不妊治療は当事者にならないと知り得ないことが多くあるものの、昨今は妊活や不妊治療といった言葉を耳にする機会が増えている。第15回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所(2015年)のデータでは、不妊の検査や治療を受けたことのあるカップルは約5.5組に1組で、不妊の心配をしたことのあるカップルは約3組に1組と示された。今年に入り「不妊治療に悩む方への特定治療支援事業(助成金)」が拡充され、新しい命への可能性も広がりつつあるようだ。

今回、不妊治療を経て二児の母となったタレントの安田美沙子さんにお話を伺う。さまざまな経験をした安田さんが今、妊活を考えるカップルや周囲に対して伝えたいこととは?

数ある治療法から“自分にとって一番良い方法”を選択

——安田さんは子宮内膜症の手術を経て、体外受精でお子さんを授かったとお聞きしました。どのような経緯で不妊治療に挑んだのかお聞かせください。

2014年に結婚して2015年に式を挙げたので、漠然とその1年後ぐらいには子どもが欲しいと思っていたのですが、授かることができませんでした。一般的に、1年経っても妊娠しなかったら不妊の検査をした方がいいのでは?と聞いていたので、詳しく調べてみることにしたんです。もともと子宮内膜症の治療をしていたのですが、卵管が狭くなっていることが分かったので、卵管を広げる腹腔鏡手術をしました。

せっかちな性格なので(笑)すぐに「手術します!」と言っていましたね。全身麻酔が怖かったのですが、いい経験になるとポジティブに捉えて挑みました。そして、手術は成功したものの、思った以上に子宮内膜症による癒着が進行していたので、手術後に「妊娠するためには体外受精をした方が早いかもしれません」と言われたんです。

人工授精など他の方法を試すこともできたのですが、かかる時間や費用、環境や気持ちの面を考慮した結果、“自分にとって一番いい方法”だったのが体外受精でした。1回目は残念な結果だったのですが、2回目の体外受精で長男を授かることができました。

安田美沙子さん

「気持ちも費用も大変だった」感情を“無”にして挑んだ不妊治療

——実際に不妊治療をしていた時はどんなことが大変でしたか?

まずは、病院に何度も通うのが大変でした。病院へ行くと同じように不妊に悩む方がたくさんいて、診察を待っている時間がとても長く感じましたね。「いい調子ですよ!」と言われるのかどうなのか、モヤモヤを抱えながら待合室にいた記憶があります。

基本的には前向きに考えて治療をしていたんですけれど、途中からは感情をコントロールしていました。寝起きの状態で病院に行って、目をこすりながら診察台に座って、ボケっとしながら先生の話を聞いてというふうに(笑)。1回目の体外受精がうまくいかなかった時にすごく落ち込んだので、一喜一憂していると気持ちが持たないなと思い、それからは感情を“無”にしたんです。けっこう落ち込みやすい性格なんですよね。せっかちなのも、問題を先延ばしにして深く悩みたくないからだと思います。なので、常に「後悔しないように、今できることはやってみる!」というスタンスで生活してきました。

仕事との両立も大変でした。ホルモン剤や排卵誘発剤といったお薬や注射はタイミングが決められているものなので、どうしても生活の中心になってしまいます。職業柄写真を撮られるのに、ホルモン治療でむくんでしまうこともあって、ベストコンディションで仕事に行けないことがストレスになることもありました。

そんな中、主人は「とりあえず頑張れよとしか言えないけれど」って感じで、わりと淡々としていたんです。不妊治療は二人の問題なのだからもう少し向き合ってほしいなと、夫婦間で温度差を感じることもありました。

——費用面はいかがでしたか? 今年(令和3年1月)から特定不妊治療(体外受精および顕微授精)に対する助成金が拡充されたのですが、そのことについてはどう思いますか?

費用は想像以上にかかりましたね。体外受精となると一気に跳ね上がるので、もうそれこそ支払いのカードも“無”の状態で通すって感じでした(笑)。でもそれで命を授かる可能性があるならお金には代えられないので、それまでの貯金はこのためだったんだなって思いながら病院に通っていましたね。

助成金の拡充はすごくいいことだと思います。正直、うらやましいです!金銭的な負担が減るだけでも、家族みんなが和やかに妊活に向き合えるようになると思います。お金の心配は心をギスギスさせてしまう要因にもなりますしね。何より、助成金によって新しい命の可能性が広がるのは素晴らしいことだと思います。興味のある方は自治体などのウェブサイトをのぞいてみてはいかがでしょうか。

厚生労働省より不妊に悩む方への特定治療支援事業の拡充が発表された
各自治体のウェブサイトにも情報が掲載されている。

—不妊治療について、周囲に相談することはあったのでしょうか?

もちろん信頼できる人たちには相談していたのですが、当時はまだ不妊治療をしていることを周囲に話しづらいなと感じていました。でもここ数年で時代は変わったと思います。不妊治療の内容をオープンに話している友人がいて「気持ちいがいいな!」って感じたんです。別に不妊治療は恥ずかしいことではないですからね。

今ではこうやってお話しすることで、不妊治療に対して勇気を持って挑める人がひとりでも増えたらいいなと思いますし、誰にも話せずに抱え込んでしまうと辛くなってしまうので、情報共有できる場があればいいなと思います。ただ、必ずしも望む結果につながるとは限らないものなので、すごくデリケートな問題だと認識しています。

“人生設計”をする上で大切なのは、自分の体を知ること

—不妊治療や妊娠・出産に対して、具体的にもっとこういう環境になればいいなと思うことはありますか?

不妊治療をする人は、必ずしも第一子というわけではなく、第二子、第三子と不妊治療される方もいるので、やっぱり子どもを預かってくれる場所をもっと増やしてほしいなと思います。病院自体に、不妊治療をしている方に配慮された託児施設があるといいですよね。出産後もお互いに仕事をしている状況では、預ける場所がないと「私も仕事だし」「いや、俺だって仕事だし」なんていうやり取りが夫婦げんかの火種になることもあるので、頼れる場所はたくさんあった方がいいなと思います。

—これから妊娠・出産を考える若い世代に向けて、メッセージをお願いします。

健康だと思っていても、特に女性は若いうちから検査をして、自分の体について知ることが大切だと思います。病気や体の不調はいろんなことが連動しているので、できれば何でも相談できる主治医を見つけてほしいです。将来的に子どもを授かりたいと思うなら、自分の体を知ることは“人生設計”をする上で大切なことですからね。自分の体を知ってねぎらう——。そんな予防医療的な視点を持つことも必要だと思います。うちでは今、主人の誕生日に二人で人間ドックに行くのが恒例です。

妊娠・出産に関しては、私自身、もっと早くに知っておきたかったことがたくさんありました。「まさか自分が!」と慌てないように、予備知識があるかないかでその後の動き方が大きく変わってきます。金銭の使い道もそうですよね。命に関わることは、生まれる前も生まれた後もパートナー同士二人の問題なので、女性だけではなく男性にも向き合ってほしいなと思います。

文・安海まりこ
写真・小笠原大介

※出典:厚生労働省、R2第3次補正「不妊に悩む方への特定治療支援事業」

■YELLOW SPHERE PROJECT/YSP
妊娠を希望してもなかなか叶わないという“社会課題”に対し、製品やサービス提供にとどまらず、妊活や不妊治療をする人々を支援し応援するプロジェクトです。目指すところは、より多くの人に適切な情報を伝えて、サポートの輪を広げ、人々の充実した暮らしという未来をつくることへの貢献です。新しい命を宿す為の努力を、皆が応援する社会へ。それが、YELLOW SPHERE PROJECTの先にある未来です。
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