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ニュージーランドの遺言信託企業、パーペチュアル・ガーディアンは、世界の企業の先陣を切り、週4日勤務制を本格的に採用し、2018年話題になった。同社は現在も、この勤務体制を維持しており、社員にもすっかり浸透している。
一方、昨年は世界中の人々が新型コロナウイルスに翻弄される生活を送った。今年になり、期待のワクチンの供給が始まったにも関わらず、コロナの勢いは衰えを見せない。この危機的状況に、従来の社会状況であれば、あまり興味を示さなかっただろう企業も、勤務時間短縮を目指すようになった。
時短導入の方法の1つが週4日勤務制だ。企業の業務内容はさまざまで、週4日勤務制が合わないこともある。それでも企業はあきらめず、自社に最適な時短勤務の策を練る。
週4日勤務制が広まったのは、コロナの蔓延のおかげ
週4日勤務制とは言うまでもなく、1週間のうちの4日間を仕事に充てるということだ。週4日勤務制実現には、2つのやり方がある。1つは、週40時間という従来の勤務時間を30か32時間に減らし、それを5日でなく、4日でこなす。そしてもう1つは、週40時間の勤務時間は維持し、1日の勤務時間を10時間に増やす。そうすれば、自動的に週4日勤務になるというわけだ。
雇用者は口をそろえて、コロナの大流行が、週4日勤務制を取り入れようという企業の背中を押してくれたと言う。コロナの影響で各国とも経済状態が悪化。失業率が上昇する中で、雇用者は従業員の安全を考慮しつつ、コストを抑えながらも生産性が高い勤務体制を導入すべく、模索・検討しているのだという。
週4日勤務制に移行できたら、出勤時間をフレキシブルにし、通勤ラッシュを避けての出勤を促せば、途中でコロナに感染する可能性を低くできる。勤務時間帯が従業員によってずれると、社内の人数が減るので、オフィスでのソーシャルディスタンスが維持できる。また従業員各々の勤務時間が減る分、解雇される人の数も減る。
すると、企業内に蓄積された知識や能力を維持することができると同時に、貧困に苦しむ人も減らすことができる。企業にしてみれば、好況時の再雇用のコストも減る。勤務時間がまったく重ならない場合は、オフィス家具1人分を2人でシェアできる。
英国を拠点とした「4デー・ウィーク・キャンペーン」の主宰者の1人、ジョン・ライルさんは、ニュース専門放送局、CNBCの電話取材に対し、次のように答えている。コロナのロックダウン時には、多くの人が自宅勤務を余儀なくされた。この経験から、瞬時に勤務体制を大きく変えることも可能だと思い知ったのだという。
昨年12月末、英国のシンクタンク、オートノミーは、国内の企業が週4日勤務制に移行することができるかを探った報告書、「ザ・デー・アフター・トゥモロー;ストレス・テスツ・アフォーダビリティ・ザ・ロードマップ・トゥ・ザ・フォー・デー・ウィーク」という研究報告書を発表した。
もし何の準備もせずに週4日勤務制に移ったら、企業は生き残れるのか、国内5万社を超える企業の収益性をもとに研究されている。それによれば、最悪でも、コロナ危機の初期段階を過ぎれば、ほとんどの国内企業で従業員の賃金を下げずに週4日勤務制を導入できるだろうという結果が出ている。
ユニリーバも週4日勤務制を試験導入中
世界的な大企業であるユニリーバのニュージーランド支社が昨年12月から1年間の予定で、週4日勤務制を試験的に導入している。パーペチュアル・ガーディアンをお手本にしており、賃金を100%維持する一方で、勤務時間を従来の80%に短縮している。各社員の能力が最も生かされるよう、誰がいつ、どのように働くかは社内で決定された。
今回の取り組みは、社員とビジネスの両方のウェルビーイングを向上させようというユニリーバの目標に基づくものだ。ニュージーランド支社のニック・バングス常務取締役は、どれだけ時間をかけたかではなく、どれだけ高い生産性を上げたかを評価し、業績としたいと話す。
