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グローバル企業で増える「最高サステナビリティ責任者(CSO)」
IKEA、マスターカード、クレディ・スイス、シティバンクなどグローバル企業で「最高サステナビリティ責任者(CSO)」という役職があることは、日本ではあまり知られていないかもしれない。
昨今のSDGsやESGなど持続可能性をめぐる世界的な潮流において、サステナビリティがもはや企業活動で無視できない課題となっていること、また環境課題の拡大・深化・複雑化を背景に、企業のサステナビリティ取り組みの全体を取り仕切るCSOを設け、リスクを管理しようという企業が増えているのだ。
今後2年でCSOの重要性はさらに増してくるだろうと見られており、グローバル企業における人事やキャリアに注目が集まることが見込まれる。
これらは欧米企業発の動きだが、アジアの大手企業の間でもCSOを新設したり、任命する動きが活発化しつつある。
たとえば、シンガポールの銀行大手UOBは2021年4月、ホールセール・バンキング部門の責任者エリック・リム氏をCSOに任命したと発表。同行のサステナビリティ取り組みやサステナビリティ投資を統括するとしている。また、シンガポールのメディア・コープも同年4月21日に、編集責任者ウォルター・フェルナンデス氏をCSOに任命。サステナビリティ取り組みに対し、同社が長期的にコミットする姿勢を示す動きと捉えられている。
関心が集まるCSOとはどのよう役割を担い、どのようなスキルセットが求められるのか、最新調査や事例から探ってみたい。
デロイト、今後2年でCSOの重要性増大
CSOに関して、デロイトが2021年2月に発表した「The Future of the Chief Sustainability Officer」レポートは、大局を捉えるのに役立つはずだ。
この調査レポートでは、金融機関70社以上のサステナビリティ責任者に、CSO、またはそれに相当する役職に関する聞き取りを実施し、CSOに求められる役割やスキルセットをあぶり出している。
調査対象となった金融機関の総運用資産は19兆7000億ドル(約2133兆円)。非金融企業の株価や評価にも影響するため、これら金融機関がサステナビリティをどう捉えているのかは非常に重要なトピックといえるだろう。
まず「CSO」という役職が存在するとの回答は15%弱となったのものの、半数近くが「サステナビリティ責任者」やそれに相当する役職があると回答。また12%が「ESG責任者」を設けていると答えており、全体的にサステナビリティ取り組みを統括する役職を持つ金融機関が少なくないことが明らかになった。
調査で明らかになったCSOの役割は大きく3つ。1つは外部環境の変化を理解し、そのインサイトを企業に伝えること。2つ目は、外部環境の変化を加味した企業の戦略策定を支援すること。そして3つ目が啓蒙や連携などを通じて、経営層とチームがサステナビリティ取り組みに従事できる環境を整えることだ。
これを遂行するには環境関連の専門知識だけでなく、説得・連携するためのソフトスキル、忍耐力など、多岐に渡るスキルが求められる。
昨今のサステナビリティをめぐるステークホルダーの動きを見ると、CSOに求められる役割がイメージしやすいかもしれない。デロイトの調査では、金融機関が対象となっているが、非金融企業にも当てはまるところは多いはずだ。
まず企業をとりまく外部環境変化として挙げられるのは、投資家やレーティング機関の変化だ。企業に対するESG関連の透明性を求める投資家の声が強まり、レーティング機関によるESGに関する質問が増えている状況。CSOは自社事業の環境インパクトを把握し、どのような取り組みが、どのようなサステナビリティ効果につながるのかを伝える必要がある。
また消費者の意識変化やNGOとの折衝などにも対応しなくてはならない。消費者の環境意識は高まっているといわれるなか、企業活動にサステナビリティがどのように組み込まれているのか、明確なメッセージを伝えることが求めれる。NGOに対しては、対応を誤ればボイコットキャンペーンなどのリスクを招くため、適切なアプローチを模索することが求められる。
さらにCSOは労働市場の変化にも目を向ける必要がある。ミレニアル世代やZ世代の間では、企業のサステナビリティ取り組みを就職・転職基準に設けている人は多いといわれており、人材を確保・維持する上でも重要な事項となるからだ。
このほかにも対外的に、行政やロビーグループなど様々なステークホルダーに対応することが求められる。
対外・社内で多数のステークホルダーに関わるCSO。デロイトのレポートでは、CSOの「O」はorchestrationを指すといっても過言ではないと指摘。CSOには、多数のステークホルダーを調和させるスキルが求められるということだ。
CSOに求められるキャリア、スキル、知識
調和力が求められるCSO。どのようなキャリアの人物がCSOになっているのか気になるところ。
イケアを傘下に持つインカ・グループでは女性CSOピア・ヘンデンマーク・クック氏がサステナビリティ取り組みを統括している。
2000年にスウェーデン企業の環境コンサルタントとしてキャリアをスタート。その後、ベルギーホテルのレスポンシブル・ビジネス部門を経て、2008年にイケアのコミュニケーション部門責任者に就任。その後、2011〜2017年イケアのサステナビリティ責任者を経て、2017年1月にCSOに就任した。
クック氏は、この間にも「リテール業界環境アクションフォーラム(REAP)」の議長を務めており、環境知識に加え、コミュニケーションスキル持ち、ネットワークに強みを持つ人物であることがうかがえる。
一方、マスターカードでは女性CSOクリスティーナ・クロバーダンツ氏がサステナビリティ取り組みを統括。同氏は、IBMのマーケティング部門でキャリアを開始。IBMではマーケティング部門を経て、NGOと連携するプロジェクトを担当し、2013年に同社CSR責任者に就任している。
その後2017年にマスターカードのコーポレート・サステナビリティ部門のヴァイスプレジデントを経て、2018年5月に同社初となるCSOに就任した。こちらもネットワークやコミュニケーションスキルの高さを示すキャリアといえるだろう。
サステナビリティ取り組みは北欧を始め欧米企業が先行している印象がある。今後はアジアでどのような企業がCSOを新設・任命するのか、その動向に注視していきたい。
文:細谷元(Livit)
参考
https://www.channelnewsasia.com/news/business/mediacorp-editor-chief-walter-fernandez-sustainability-officer-14665174
https://www.peoplemattersglobal.com/news/c-suite/uob-appoints-eric-lim-as-chief-sustainability-officer-28982
https://www2.deloitte.com/global/en/pages/financial-services/articles/the-future-of-the-chief-sustainability-officer.html