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「働きバチ」、1955~1970年ごろの高度経済成長時代には、そう揶揄された日本人の働き方。あれから半世紀以上が経ったが、果たしてそれは変わっただろうか。
働きすぎというのは十分に自覚している。なぜ、それでも変わりにくいのか。そもそも日本の働き方はどのように独特で、今後変われるのか。海外の視点から深掘りする。
「統計上の」数字は長時間労働ではない
働きすぎで疲れ果てている日本のサラリーマン(ウーマン)像だが、世界的な統計からすると意外にも長時間労働ではない。OECD(世界経済協力機構)が毎年発表している年間労働時間によると、日本の労働時間は2012年以降、過去10年減少傾向にある。
2019年の統計で1,664時間だった日本の労働時間は、世界第1位のメキシコの2,137時間やお隣韓国の1,967時間よりもはるかに短く、さらに、アメリカやイタリア、オーストラリア、スペイン、カナダよりも短くなっており、全体的にも中位ランクにとどまっているのだ。
しかし、この数字には「パートタイム労働者の勤務時間を含む」という点に仕掛けがある。日本ではパートタイム労働者の比率は年々上昇しているため、労働時間が「全体的には」減少しているのだと指摘されている。
つまり、非正規雇用者の割合が増えるに従い、一人当たりの労働時間は減少しているかのように見えるものの、実際は正社員の労働時間は高止まりの「約2,000時間」という現実が、統計の数字の中に隠れているのだ(経団連発表の集計結果による)。
海外から見た日本
日本は第二次世界大戦後、持ち前の勤勉さによって10年という短期間で急速に復興し、高度経済成長期に入った。焼け野原からの復興は、1960年半ばにアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国と なった歴史をもたどる。
その後のバブル経済真っ只中、1989年に流行語となった「24時間戦えますか」は、今なお語り継がれる当時の「ジャパニーズ・ビジネスマン」の姿だ。
海外の企業研修では、日本語の「カイゼン(改善)」が多用されていることはよく知られているが、不名誉なことに2002年には「カロウシ(過労死)」「ザンギョウ(残業)」がオックスフォード英語辞典に登録された。
海外からのインバウンド客は、日本のホスピタリティ「おもてなし」に感動すると同時に、通勤電車の混雑ぶりもまた「日本に来たら体験すべき」スポットとして注目され、渋谷のスクランブル交差点同様、インスタ映えする名所となっている。
乗り切れない乗客を駅員が押し込む風景は日本独特のラッシュアワー。実は多くの外国人から ”賞賛” されているのだ。
英語の日本旅行情報サイト「Japan-Guide.com」に紹介されている日本のラッシュアワー。この時間の駅と電車は、スムーズな人流のためにすべてが体系化されており、大きな荷物や小さな子どもの同伴には避けるべき時間とされている。
日本人は長い時間をかけて毎日通勤をこなし、長時間働いた後もまた朝と同じだけの時間をかけて家路に着く。
かつては、夜に首都高速道路を走れば、明るいオフィスの夜景や中で残業するスーツ姿のビジネスマンが手に取るように見えると話題になったほど、働く日本人の姿は外国人の目に印象深く焼きついた。
日本人の生活は苦難に満ちているがそれでもなお、社会の秩序が保たれ、人びとは礼儀正しく、他のアジアの国に比べても「圧倒的に静か」だと高く評価されている。
休みの取り方
長い労働時間はゆっくりとした休暇や休日で救われるが、日本の場合はまた異なるようだ。
オンライン旅行サイト「Expedia」が2018年に発表した統計によると、調査対象19カ国のうち日本の有給休暇消化率は最低の50%、平均で毎年10日間の休暇を利用せずに放棄しているとの結果であった。
政府は2020年までに70%の有給休暇取得率を目標として掲げていたが、Expediaの統計を見るだけでも現実との乖離は大きい。心当たりのある読者もいるのではないだろうか。
労働者の権利である有給休暇の取得がしづらい雰囲気があるとの指摘もある。休暇を取ることによって仕事が滞り、部署内や社内、そして顧客や取引先に迷惑がかかるという概念が根強く残っているからだ。
2018年10月にエクスペディア社が発表した国別年次休暇「未取得」率。日本は20日の有給休暇のうち10日しか取得していない。
前述の統計では休暇を取らない一番の理由として、「休暇を取得することに罪悪感があるから」と58%の人が答え、「雇用主は休暇取得に協力的だ」と答えた日本人は調査国中、最低の43%にとどまった。
また、休暇を取得すると個人の評価に不利だと考える人も少なくない。こうした現象は、休暇を取った同僚が休み明けに旅先の「おみやげ」を社内で配り歩くという、これまた日本独特の習慣にも表れている。まるで休暇を取ったことを周囲に詫びてまわっているようにも映る。
外国人には独特に映る職場文化
調和を大事にし、空気を読む日本の企業文化では、なにをするわけでもなくオフィスに残る残業 という”不思議な”現象もある。
