政府は8月31日(火)まで、東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、大阪府、沖縄県を対象に緊急事態宣言を発出中だ。特集『新型コロナとデータ分析〜4度目の緊急事態宣言は何をもたらすのか?』の最終回では、クロスロケーションズ株式会社に提供してもらった人流データをもとに、Ledge.ai編集部が度重なる緊急事態宣言による人流の変化を考察する。

画像はイメージです(Unsplashより)

感染力が強い変異ウイルス「デルタ株」への置き換わりが進み、東京都内を中心に新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)における「過去最大規模」の感染拡大が起きている(※1、2)。新型コロナウイルス感染症においては人流と陽性者数に相関関係があることは明らかだ

今回、Ledge.ai編集部ではクロスロケーションズ株式会社が提供する、誰でも任意の地点の人流を視覚化できるサービス「LAP人流モニタリング」を利用し、東京都や地方都市での2020年1月1日〜2021年7月16日現在までの人流データをもとに、繰り返される緊急事態宣言にともない人流にどのような変化があるのか、実際に人流の変化は鈍くなっているのかなどを分析した。

その結果、「2度目以降の緊急事態宣言は1度目ほど人流抑止の効果がないこと」「過去にスポーツ新聞で展開された『吉祥寺はいつも通りのにぎわい』といった批判は明らかな誤りであること」「地方都市では『Go To トラベル』キャンペーンの影響で人流が増加したと考えられること」「年代別では人流に目立った変化はなく、若者バッシングは誤りと考えられること」などが明らかになった。

東京都での緊急事態宣言ほか

  • 東京都小池都知事 週末の不要不急の外出自粛要請(2020年3月25日)
  • 東京都小池都知事 夜間の外出自粛要請(2020年3月30日)
  • 1度目の緊急事態宣言(2020年4月7日〜2020年5月25日)
  • 2度目の緊急事態宣言(2021年1月13日〜2021年2月28日)
  • 3度目の緊急事態宣言(2021年4月25日〜2021年6月20日)
  • 4度目の緊急事態宣言(2021年7月12日〜2021年8月22日)

2回目以降の緊急事態宣言は1回目ほど人流抑止の効果がない

最初は東京都心を見ていこう。

2020年1月1日〜2021年7月16日現在までの新宿駅周辺と渋谷駅周辺の人流データである。

2020年1月1日〜2021年7月16日現在における新宿駅周辺、渋谷駅周辺の推計来訪数のデータ(クロスロケーションズが提供しているデータをもとに、Ledge.ai編集部でFlourishを用いて作成)

本データからは以下のことがわかる。

  • 2020年1月半ばからすでに人流は減少傾向にあり、東京都小池都知事による週末の不要不急の外出自粛要請や夜間の外出自粛要請があった2020年3月末頃から人流は急激に減少していく。
  • 1度目の緊急事態宣言の発出中にあるゴールデンウィーク(GW/2020年4月29日〜5月5日)前後が人流はもっとも少ない。
  • 2度目の緊急事態宣言が発出される以前である、2020年の年末から人流は再び減少傾向に転じる。
  • 3度目の緊急事態宣言が発出中にある2度目のGW(2021年4月29日〜5月5日)から人流は再び減少する。
  • 4度目の緊急事態宣言は本データに含まれる2021年7月12日〜7月16日の時点では、2度目と3度目の初期と比べると、あまり人流は減っていない。

緊急事態宣言による人流の変化を比較すると、1度目がもっとも大きい。2度目/3度目は変化があるものの、1度目と比較するとさほどの変化がない。1度目は首都圏への大学進学、就職や転職などを取りやめたり、延期したりした人々がいたことも影響していると考えられる(※3)。

1度目/2度目/3度目は共通して緊急事態宣言が長引くにあたり、人流は少しずつもとに戻っていく傾向がある。しかし、「気の緩み」と表現するほど大きな変化とは言えないだろう。

2020年1月頃と比較すると、2度目の緊急事態宣言以降の人流は新宿と渋谷ともに5割〜7割程度だ。緊急事態宣言下ではない2020年の年末から2021年の三が日前後に人流が大きく減少していること、2020年と2021年ともに緊急事態宣言下とはいえGW前後にほかの日よりも人流が落ちていることなどからも、国民や東京都民が自ら外出自粛している部分が大きいと考えられる。

