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世界が注目する長寿地域、沖縄
日本と同じく高齢化が進む欧米では「長寿ツーリズム」という言葉に注目が集まっている。
これは長寿地域への旅で食事や文化体験を通じて、健康増進を目指す旅行の一形態だ。
その長寿ツーリズムの旅先として特に関心が注がれているのが世界各地に点在する長寿地域「ブルーゾーン」である。
このブルーゾーンは、米国の作家ダン・ベットナー氏のいくつかの著書をきっかけに広まった言葉といわれている。
直近の著書としては2015年に出版された「The Blue Zones Solution: Eating and Living Like the Worlds’ Healthiest People」が挙げられる。同著はニューヨーク・タイムズのベストセラー書に選ばれ、これに関連するテレビ取材などが大々的に行われた。
この書籍でブルーゾーンに含まれる地域は、沖縄、ギリシャ・イカリア島、イタリア・サルディーニャ島、米ロマリンダ、コスタリカの5カ所。
高齢化の進展に加え、パンデミックでの健康意識の高まりによって、ブルーゾーン地域の食事や文化に再び関心が集まっている状況なのだ。さらに、ワクチンパスポートの登場など一部で観光が戻りつつある中で、これらの地域への旅を通じて長寿の秘訣を学ぶ「長寿ツーリズム」という考えも広がりを見せている。
以下では、沖縄を含めた「ブルーゾーン」が海外メディアでどのように紹介されているのかをお伝えしつつ、日本のインバウンド長寿ツーリズムの可能性を探ってみたい。
海外主要メディアが注目するブルーゾーン
まず、欧州のニュースメディア「Euronews」によるブルーゾーン関連の取り扱いを見ていきたい。
Euronewsは、1992年の湾岸戦争時に米国でCNNが主要なニュース情報源になったことを受け、それに対抗する形で創設されたメディアだ。現在は欧州だけでなく、世界166カ国4億3000万世帯にリーチするグローバルメディアとなっている。
このEuronewsの旅行情報部門euronews.travelは2021年1月29日(3月31日改訂)に「Blue Zones may hold the secret to living longer and healthier lives」と題した記事の中で、ブルーゾーンと長寿ツーリズムの可能性について紹介している。
同記事では、ベットナー氏によるブルーゾーンの定義に触れつつ、英国の平均寿命が男性79.9歳、女性83.6歳である一方、ブルーゾーンでは90歳以上が普通であると紹介。
その上で、ガーデニングなどの日々の自然な運動、野菜を中心とした適量の食事、ワインなど適度なアルコール消費、高齢者が生き生きと活動できるコミュニティの存在などが長寿の秘訣になっていると伝えている。
また、こうしたブルーゾーンにおける長寿の秘訣への関心の高まりとともに、これらの地域への旅「長寿ツーリズム」が観光トレンドの1つになると予想。
その長寿ツーリズムの事例として、沖縄ハレクラニホテルの「長寿の知恵」プログラムやイタリア・プーリアにあるボルゴイグナシア・ホテルの長寿プログラム、コスタリカ・ニコヤ半島でのヨガ・リトリートプログラムに言及している。
米主要経済メディアの1つCNBCも2021年2月13日に、ブルーゾーンに関する記事を公開している。
このCNBCの記事では、ベットナー氏への取材を通じて、ブルーゾーン地域の人々が日常に行っていることで、読者がすぐに実践できる長寿のための3つの行動を紹介。1つは社会的な関係(友人)を持つこと、2つ目はウォーキング、3つ目が20分の昼寝という。
海外でのブルーゾーン人気と日本の観光インバウンド戦略
海外でブルーゾーンへの注目度が高まっているということは、そのブルーゾーンの1つである沖縄も長寿ツーリズム先として認知が広がっているということだ。
これはコロナ後の日本のインバウンド戦略を考える上で、重要な示唆を与えるものと言えるだろう。
パンデミック前の日本の観光インバウンド戦略は、数を優先するものだった。しかし、コロナ後の観光は安全性重視となり、オーバーツーリズムを避けるという観点からも、以前のような数を優先するアプローチを継続することは難しくなるはずだ。
また世界の旅行者の間では「meaningful travel(意味を持つ旅行)」や「conscious travel(良識ある旅行)」を求める声が高まっており、これまでのようなマスツーリズムは旅行者への魅力とはならないことが想定される。
ブルーゾーンが与える示唆とは、数重視からの脱却と日本の持つ長寿社会という特徴を生かした新たなインバウンド戦略を考える必要があるということ。
沖縄だけでなく日本は全土で長寿という特徴を持つ。WHOの最新データ(2019年)によると、日本の男女合わせた平均寿命は84.3歳で世界1位なのだ。これにスイス(83.4歳)、韓国(83.3歳)、シンガポール(83.2歳)、スペイン(83.2歳)、キプロス(83.1歳)、オーストラリア(83歳)、イタリア(83歳)、イスラエル(82.6歳)、ノルウェー(82.6歳)などが続く。
これは、沖縄の他にも地方ごとに長寿を実現する食事や文化があることを示すもの。
ブルーゾーンの食事の特徴の1つとして、野菜や魚介類、お茶の消費が多いことが挙げられているが、日本では沖縄以外でもそのような食文化を持つ地域は多く、それぞれに特徴ある長寿ツーリズムを提供することが可能なはずだ。
また、長寿ツーリズムはウェルビーイングの向上という価値を生み出せることから客単価を高く設定しやすく、数に頼らず日本での消費額を高めることも可能となる。
上記海外メディアが紹介している沖縄ハレクラニホテルの「長寿の知恵」プログラムは、2泊3日で25万8000円、3泊4日で35万8000円。一方、2019年の訪日外国人1人あたりの支出額は平均16万5000円だった。
少しギャップがあるように見えるが、国別の観光客支出額はフランスが25万円、スペイン22万7000円、オーストラリア21万5000円。支出額が高く、ブルーゾーンという言葉が浸透する欧米豪などの旅行者を中心に集客できれば、客単価を高めることができる。
高齢化はネガティブな意味合いで用いられることが多いが、日本の場合長寿という特徴を伴っており、世界市場においては強みとして発信できるもの。コロナ後の経済復興戦略の1つとして「長寿ツーリズム」の可能性を議論してもよいのではないだろうか。
文:細谷元(Livit)