パンデミックはこれまで営業の常識だった訪問のスタイルを大きく変えている。

非接触を実現するオンラインツールを活用した「リモート営業」、つまり、訪問せずともできる営業が、アフターコロナも普及すると考えられている。

今回は、アポ取りまでの工程にとどまらず、その先のプレゼンテーションにおいても成果を上げるためのリモート営業の鍵、視覚に訴えるオンラインプレゼンツールを紹介する。

対面営業にかかるコスト、リモート営業の活用範囲


リモート営業を詳しく見ていく前に、まずは従来の訪問営業との違いを見ていこう。

インターパーク社が2020年6月に実施した、「インサイドセールスの認知度および実施状況、活用状況の変化に関する実態調査」では、訪問営業にかかる年間コストや、リモート営業の効率を調査している。調査ではまず、訪問営業にかかる時間・費用を挙げている。

営業に伴う出張含む移動時間

70%の営業職が年間360時間以上をかけていると回答した。そのうち26%は、年間1,200時間以上を移動に費やしているという回答だった。これは1カ月の勤務時間を8時間x20日間=160時間とした場合、7.5カ月分の時間を営業に伴う移動時間として費やしていることになる。

営業経費(交通費・宿泊費など)

62%の営業職が年間12万円以上を費やしていると回答した。そのうち30%が、年間60万円以上を交通費や宿泊費として使っているという回答だった。これは新卒の営業職の年収が300万円台だとした場合、その5~6分の1ものコストが営業経費としてかかっていることになる。

70%の営業職が月30時間以上を訪問のための移動に、18%の営業職が月5万円以上を経費として使っていると回答(出典:インターパーク社のプレスリリース

次に、同調査では、リモート営業の活用範囲を調査している。

アポ獲得までを目的としているか、それとも商談までもオンラインで実施しているか、という質問では、「オンライン商談までしている」と回答した営業職が60%。さらにその半数が、「受注を完結させている」と回答した。

つまり、営業職の全体の30%が、先述のような移動時間や営業経費をほとんどかけずに、リモート営業だけで受注まで完結させているのである。

リモート営業で商談まで行う営業職は全体の6割。さらに全体の3割は、オンラインで商談まで完結させている(出典:インターパーク社のプレスリリース

成功するオンライン商談は、売り手主導で客観的データが鍵


では、リモート営業でオンライン商談まで完結している営業の秘訣はなんだろうか?

コグニティ社は2020年6月に「対面商談とオンライン商談の成約率の差に関する調査」を実施している。これによると、成約するオンライン商談の特徴は、数値などの客観情報を多用していること。

調査では、訪問とオンライン、それぞれの商談トークの構成を分析したところ、成約したオンライン商談の平均値として、「数値などの客観情報」が全体の7%ほど説明されていることが分かった。

それと比較して、訪問して成約した商談での「数値などの客観情報」の平均値は1%に留まっている。さらに、訪問して失注した商談のその平均値は6%となったため、訪問では主観情報、オンラインでは客観情報が重要であることが分かる。

成約するオンライン商談は、数値などの客観情報を多用している(出典:コグニティ社のプレスリリース

売り手からの情報量が増加、買い手からの質問は減少

本調査では、オンライン商談は訪問での商談に比べて、平均して12%ほど短い時間で実施される傾向にあることも分かった。

また、成約したオンライン商談では、売り手側の話す量が約13%増加していた。つまり、短い時間で売り手がより多くの情報を提供したほうが成約しやすいと言える。

これに呼応して、オンライン商談では買い手側からの質問回数は8%程度減少。ただし、5W1Hを問うようなオープン質問については、成約したオンライン商談にかぎっては回数が増えることが分かった。

こうした結果から、オンライン商談には数値などの客観的データと、売り手側からの積極的な情報提供が成約の鍵となることが分かる。また、商談時間の短縮は、(もし同条件での交渉であった場合は)、オンライン商談のほうが効率的であることを示している。

普段と違ったプレゼンテーションツールの活用


では、オンライン商談に欠かせないプレゼンテーションとは、どのようなものだろうか。

現在プレゼンテーションツールといえば、MicrosoftのPowerPoint、GoogleのGoogle Slide、そして、AppleのKeynoteを使用しているビジネスパーソンが大多数だろう。

そのため今回は、それ以外のツールであるPreziとSlidesを取り上げる。特にPreziはクリエイティブ職、Slidesはエンジニア職にオススメ。新製品の発表など、いつもと違った提案内容やデザインで顧客に印象づけたい際などに活用してみてはいかがだろうか。

デザイン思考で一歩先を進むPrezi

Preziの最大の特徴は、オープンキャンパスと呼ばれる、カメラが動いて見せたい場面を切り替えていくような独特な動きを取り入れられる点だ。全体図に各資料を配置し、ズームインやアウト、画像の回転を取り入れながら、説明したい箇所や見せたい部分を切りだしていく。

3次元とまではいかないが、2次元の可能性を最大限に示すため、Preziは2.5次元プレゼンテーションとも称される。ダイナミックな動きをつけたプレゼンを展開していくことで、個性的かつ視覚的にインパクトある印象を与えることが可能だ。

プレゼンを全体から俯瞰もできるため、質疑応答で以前のスライドに戻る際なども、時間をかけることなく該当箇所へスムーズに行ける。

また、プレゼン当事者とプレゼン資料を、同じ画面に表示できるのもPreziの売りだ。従来のプレゼンは、プレゼン画面が主体となり、話す当事者は小さい別画面で存在感を示せずにいることが多かった。Preziでは、話し手がきちんと相手と対面しながらプレゼンをすることが可能だ。

Preziは話し手の画面にプレゼンを取り入れるという、対話を重視した構図になっている(出典:Preziのウェブサイト)

テンプレートはプロのデザイナーが作成したものが用意されているため、非常にデザイン性が高く、美しく仕上がる点も魅力だ。

エンジニアや開発者に適したSlides

直感的な操作が多く、エンジニアやデザイナーに嬉しいオープンソースのSlides

Slidesはプログラムコードをクロールバー付きで埋め込んだり、数式を見やすく配置できるといった特徴を持つプレゼンテーションツール。

完全にオープンソースフォーマットというのもエンジニアやデザイナーにとっては魅力的で、エディター内で直接HTMLとCSSの機能を活用できる。

プレゼンを上下左右、自由に移動させることができるのも、既存のプレゼンテーションツールにはない機能だ。スライドのデザインや色も人の目を引くようなものが多く、顧客の視覚に訴えかけるキャッチーな動きを付けたスライドの作成も可能だ。

また、オンライン配信やスマホを連携させてリモコンとして使用できる機能なども搭載されている。YouTubeやVimeoなどの動画の埋め込みも画像編集のように直感的に操作できる。資料をホームページなどに埋め込んで共有することも可能だ。

Prezi、Slidesどちらもクラウドで作成・編集が可能であるため、パソコンはもちろん、タブレットやスマホでもインターネット環境があれば作業が可能だ。チームメンバー内での共有や共同作業、リモートプレゼンに向いている。

非接触で場所を選ばす営業コストもかからない、これからも需要が多くなるであろうリモート営業。数値などの客観的データと売り手側からの積極的な情報提供を成約の鍵とし、視覚的にも魅力的な顧客の心をつかむプレゼンテーションツールの高度な活用が、その可能性を大きく広げていくだろう。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit

参考資料
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000048404.html
https://cognitee.me/pr/?p=3379
https://prezi.com/ja/
https://slides.com/