カンヌライオンズに見る広告トレンド

フランス南部・地中海に面するリゾート地「カンヌ」。この地名を聞いてまず思い浮かぶのは「カンヌ国際映画祭」だろう。

一方、世界最大級の広告賞「カンヌライオンズ(カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)」の開催地としても広く認知されている。

このカンヌライオンズ、2020年はパンデミックのため中止となったが、今年は6月21〜25日にオンラインで開催され、多くの注目を浴びた。注目される理由の1つとして、カンヌライオンズの受賞作品から世界の広告トレンドを推察できることが挙げられる。

世界的にどのような広告がトレンドとなっているのか、その動向を知ることは、特に世界中でビジネスを展開するグローバル企業にとっては、重要な示唆を与えるものだ。

近年世界の広告業界で注目されているのが「SDGs」や「サステナビリティ」というキーワード。2018年には、カンヌライオンズでもSDGs部門が新設されている。

実のところ、このSDGs部門の新設に関わらず、広告は全般的にサステナビリティに関するメッセージを含むものが増えており、他の主要部門でもサステナビリティ関連の広告が受賞することも珍しくなくなっているのが現状だ。

そうした主要部門でどのような広告が関心を集めたのかを知ることで、各企業は今後の広告戦略を練ることができるはずだ。

SDGsではない部門でもキーワードは「サステナビリティ」

カンヌライオンズ・ウェブサイトの受賞ページ最上部に位置する「コミュニケーション・デザイン部門」は、同賞主要部門の1つという位置づけで間違いないだろう。

2021年、この部門でグランプリを受賞したのは、H&Mの店内リサイクルシステム「Looop」の広告作品。広告会社AKQAが手がけた。

2020年10月にストックホルムの店舗に登場したLooop。古い衣服を細かく繊維単位まで分解し、その繊維で新しい衣服をつくるというリサイクルの仕組みだ。店内にマシンがあり、客は稼働しているところをガラス越しに見ることができる。

H&Mによると、Looopによるリサイクル過程では、水と化学薬品を利用せず、環境インパクトを減らすことが可能という。

Loopの利用料は、H&Mの会員であれば100クローナ(約1300円)、非会員では150クローナ(約1960円)。H&Mは、2030年までに原材料の100%をリサイクルされたもの、またはサステナブルな方法で製造されたものに切り替えることを目指している。Loopへの投資はその一環だ。

2020年のグランプリもサステナビリティを伝える広告

今年のカンヌライオンズでは、昨年中止となった2020年版のグランプリ受賞作品も発表されている。

2020年の「コミュニケーション・デザイン部門」で、グランプリを受賞したのは、代替プラスチックを開発するスタートアップNotplaの広告だ。

Notplaは、海藻や植物から代替プラスチックを開発するロンドン拠点のスタートアップ。同社の代替プラスチックは、食品や水などのパッケージに利用でき、使用後は数週間で自然分解する。広告制作は、世界中で事業展開する広告代理店Superunionが担当した。

広告では、Notplaのコアミッション「to make plastics disappear(プラスチックをなくす)」を念頭に、Notplaのロゴに水が入っている状況を再現。水で満たされていない部分を透明にすることで、容器が消える状況を表現している。

海藻をつかった代替プラスチックの開発は、ブルーカーボンへの関心の高まりも相まって2021年以降、一気に加速することが見込まれる。

人類が及ぼす自然への影響をタイムラプスで表現したグーグルの作品も受賞

「コミュニケーション・デザイン部門」の金賞(ゴールド・ライオン)でも、サステナビリティメッセージを含む作品がいくつか選ばれている。

1つはグーグルが2021年4月15日、YouTubeで公開したGoogle Earth のタイムラプス動画だ。

1984〜2020年の地球上での経済活動の影響をタイムラプスで伝える同作品では、カザフスタンのアラル海が干上がる様子やボリビアの森林が消えゆく姿、グリーンランドの万年雪が溶けていく状況が克明に映し出されている。6月末時点でのYouTubeの再生回数は、330万回を越えている。

カンヌライオンズから得られる今後の広告戦略についての示唆

世界最大級の広告賞であるカンヌライオンズにおいて、SDGs部門ではない主要部門でサステナビリティメッセージを含む広告がグランプリや金賞を受賞しているという事実は、多くの示唆を与えるものだ。

1つは、サステナビリティ視点とそれに関する取り組みを本業に組み込み、その活動のインパクトを広告として消費者に伝えることがマストになっているという点。H&Mの取り組みと広告は、このことを体現しているものといえるだろう。

また、そのようなサステナビリティ広告を発信し評価を得るには、H&MやNotplaのように、実際に何らかのインパクトを与える取り組みを行っていることが大前提になるということも示唆される。

実際のインパクトをもたらさない形だけの環境に関する取り組みは「グリーンウォッシュ」と呼ばれ、非難の対象となり、レピュテーションリスクやボイコットリスクを負うことなる。

さらに、最近では二酸化炭素排出削減を数値化するなどした、ESG投資指数などが機関投資家の投資判断に使われるケースも増えており、株価に影響を及ぼす可能性も大きくなっている。サステナブルなインパクトをもたらさない企業の株式には資金が流入しないということだ。

これは、消費者の環境意識が高まっていることを考えると至極当然。サステナビリティを無視する企業の商品やサービスを買わない消費者が増えているということであり、そのような企業の業績は振るわず、投資家にとっても投資対象にならないということになる。

このサステナビリティ広告トレンドは、地球環境が悪化し続ける限り続くものとなるはず。今後、広告業界を含めた企業活動でサステナビリティへの取り組みが広がっていくことに期待したい。

[文] 細谷元(Livit