4度目は2度目/3度目と同じく緊急事態宣言が発令される前の「駆け込み」が存在する。4度目は人流抑止の効果は小さいと報じられている(※4、5、6)。本データに含まれる2021年7月12日〜7月16日の時点でも、2度目/3度目の初期と比べると、あまり人流は減っていない。

連休中には新宿や渋谷は避け、戸越銀座商店街などに集中か

次は、東京都内の有名商店街を見ていこう。

2020年1月1日〜2021年7月16日現在までの有名商店街の戸越銀座商店街周辺、「若者の街」である原宿竹下通り周辺、「おばあちゃんの原宿」と称される巣鴨地蔵通り商店街周辺の人流データである。

2020年1月1日〜2021年7月16日現在における戸越銀座商店街周辺、原宿竹下通り周辺、巣鴨地蔵通り商店街周辺の推計来訪数のデータ(クロスロケーションズが提供しているデータをもとに、Ledge.ai編集部でFlourishを用いて作成)

本データからは以下のことがわかる。

  • 3箇所はともに、1度目の緊急事態宣言中がもっとも人流が少ない。新宿駅周辺や渋谷駅周辺と同じ傾向と言えるだろう。
  • 巣鴨地蔵通り商店街周辺は2度目の緊急事態宣言中に、1度目の緊急事態宣言とほぼ同程度の人流の減少傾向が見られる。
  • 原宿竹下通り周辺は土日/敬老の日/秋分の日の4連休(2020年9月19日〜9月22日)、戸越銀座商店街周辺は2度目のGW(2021年4月29日〜5月5日)に増加傾向にある。

2020年1月頃と比較すると、2度目の緊急事態宣言以降の人流は戸越銀座商店街周辺が5割〜8割程度、原宿竹下通り周辺は4割〜8割、巣鴨地蔵通り商店街周辺は3割〜8割程度だ。戸越銀座商店街周辺は観光客の人流は減ったものの、変わらず地元の人々の生活を支え続けていることや、原宿竹下通り周辺は観光客などが大幅に減少したことが影響していると考察できる。

一方で、連休中は新宿や渋谷などは避け、原宿竹下通り周辺や戸越銀座商店街周辺に足を運ぶ人が少なからずいることも明らかになった。この変化をどのように捉えるかは見方次第だが、いずれによせ国民や東京都民の多くは人混みを避けていることがわかる。

「吉祥寺はいつも通りのにぎわい」報道は明らかな誤り

引き続き、ほかの東京都内の有名商店街を見ていこう。

2020年1月1日〜2021年7月16日現在までのスポーツ新聞に「吉祥寺はいつも通りのにぎわい」などと報じられた吉祥寺サンロード周辺、観光地である浅草新仲見世通り周辺の人流データである。

2020年1月1日〜2021年7月16日現在における吉祥寺サンロード周辺、浅草新仲見世通り周辺の推計来訪数のデータ(クロスロケーションズが提供しているデータをもとに、Ledge.ai編集部でFlourishを用いて作成)

本データからは以下のことがわかる。

  • 浅草新仲見世通り周辺は2020年の三が日前後に人流が大幅に増加している。金龍山浅草寺での初詣によるものだろう。
  • 2箇所はともに、東京都小池都知事による週末の不要不急の外出自粛要請や夜間の外出自粛要請の際に人流が減少しており、1度目の緊急事態宣言中がもっとも人流が少ない。2度目/3度目の緊急事態宣言下には1度目ほどではないものの、人流は減少傾向を示している。
  • 浅草新仲見世通り周辺は2020年における土日に加え、敬老の日と秋分の日と続く4連休、2021年の三が日前後に人流が増加傾向にある。

吉祥寺(吉祥寺サンロード周辺)は1度目の緊急事態宣言下に、スポーツ新聞に「吉祥寺はいつも通りのにぎわい」などとバッシングされた。しかし、実際は1度目の緊急事態宣言下には人流は大幅に減少していた。当時の報道は誤りだったと言えるだろう。また、2020年1月頃と比較すると、2度目以降においても人流は4割〜9割程度に収まっている。

浅草新仲見世通り周辺は2020年1月頃と比較すると、2度目以降は人流が1割〜6割程度だ。たとえば、2021年の三が日前後は人流が増加傾向にあるものの、2020年の三が日前後と比較すると4割以下に収まった。この変化からも、国民や東京都民の多くが外出を自粛したり、人混みを避けたりしていることがわかる。