定時きっかりにオフィスを出ず、なんとなく周囲の人に合わせて帰宅準備をしたり、真っ先にオフィスを出るのが自分にならないよう様子をうかがったり。接待などで会社を早々に出た上司が、食事の後にオフィスに戻って来るかもしれないといった事態に備えて、上司が家路に着くのを確認するまでは帰宅できない暗黙のプレッシャーもあると聞く。
また、日本の独特なサラリーマン像として海外で取り上げられるのが、仕事終わりの飲み会だ。
「飲みニケーション」と称して仕事が終わってもなお、同僚や上司と飲食をともにする。「コロナ禍でなくなってしまって寂しいこと」のナンバーワンにあげられるのも仕事終わりの飲み会。日本人にとってはすでに欠かせない大事なルーティーンになっているのだ。
日本のこうした働き方は、終身雇用制度にも下支えされてきた。新卒を一斉に採用し、めったなことでは解雇もないのが一般的。労働者は雇用主に忠実で、安定した雇用が保持できる。これもまた、調和を重んじる日本の文化、労働環境ならではの産物だったのかも知れない。
コロナで変革を迫られる世界情勢
2020年にはコロナウイルスの感染拡大にともない、テレワークが一気に加速した。もはや企業だけの問題でなく、社会全体、世界規模での変革に企業も個人も従うほかなかったであろう。
それでも、一部の日本企業では「テレワークの体制が整っていない」「デジタル化の遅れといったシステムの問題から対面でないとやはり商談が成立しない」「オンライン会議はこれまでのような生産性が望めない」といった心理的な障害まで、さまざまな問題が露呈している。
そうした細やかなコミュニケーションをデジタルデバイスでどこまでカバーできるのか、ビデオ会議やチャットに不慣れな世代とデジタル世代のコミュニケーションギャップをどう埋めていくのかもまた、今後の課題だ。
日本の働き方は変われるのか?
そんな日本でも近年、働きすぎを解消し、ワーク・ライフバランスを見直そうとする試みがいくつか実施された。
2016年には新たに「山の日」が祝日の仲間入りをし、年間の祝日は16日に増加。2017年にはプレミアムフライデーを導入。2018年には働き方改革関連法が国会で成立。
月末には15時に仕事を終了し、個人消費を喚起するためも「プレミアムフライデー」も導入。実際に活用した人は最高でも11%前後との結果となったが、これをきっかけに仕事の効率アップや人員配置を見直すきっかけになった企業は増えただろうと希望を持ちたい。
また、政府は今年4月、「選択的週休3日制」の導入について検討を進めていると報じられている。
2019年8月には日本マイクロソフト社が、試験的に週休3日・勤務4日を導入し、生産性が40%も向上したとする結果を発表した。印刷による紙やオフィス電力の使用などのコスト削減ばかりでなく、少人数での短時間会議の増加、リモート会議実施率の上昇、それに人材交流が10%アップしたという結果も出た。
最新の多様なツールにアクセスできるマイクロソフト社だからできるのでは、と見る向きもあるが、全世界的に見ると、日本マイクロソフト社にも日本独特の効率の悪さがあった。世界平均で見ると日本ではメールの利用が24%多く、「Cc」をしている人数も31%多い、会議の時間は17%長いうえに、参加者も11%多かったと同社は分析している。
日本が乗り越えてきたのは、戦後の焼け野原だけではない。バブル経済の崩壊、東日本大震災、大規模台風などの自然災害。インフラが崩壊したために出社しづらくなってもなお、会社へ向かう日本人の姿があった。
しかしながら、今般のコロナウイルスの長引くパンデミックに全世界があえぐ中、日本だけが今までのやり方で再び乗り越えられるのだろうか。世代交代とともに変化するよりも前倒しで転換期を迎えている今、変われない真因を探り、プロセスを見直すチャンスなのかもしれない。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)
参考
https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_work_environment
https://hivelife.com/work-culture-japan/
https://www.youtube.com/watch?v=9Y-YJEtxHeo
https://www.bbc.com/worklife/article/20200114-how-the-japanese-are-putting-an-end-to-death-from-overwork
https://viewfinder.expedia.com/how-to-use-your-vacation-time/
https://edition.cnn.com/2020/04/02/business/japan-coronavirus-work-lockdown-guilt-hnk-intl/index.html
https://www.japan-guide.com/e/e2020.html