INDEX
最新調査が示唆する2100年までに海面が1メートル以上上昇する可能性
大雨、洪水など、日本でも気候変動の影響と思われる現象が増えており、危機感を募らせる人は増えているのではないだろうか。
このような自然災害は、今後も増えてくることが見込まれる。
米国科学アカデミー紀要で2019年6月に発表された論文によると、これまで海面上昇は2100年までに最大で1メートル弱と考えられてきたが、別のモデルを用いて予測した場合、最悪の場合2メートルを超える可能性があることが判明。
温室効果ガスの排出が現在と同じ水準である場合、地球の気温は5度ほど上昇、これまで考慮されてこなかった南極氷床の溶解につながるためだという。
また、海洋学の学術誌Ocean Scienceで2021年2月に発表された論文でも、これまで考えられてきた以上に海面が上昇するリスクがあると指摘さている。コペンハーゲン大学・ニールス・ボーア研究所の研究者らがヒストリカルデータを用い、2100年までに海面が1メートル上昇する可能性を示したIPCCのモデルを評価したところ、IPCCの予測は数十センチ低い可能性が示されたのだ。
ニールス・ボーア研究所の予測では、海面は2100年までに最大で1.35メートル上昇する可能性があるとのこと。
これらの最新論文が示す最悪のシナリオを阻止するには、温室効果ガスの排出を大幅削減することが求められる。
パリ協定が採択され、一度離脱した米国が復帰するなど、一見世界的に温室効果ガス削減に向け足並みが揃っているように見える。しかし実際のところ、主要国の石炭利用は減っておらず、二酸化炭素排出の削減は思ったように進んでないのが現状だ。
国際エネルギー機関(IEA)がこのほど発表した「Global Energy Review 2021」では、2020年はロックダウンの影響で世界の二酸化炭素排出量は大きく減少したものの、2021年には過去2番目の規模に戻り、2030年までに二酸化炭素排出量を45%削減するという目標の達成は困難になる可能性が示されている。
これは中国や米国における石炭利用が増加していることに起因する。英ガーディアンや米CNBCによると、特に中国は石炭に依存する経済構造があり、経済発展を優先させ、今でも石炭火力発電所の建設計画が多数持ち上がっているという。
国の80%が海抜1メートルのモルディブ、洪水や侵食はすでに増加傾向
温暖化による海面上昇や洪水は、世界中の人々に影響を与えるが、特に海抜が低い小さな島国に与える影響は甚大なものだ。
インド洋の楽園と呼ばれ、日本人にもハネムーン旅行先として人気のモルディブは、国が消滅する危機に直面している。
島嶼国が海面上昇の影響を受け消滅する危機があるということは、かなり前から指摘されているが、上記の最新研究データや石炭利用が減らない現状、また実際に海岸侵食が進行するなどの事実などから、その危機感は一層高いものとなっている。
モルディブのアミナ・シャウナ環境・気候変動・テクノロジー相は2021年5月、米CNBCのインタビューで、同国が直面する現状を伝え、温室効果ガス削減取り組みで国際社会の団結が必要であることを強調。
モルディブにある1190の島々のうち80%は海抜1メートルで、海面上昇に対し非常に脆弱な状況だという。また、すでにモルディブの島々のうち、洪水が報告されたのは90%、海岸侵食が起こっているのは97%に上ると報告している。
2022年から建設始まるモルディブの浮かぶ島プロジェクト
現地の人々にとっても、世界の人々にとっても、モルディブが海に沈んでしまうことは是が非でも止めたいところ。
しかし、この先どのようなことが起こるのか確実な予測ができない以上、リスクを分散することは必要だ。
そんなモルディブでは、海面上昇に対応するため、浮かぶ島を建設する構想が持ち上がっている。
「The Maldives Floating City」と名付けられた政府主導のプロジェクトで、浮かぶ島の技術を専門とするオランダ企業Dutch Docklandsとの提携により進められている。
海面上昇対策では通常埋め立てを行う国が多いが、サンゴ礁への影響を回避するために、モルディブは浮かぶ島をつくり、そこに居住区・学校・病院などを建設する計画だ。
Dutch Docklandsによると、居住区不動産の価格は25万ドル(約2700万円)から。場所は、首都マレから10分のところにある環礁。地元民だけでなく、海外の居住者も誘致する狙いがあるという。
現在、プランニングの最終調整段階で、2022年から建設が開始される予定。完成までおよそ5年ほど要するとのことだ。
興味深いプロジェクトではあるが、浮かぶ島が必要ない状況を維持することのほうが優先課題だ。モルディブを含め脆弱な島嶼諸国を海面上昇で消滅させないためにも、政府・企業・個人の思考・行動の抜本的な変化が求められる。
文:細谷元(Livit)