「Go To トラベル」キャンペーンの影響で人流が増加か

2020年1月1日〜2021年7月16日現在における岡山駅周辺と金沢駅周辺の推計来訪数のデータ(クロスロケーションズが提供しているデータをもとにLedge.ai編集部で作成)

次は地方都市を見ていこう。ここでは東京などの都市部とは異なり、緊急事態宣言の対象になることが少ない岡山駅周辺や金沢駅周辺に絞った。

岡山県での緊急事態宣言

  • 1度目の緊急事態宣言(2020年4月16日〜2020年5月14日)
  • 3度目の緊急事態宣言(2021年5月16日〜2021年6月20日)
金沢市のある石川県での緊急事態宣言

  • 1度目の緊急事態宣言(2020年4月16日〜2020年5月14日)
  • 石川県独自の緊急事態宣言(2021年5月9日〜2021年6月13日)

2020年1月1日〜2021年7月16日現在までの岡山駅周辺と金沢駅周辺の人流データである。

本データからは以下のことがわかる。

  • 全体を見渡せば、地方都市は人流の変化には東京都心と大きく異なる点は少ない。2020年9月頃〜12月頃に人流が増加傾向にあることぐらいだろう。
  • 2020年1月頃と比較すると、2度目の緊急事態宣言以降の人流は岡山駅周辺と金沢駅周辺ともに3割〜8割程度だ。

特筆すべきは緊急事態宣言下には人流はとくに減少しているものの、2020年9月頃〜12月頃に人流が増加傾向にあることだろう。政府が2020年7月22日〜12月28日まで実施した「Go To トラベル」キャンペーンの影響と考えられる(※7)。

年代別には大きな変化はない

最後に、年代別の人流データを確認しておこう。

年代別に2020年1月と2021年6月の渋谷駅周辺、金沢駅周辺の人流データを年代別の割合で比較したものである。

2020年1月と2021年6月における渋谷駅周辺の推計来訪数のデータを年代別の割合で比較したもの(クロスロケーションズが提供しているデータをもとに、Ledge.ai編集部でFlourishを用いて作成)

本データからは以下のことがわかる。

  • 2020年1月と2021年6月の渋谷駅周辺の人流データを年代別の割合で比較すると、10代は3%から4%、50代は20%から21%、70代は11%から10%に変化している。
  • いずれも1%前後の変化であり、誤差の範囲内と言えるだろう。

2020年1月と2021年6月における金沢駅周辺の推計来訪数のデータを年代別の割合で比較したもの(クロスロケーションズが提供しているデータをもとに、Ledge.ai編集部でFlourishを用いて作成)

  • 2020年1月と2021年6月の金沢駅周辺の人流データを年代別の割合で比較すると、10代は5%から6%、20代は13%から12%、30代は12%から13%、40代と50代はともに21%から20%、70代が14%から15%に変化している。
  • 強いて言うならば、10代〜40代までが増加傾向にある可能性もある。しかし、いずれも1%前後の変化であり、誤差の範囲内と考えたほうが自然だろう。

現在の人出は30代以下の若者が多くを占めるという報道もある(※4)が、今回の分析では2020年1月と2021年6月時点の渋谷駅周辺/金沢駅周辺はともに、年代別の割合に大きな変化は見いだせなかった。いずれも1%前後の変化であり、誤差の範囲内だと考えられる。

確かに、最近では東京都ほかでは20代など若者の感染者数が目立っている(※8)。しかし、繰り返される緊急事態宣言で人流が抑え込めなくなったことだけではなく、デルタ株への置き換わりが進んでいることはもちろん、若者のワクチン接種が後回しであることも影響していると指摘される(※9、10、11)。

街中で10代や20代の若者に街頭インタビューを実施し、一部の外出自粛をしない若者を批判するような記事を見かけることもあるが、そのような記事は人流データにもとづいていないことが多い。巣鴨地蔵通り商店街周辺、原宿竹下通り周辺における人流の変化がほぼ同じであることからもわかるとおり、年代別に分けて比較するのは不毛な議論であると言えるだろう。

「東京五輪を言い訳にする若者が悪い」と安直に結論づけるな

最後に、なぜ4度目の緊急事態宣言における人流抑止の効果は薄くなったのか原因を考察しよう。背景としては単に緊急事態宣言を繰り返していることだけではなく、飲食店などが時短営業に応じられないことや、東京五輪の開催にともなう心情の変化なども挙げられる。

