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コロナ前より経済が好調な国
パンデミックで世界中の経済が不況に陥ったが、2021年に入り経済が回復しパンデミック以前の水準を取り戻す国がいくつか登場している。
たとえば、チリでは銅価格の上昇やワクチン普及により、2021年のGDPは7.5%成長することが見込まれている。銅価格は2020年4月の2.22ドルが底値となり、それ以降コロナ禍では継続的に価格が上昇。現在は、4.35ドルほどと1年前の2倍の価格で推移している状況だ。
また、ワクチンに関しては、1回目接種を終えた人の割合はすでに70%以上、必要回数を接種した割合も60%と非常に高い。チリの人口は約1900万人。7月22日時点の1日あたりの感染者数は1859人だった。
デロイトがOECDのデータを用い、2019年第4四半期(10〜12月期)と2021年第1四半期(1〜3月期)を比較したところ、ルーマニア、リトアニア、中国などもパンデミック前より経済規模が拡大していることが判明した。
チリと同じく鉄鋼などのコモディティ価格の上昇の恩恵を受けているのがオーストラリアだ。デロイトの分析では、同国も2021年第1四半期の経済規模はパンデミック前の水準を越えたことが分かった。
オーストラリアの主要輸出品の1つである鉄鋼石の取引価格は、2020年3月ごろ80ドルほどだったが、2021年2月頃には160ドル、2021年7月末時点では210ドルに跳ね上がっている。
オーストラリア当局が2021年6月2日に発表した第1四半期(1〜3月期)報告によると、GDP成長率は前期比1.8%の伸びと、エコノミスト予想の1.5%を上回る結果となった。
オーストラリアのGDPは、パンデミックが始まった2020年第1四半期に前期比0.3%減、第2四半期に7%減となったものの、第3四半期には3.5%増、第4四半期に3.2%増、そして直近の1.8%増と3期連続の成長を記録している。
経済好調の背景には、世界的なコモディティ需要と価格上昇という外的要因だけでなく、国内家計支出の増加といった内的要因も大きく影響している。2021年第1四半期の家計支出は前期比で1.2%増加。2020年第3四半期の7.8%増、第4四半期の4.5%増に続く3期連続の成長となる。
これに伴い家計部門の貯蓄率は、前期の12.2%から11.6%に低下したものの、パンデミック前と比べると依然高い水準を保っており、家計部門の支出はまだ増えることが見込まれる。2017〜2019年の家計部門貯蓄率は、4〜5%で推移していた。
ちなみに、日本の2021年1〜3月期のGDP(実質)はマイナス1.3%、家計支出はマイナス1.4%という結果だった。
ワクチン普及率が低くも、消費者心理が上向く理由
上記データから、オーストラリア経済をけん引する要因の1つは国内消費であることが分かる。
家計消費がマイナス成長となった日本とプラス成長のオーストラリアには、どのような違いがあるのか。
1つは、コロナ封じ込めへの安心感が挙げられるだろう。
オーストラリアでは、少しでも感染者増の兆候があれば、ロックダウンを実施し早期に封じ込めるということを、これまで何度も繰り返してきている。日本から見れば、過敏とも言えるものだが、その効果は数字を見れば明らかだ。
人口約2500万人のオーストラリアでは1日あたりの新規感染者数は2020年10月以降、ほぼ10人以下で抑えられている。2021年7月22日時点では、デルタ株の広がりで158人まで増加したが、シドニーをロックダウンするなど、すでに対策を講じている。
こうした実績がワクチン普及が低いと言われながらも、消費者心理が上向く要因になっていると考えられるだろう。
冒頭でチリのワクチン普及率は1回目接種で70%を越えたことに言及したが、7月22日時点でオーストラリアの1回目接種の割合は30%、必要回数接種割合は11%にとどまるものだ。
旅行先として人気のオーストラリア、当局は慎重姿勢、観光客受け入れは早くとも2022年後半
感染者の抑え込みに成功し、経済が復調するオーストラリア。
観光先として人気であることから、すぐにでもオーストラリアに旅行したいと考える旅行者は少なくないはずだ。
しかし、オーストラリア当局は慎重姿勢を崩しておらず、旅行できるのは早くとも2022年後半になると見られている。
シンガポール地元紙ストレーツタイムズ(2021年5月20日)によると、オーストラリアのダン・ティーハン連邦貿易・観光・投資大臣はSky Newsの取材で、 観光客の受け入れは早くとも2022年半ば〜後半になるとの見方を示した。
また、オーストラリアはすでにニュージーランドとのトラベルバブルを開始しているが、デルタ株の拡大を受け、7月23日には一旦停止することを発表。
さらに感染者の抑制に成功しているシンガポールとオーストラリアのトラベルバブル締結の話も持ち上がっているが、開始は早くて2021年末頃と両国とも慎重なアプローチをとっている状況だ。
好調といわれるオーストラリア経済だが、人材不足問題が経済成長の足かせになるとの意見もあり、長期的にどのような展開になるのか注視が必要だ。
日米豪印戦略対話(クアッド)によって、日本との政治的・外交的な結びつきが強くなったオーストラリア。これを機に、経済や人的交流が以前にも増して活発化する可能性もあるはずだ。
コロナ対策や経済の行方など、オーストラリアの動きに注目してみてもよいのではないだろうか。
文:細谷元(Livit)