変化は選挙に反映され当該国の政府にも影響し、規制を通じて企業にも影響を及ぼすことになる。

環境先進国と呼ばれる国が多い欧州や環境政策を推進するバイデン政権が誕生した米国で、大手企業による環境取り組みが急速に増えているのは偶然ではないだろう。

もともと、営利企業にとって環境取り組みは自社の収益に直結せずコストだけかかってしまう非合理的なものであるとの考えが主流だったようだが、最近は外部環境の変化で、企業の環境取り組みに対する考えが大きく変わってきているようなのだ。

その理由の1つとして、環境取り組みは営利組織として合理的であることを裏付ける研究・分析結果が増えていることが挙げられる。

マッキンゼーが2019年11月に公表した「Five ways that ESG creates value」も経営層の考えに影響を及ぼした分析レポートの1つと言えるだろう。

同レポートは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)分野の取り組みに投資することで、5つの側面から価値を生み出せることを主張している。

この5つの側面とは「収益増加」「コスト削減」「規制回避」「生産性改善」「投資・資産最適化」だ。

サステナブル取り組みで収益増

環境を含めESGを意識した取り組みがなぜ、これらの価値を生み出すのか。「収益増加」を取り上げ、その理由を見てみたい。

同レポートは、同社が過去に実施した消費者意識調査(2012年)を引用し、サステナブルな商品/サービスに対して5%多く支払っても良いとの回答割合が70%であったことに言及、また実際に収益が増加した事例を紹介し、サステナブル投資の合理性を説いている。

事例の1つとして、ユニリーバの食器洗剤「Sunlight」が挙げられている。この食器洗剤は、通常よりも使う水を少なくできるもので、水資源が乏しい地域で他の商品よりも20%以上多く売れたという。

コンサルティング企業BCGとMITの分析レポートでも同様の事例が報告されている。

たとえば、米ゼネラル・エレクトリックでは、2004年にサステナビリティが成長促進要因であるとの認識から「Ecomagination」ブランドを導入。同ブランドのプロダクトは、他事業の収益が減少する中でも、12%の成長を記録。2010年には累計売上高が850億ドル、2014年には2000億ドルに到達した

このほか、サステナブル取り組みによって水道/電気代を削減できたり、任意の環境取り組みの推進によって政府規制を回避したり、PPP(官民連携プロジェクト)への参加など、様々な合理的なメリットが得られるとしている。

カリフォルニアのロングビーチで大型のインフラプロジェクトが官民連携で実施されたが、このとき民間企業の選定では各社のサステナブル取り組みのパフォーマンスが評価基準になったとのこと。

独自のサステナブル取り組み、セールスフォースが海洋保全に注力する理由

サステナブル取り組みの合理性が広く認知されつつ欧米では、大手企業による環境取り組みが増加しており、中には単なるサステナビリティではなく独自性を付加した活動を開始する企業も出てきている。

IT大手のセールスフォースもそんな企業の1つだ。

セールスフォースは2021年6月に、同社初となる「海洋サステナビリティ責任者」という役職を設置、そこにかつて米議員の海洋政策アドバイザーを務めていたウィットニー・ジョンストン氏が就任したことを発表した

今、欧米の大手企業の間では「最高サステナビリティ責任者(CSO)」という新役職の設置が急ピッチで進んでいる。セールスフォースの動きもこの流れに乗るものだが、同社は海洋問題にフォーカスすることで、独自性を出している。

セールスフォースが海洋保全に注力するのは、創業者兼CEOのマーク・ベニオフ氏の意向が大きく関わっている。

ベニオフ氏は2016年、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の海洋学者ダグラス・マッコーリー氏らが制作した海洋危機に関する論文に感銘を受け、同校に1000万ドル(約11億円)を寄付、マッコーリー氏を責任者とする海洋保全のための「ベニオフ海洋イニシアチブ」を開始した。

直近では、2021年5月に世界経済フォーラムと海洋保全ネットワーク「Friends of Ocean Action」よる宣言「The Ocean Super Year Declaration」に署名、また国連のエコシステム保全取り組み「The UN Decade on Ecosystem Restoration」への参画を表明するなど、海洋保全取り組みへの関わりを一層深めている

ジョンストン氏の役割には、これらの様々な国際的な海洋保全取り組みとセールスフォースの連携やこうした取り組みに対する同社リソースの活用方法などの模索などが関わってくると思われる。

消費者の意識変化、各国政府のサステナビリティ取り組みに対する優遇など、企業にとって環境取り組みの合理性やベネフィットは時間が経つともに大きくなっている状況。日本からもセールスフォースのように独自の環境意識を持つ企業が出てくることに期待したい。

文:細谷元(Livit