緊急事態宣言には以前から、政府の「酒提供飲食店への取引停止問題」に批判が集まり、撤回にいたるなど問題が露呈していた(※12)。現在では政府や東京都などによる時短協力金の支給の遅れが主な原因となり、営業時間短縮要請や酒類提供停止に応じない店舗は東京都内に数千店もあるという(※13、14)。

東京五輪には選手や関係者たちの人流のみならず、「東京五輪を開催しながらも、外出自粛を呼びかけるのはアナウンスとして二律背反(にりつはいはん)」などの指摘があった。東京五輪の開幕後に東京都民の「自粛率」は上昇したという報道もあるが、4度目の緊急事態宣言は人流抑止の効果が低く、東京五輪の開催にともなう心情の変化が影響していると指摘する専門家は少なくない(※15、16、17、18、19)。

また、本題からは逸れるが、政府は感染者が急増する地域において入院は重症患者や重症化リスクが高い人に限定し、それ以外の人は自宅療養を基本とする「入院制限」方針を示したことは、今後さまざまな影響をおよぼす危険性があると考えられる(※20)。すでに東京都内では自宅療養中に死亡した感染者が増加しているという報道もある(※21)。

SNS上では緊急事態宣言や東京五輪などに対して「極端な意見」が目立っている。しかし、インターネット上では中立的な立場ではなく、「極端な意見」の持ち主が大量に発信しているに過ぎないという(※22)。「東京五輪を言い訳にして出歩く若者たちが悪い!」などと安直に結論づけず、手洗いの徹底やマスク着用など基本的な感染予防に立ち返りつつも、さまざまな側面に目を向けて現状を判断すべきだろう。

(※1)共同通信社による報道「東京のコロナ感染「過去最大規模」 「拡大続く」厳しい見通し―厚労省助言組織」

(※2)BuzzFeed Japanによる報道「西浦博さんが断言「間違いなくこれまでで一番厳しい状態」 デルタ株の強い感染性で加速化する感染拡大」

(※3)「人流」でみる緊急事態宣言

(※4)読売新聞による報道「若者「感染の恐怖感なくなってきている」…都心の人出、30歳代以下が7割」

(※5)朝日新聞による報道「「人流減っている」はホント? 過去の宣言時と比べると」

(※6)読売新聞による報道「都内週末の人出、五輪会場周辺では3割以上増加…緊急事態宣言の効果発揮されず」

(※7)旅行者向け Go To トラベル事業公式サイト「緊急事態宣言に伴う全国的な旅行に係る Go To トラベル事業の取扱いについて」

(※8) NHK「東京都の感染状況(年代別・感染経路)」

(※9)NHK NEWS WEBによる報道「全国の新規感染者 1週間前比 1.54倍 厚労省コロナ専門家会合」

(※10)朝日新聞アピタルによる報道「東京の感染者数、なぜ過去最多 4連休明けという事情も」

(※11)厚生労働省「接種順位の考え方」

(※12)毎日新聞による報道「酒取引停止、世論反発で撤回 「西村氏の責任」で幕引き図る政府」

(※13)日本経済新聞による報道「都内飲食店の5割超、時短応じず 協力金遅れで離反」

(※14)時事通信社による報道「薄れる効果、繰り返す宣言 専門家「ロックダウン」を」

(※15)読売新聞による報道「【独自】五輪開幕後「自粛率」上昇…「ステイホーム観戦」進んだ可能性」

(※16)NHK NEWS WEBによる報道「五輪で『楽観バイアス』 緊急事態宣言 意味なさなく」専門家」

(※17)時事通信社による報道「五輪開催で効果薄く 「緊急事態宣言と矛盾」と識者」

(※18)BuzzFeed Japanによる報道「「自宅でオリンピック観戦」では減らない 少し先の未来に怯える理論疫学者が再び東京五輪中断を訴えるわけ」

(※19)毎日新聞による報道「自転車競技、自粛求めたが沿道は密に 橋本会長「ルール徹底を」」

(※20)朝日新聞による報道「菅首相、入院制限方針を撤回せず「理解してもらいたい」」

(※21)FNNプライムオンラインによる報道「【独自】東京 自宅療養中の死者急増 30~50代 8月に8人」

(※22)現代ビジネス「大規模調査でわかった、ネットに「極論」ばかり出回る本当の理由」