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近年、消費者間でのフリマアプリが台頭し、サステナビリティへの意識の高まりから活発になってきたリユース市場。中でも高額なブランド品の買い取りを行う「なんぼや」を運営するバリュエンスグループは、独自のビジネスモデルを構築し、業界のリーディングカンパニーとして注目を集めている。
元Jリーガーというユニークな経歴を持つグループCEOの嵜本晋輔氏に、リユース市場を席巻する「なんぼや」のビジネスモデルについて伺う。話を進める中で見えてきたのは、社会の変容に伴う既存システムへの危機意識と、次の時代を予見して事業を推し進める強い未来志向だ。
「なんぼや」を運営するバリュエンスグループ独自の“CtoBtoB”ビジネスモデルとは?
——“CtoBtoB”とは、どのようなビジネスモデルなのでしょうか? 構築した背景などをお聞かせください。
僕たちのビジネスは、時計やジュエリー、アパレル、そして骨董品や美術品を一般の消費者から買い取り、流通業者へ販売することをメインで行っています。コンシューマー(消費者:C)から物を買い、ビジネス事業者(B)に流すので“CtoBtoB”と呼んでいます。
創業当初からこのビジネスモデルをスタートしたわけではありません。もともと買い取った物は、大手のオークションサイトに出品していました。当時は競合他社が多くなかったので、出品した物は想像している価格よりも高く売れていたのですが、次第に事業者がたくさん参入し、競争が激化してきました。これまでマーケットに1点しか存在しなかった物が、どんどん増えてきたわけです。それにより消費者の興味や関心が分散して、入札数や落札額が平均化していき、僕たちが見込んでいる価格よりも安く落札されることが多くなってきました。
ずっとこの土俵で戦っていては良い結果は生まれないと予想ができたので、競合他社が目をつけていないマーケットにコストをかけずに売り出すことを考えました。そこで生まれたのが“CtoBtoB”の流れです。
僕たちもCtoBtoCで売れ残った在庫商品を販売するため、他社の運営する事業者向けのオークションを利用していたのですが、そこでは、消費者へのマーケティングコストをかけられないため、思い切って事業者に流している企業がありました。実際にその数字を見てみると、大手オークションサイトの価格とそこまで差がなく流通しており、 “CtoBtoB”の方が効率的であることがわかったのです。
他社のオークションサイトに依存するのもリスキーなため、2013年の4月に自社のオークションを立ち上げるに至りました。
オークション事業者の多くは出品商品を委託で募り、売り主と買い主の間に入って委託手数料や仲介手数料を収入モデルとしていますが、僕たちのユニークなところは、出品する物のほとんどを自社で仕入れているところです。なるべく、まだ誰の目にも触れていない“鮮度の高い商品”を取り扱っています。買い主からすれば転売意欲の上がる商品しか出品していませんから、買い手が集まり、高く落札していく流れを構築できたのだと思います。
——消費者同士が直接売買するCtoCのアプリが台頭していますが、「なんぼや」との違いはどこにありますか?
大きくは2つあります。大手のCtoCサイトを見ると、高単価のものが扱われづらい性質があり、少額資金ニーズを満たし合っていますが、僕たちは時計やバッグなどのブランド品をはじめとした高単価商材を扱い、高額資金ニーズに応えることができます。
もう1つはスピードです。CtoCはいつ売れるかわからないリスクがあります。一方で「なんぼや」は、店頭に持ち込んでいただければ約20分の商談で、平均10万円以上の買い取り金額をお支払いしています。持ち込めば確実にキャッシュを受け取れる即金であることが特徴です。
いま述べた2つの理由により消費者がサービスを使い分けておりますので、現時点でCtoCは競合ではないと認識しています。ただ、5年後10年後も同じではないと思っているので、先を見据えた準備を着々と進めなければなりません。
鑑定士からコンシェルジュへ。AI時代に求められる“人間力”
——時代の変化が激しいですが、いま「なんぼや」が成長のために大切にしていることは何ですか?