ユニリーバ・ニュージーランドは、豪州シドニーにあるシドニー工科大学ビジネススクールと協力し、今回の試験導入がもたらす質的データを報告してもらうことになっている。
週4日勤務制へ移行するために、一部の社員は「アジャイル・プロジェクト・マネージメント」のトレーニングを受けている。これは、作業を短い段階に分け、頻繁に計画の見直しや修正を行うプロジェクト管理方法のことだ。付加価値のつかない仕事や、不必要な事務手続きを取り除く役割もある。
バングス常務取締役は、従来の1日8時間、週5日勤務は時代遅れだと指摘する。ワークライフ・バランスを総体的に理解し、心と身体両方の改善を図るべきなのだ。この1年間で学ぶことを、国内の他社とも分かち合いたいと考えている。
建設業者でも取り入れることが可能な週4日勤務制
ユニリーバのほかにも、ニュージーランド国内では、今さまざまな業種の企業が時短の方向で勤務体制の改善を進めている。各社とも従業員と相談の上、個々の企業にふさわしい方法を見つけようと努力しているのだ。
例えば、北島中央部のワイカト地方に拠点を置くケリック・グループ。グループ傘下には建築事務所と建設会社があり、従業員は50人だ。最近、グループ全体で週4日勤務制を開始した。テクノロジーの進化が著しいため、週に4日あれば仕事はこなせるはずと実践に踏み切ったそうだ。
新しい勤務制に最も抵抗を見せたのは、建設会社の従業員。納期に遅れずに作業を進められるか不安があったからだ。遅れないためにはスケジュールを綿密に立て、それに沿って作業を行う必要がある。悪天候や資材の配送遅れなど、避けようがない遅延が生じた場合には、休みの日を作業に当てることもあるそうだ。
しかし、試験期間中に予定通り建設作業を終えられたことで、週4日勤務制を受け入れられたのだという。
北島のハミルトンを拠点としたロングヴェルトは、第一次産品の食品の加工機械やシステムなどの製造を手がけている。7カ月のトライアル期間を経、85%の従業員の賛同を経て、1日10時間、週4日勤務制の導入に踏み切った。75人いる従業員の80%が機器の製造に携わる。残業する必要があれば、金曜に行うようにし、週末は自分や家族のために使うように心がけているそうだ。
PRエージェンシー、マナ・コミュニケーションズはニュージーランドのウェリントンと、オーストラリアのシドニーの2都市で。PR業務を行っている。2週間のうちの9日間勤務というモデルを1年以上続けている。オフィスは交互に隔週月曜日に休みを取るようになっているため、クライアントから連絡が入った場合、必ずどちらかが対応できるようになっている。
スペインで3年にわたる本格的トライアル
今までフランス、フィンランド、スウェーデンなどが週4日勤務制や週6日勤務制などの導入を試みてきた。そこに加わったのがスペインだ。イニゴ・エレホン マス・パイス党党首は今年のはじめ、提案した週4日勤務制のトライアルプログラムが、政府によって承認を受けたことを今年のはじめ、発表した。
全国規模で3年間にわたって行われるこのプログラムに、サンチェス政権は、5000万ユーロ(約66億円)の公的資金を投入することに合意している。
労働時間は従来の40時間より減って32時間になるが、賃金はそのままを維持。政府の援助金は、労働者の追加雇用や新しい技術の導入にかかる費用に使われる。プログラムの開始は今秋が予定されている。
国によってまちまちではあるが、私たちが8時間労働制の権利を獲得したのは19世紀後半のことだ。それより前と比較して少ない時間で、できるだけ効率よく、たくさんの商品を生産することに努めてきた。今度は進歩を続けるテクノロジーが味方だ。週4日勤務制が確立する日は意外に早く来るかもしれない。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)