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プライベートフライトの民主化、コロナで変わる空の旅
コロナ禍で観光や出張における飛行機利用が大幅に減少したことで、世界の航空産業は大打撃を被った。国際航空運送協会(IATA)によると、2020年世界の航空サービス需要は前年比65.9%減となり、損失額は1180億ドル(約12兆7000億円)に上った。
2021年に入りワクチン接種が始まり状況は改善するかと思われたが、変異株の拡大懸念により、航空需要がパンデミック前に戻るシナリオは少し遠のいた感もある。
そんな悲観的な空気が漂う航空産業だが、別の形で改善する可能性はゼロではない。
これまで一部の富裕層のみが利用していたプライベートフライトだが、ここ最近そのようなサービスを利用したことがない層の関心を呼び、需要が急速に拡大しているのだ。大型ジェットによる感染リスク懸念やプライベートフライト関連情報へのアクセス改善、価格低下などが背景にあるといわれている。
需要の伸びに呼応し、関連スタートアップへの関心が高まり、投資も拡大傾向にある。たとえば、ウーバーの共同創業者ギャレット・キャンプ氏が創業したプライベートフライトサービス企業Aeroは、コロナ禍の2021年1月に3回目となる資金調達を実施し2000万ドルの資金を獲得、累計の調達額は3950万ドルに達した。
プライベートフライトと聞くと最低でも何百万円かかるというイメージがあるが、Aeroの米国内フライトは片道1250ドル(約13万円)からと、これまでのイメージを覆すものだ。
またビル・ゲイツ氏の個人資産管理会社と呼ばれる投資会社Cascade Investmentもプライベートジェットの燃料供給やアメニティ供給を行うSignature Aviationの買収に興味を示しているとの報道もある。
この数年、ホンダジェットの売上好調というニュースが日本でも聞かれ、プライベートジェット/フライトに対する世間一般の認知も高まりつつある状況。世界のプライベートフライト市場はどのような様相なのか、その動向を追ってみたい。
2020年プライベートフライト需要ほぼ回復、2021年にはパンデミック前水準に
プライベートジェット/フライト市場の好調ぶりはデータから読み取ることができる。
冒頭で示したように、2020年世界の航空サービス需要は前年比で65.9%という大幅な減少となった。
一方、ドイツ・ハンブルクの航空データ会社WingXの調査では、プライベートジェット/フライト需要は、2019年の水準まで回復しつつあることが浮き彫りになっている。同社のデータによると、2020年12月のプライベートジェット需要は、前年比11%減とパンデミック以降最も良いパフォーマンスとなったことが判明したのだ。これは主にクリスマス休暇による利用が増えたことに起因するという。
この需要の3分の2が米国発。フロリダ発のフライトが多く、主要な目的地はメキシコやカリブ海諸国だった。
一方、欧州で最もプライベートジェットの発着が多かったのはフランスのル・ブルジェ空港。ただし、前年比では依然29%減と、米国ほどの回復は見られなかった。フライト数の伸び率では、モスクワードバイ間、モスクワーサンクトペテルブルク間の増加が顕著だった。
これらのフライトでどのような機体が利用されたのかというデータも公表されている。
WingXの調査によると、2020年12月に前年同月比で利用が増えた機体は、超軽量タイプ、エントリーレベル、ライトジェット、中型ジェットの4種類。一方、重量タイプと長距離タイプはともに前年比で利用が減ったという。
同月ライトジェットで最も利用されたのは、ブラジルの航空機メーカー「エンブラエル」が開発した小型ジェット「フェノム300」。同モデルは全長16メートルで11人乗り。全長13メートルのホンダジェットとほぼ同じ大きさの小型ジェットだ。
WingXのデータは、他社に比べ燃費や快適さで高い評価を受けるホンダジェットにとって、さらなる追い風が吹く可能性を示すものといえるのかもしれない。
プライベートフライト界のウーバー/エアビー目指す競争激化
最近米国での上場予定が報じられているWheels Upもプライベートフライト市場で注目される企業の1つだ。
米CNBC2月1日の報道によると、Wheels Upは特別買収目的会社との合併により近々上場する計画があるという。2019年時点で同社の評価額は10億ドル(約1080億円)ほどだったが、上場時には2倍以上の20億ドル超えになる見込みだ。合併は第2四半期中に完了するとのこと。
CNBCは、単独のプライベートフライト企業が上場するのは初めてのケースであり、プライベートフライト界のウーバー/エアビーを目指す競争で、Wheels Upが一歩抜きん出る可能性があると報じている。
旅行メディアConde Nasto Travellerは2021年4月21日、盛り上がるプライベートフライト市場の特集記事を公開、その中でWheels Upを「伝統的なチャーターサービス」に分類。これは、ジェットカードを購入して、そのカードの残高でプライベートフライトを利用できる仕組みのサービス。同カテゴリにはWheels Upのほか、Blade、Air Partner、Private Fly、Jetlly、Victorなど多数の競合が存在している。
Wheels Upの競合はこれだけではない。Conde Nasto Travellerが「オープンマーケット・チャーターサービス」と分類する企業も競合相手となる。このカテゴリに含まれているのは、JetASAPとFlyJetsの2社。
JetASAPは2020年11月に「空の旅のエアビー」を標榜し登場した新サービス。スマホでプライベートフライトを検索し、予約できる文字通りエアビー感覚のサービスだ。
FlyJetsも2020年1月に登場した比較的新しいサービス。プライベートフライトの検索エンジンで、航空機のサイズ、離陸ポイント、離陸時間などから目的に合ったプライベートフライトを探すことができる。マーケットプレイスと分類されている通り、需要が低いタイミングだとコストを抑えることができ、平均的なチャーターコストに比べ50%ほど安い価格でプライベートフライトを利用することも可能という。
米国では一部メディアで「プライベートフライトの民主化」という言葉が聞かれるほど、広く浸透しつつあるプライベートフライト。空の旅のニューノーマルとなるのか、今後の展開が気になるところだ。
文:細谷元(Livit)
参考
https://wingx-advance.com/christmas-surge-in-business-jet-traffic/
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2021-01-21/signature-aviation-is-hot-target-as-private-jets-gain-attention-in-pandemic
https://www.iata.org/
https://www.cnbc.com/2021/02/01/private-jet-company-wheels-up-to-go-public-in-a-2-billion-spac-deal-.html
https://www.cntraveler.com/story/all-the-ways-to-fly-private-starting-at-dollar100-per-flight#intcid=_bert-mab-experiment-test-with-bert_a53d2edc-2c43-4d37-a799-8bc7c95f459e_similar2-3-personalized