まず、僕たちが重要だと考えているのは、商品を見極める力、それにプライシングです。買い取った商品が我々の市場で正しく取引されるかどうか、そしてその物の価値がいくらであるのかを、きちんと見定めることです。しかしいずれは、いつどこで何を買ったのかをデータとして記録することで、事業者のデータと消費者の購買データを紐づけ自動で商品を判別し、プライシングできる時代が来ると思います。
そうすると、従来の鑑定士の仕事はなくなってしまいますが、言ってしまえば人がやらなくてもいい仕事を人がやっていたわけです。そこで重要になるのが“人間力”です。Face to Faceでいかに信頼を勝ち取れるかが大きな意味を持ってくるでしょう。
いま我々の業界ではAI診断が増えています。AIに本物を学習させ、偽物が来たときに弾くシステムです。全商品を100%の精度にするにはもう少し時間がかかりますし、現時点では鑑定士の方が正しく診断できます。しかし、3年後ぐらいにはAIの精度が追いつく見込みですので、人が提供する体験価値により事業を差別化するようになると思います。
ですから僕たちは「鑑定士」のことを、お客さまをもてなし、リユースという“体験”を提供する存在として「コンシェルジュ」と呼んでいます。
価値と紐づくものは価格ではなく体験です。価格は重要ですが、お店はスムーズなサービスや接客、空間といった価格以外の部分も含めて評価されます。どんなにおいしいお寿司を出されても、ロケーションが悪かったり嫌な店員がいたりしたら、おいしく頂くことはできません。でも、どんなに寒くても南極で食べるカップラーメンは最高においしいはず! それが体験価値です。
僕自身、過去に4〜5年鑑定士をした際、どれだけ体験という付加価値を提供できるかにフォーカスしてきました。テクノロジーや技術はすぐに真似されてしまうものですが、社員の“人間力”は簡単に真似ができるものではありません。“人間力”を高めることが、最終的には企業の優位性につながるのではないでしょうか。
未来志向が救った、コロナ禍でのオンラインビジネス
——コロナ禍以前と以後で、御社のビジネスに変化はありましたか?
やはりリアルオークションからオンラインオークションに変わったことです。オンラインに移行することでパートナーたちが拒否反応を示すのではないか?という不安はありました。でも、日本国内のみならず世界に流通させていくことを考えると、すべてを対面で行うのは物理的に難しい……。その問題を解決しようということで、実は新型コロナウイルスが日本に広まる半年ぐらい前からオンラインの開発を進めていました。
本来2020年の9月からスタートする予定でしたが、開発は終えていましたので、コロナ禍に対応すべく約半年前倒し、4月から開催することができました。
たまたま準備できていたとしか言いようがないのですが、他社は2ヶ月間ぐらいブランクがあった中で、途切れずに事業を進められたのは本当に助かりました。もちろんコロナ禍で失ったものもありますが、事業としては一気に3年ぐらい先に進んだ感覚があります。
今後も世界が危機的な状況に陥ることがあるかはわかりませんが、事前に準備できているか否かで確実に差が出ます。“いい時ほどすぐに終わる”という感覚で、ビジネスを再定義していく必要があるなと、僕自身とても勉強になりました。
売ることは社会貢献。新たな“サステナブルリユースモデル”の構築
——物を扱う企業として「サステナブル」が大きなキーワードになると思いますが、今後どんな発信をしていきたいと考えていますか?
サステナブルが世の中のトレンドとなり、文化として根付くことは追い風だと感じています。二次流通や中古品といったワードは、どちらかといえばネガティブに捉えられてきましたが、不要なものを捨てるのではなくお金に換えることが賢いライフスタイルとして認識されはじめたのは、非常にありがたいことです。
自分たちだけ、そして目の前の利益だけを考えている企業は淘汰され、関係するすべての事に対して未来を扱える企業しか生き残れない時代になると思います。僕たちもパートナーからご意見をいただきながら、自己満足にならないサステナブルな事業を進めていかなければなりません。
二次流通は、CO2の排出といった新品をつくるためにかかるエネルギーを抑止することにもつながるのではないかと考えています。そこでいま、「環境負荷計測」というシステムを開発しています。お客さまに持ってきていただいた物を捨てるのではなく、リユースを通じて再利用することで、CO2の排出量をはじめとした環境への負荷をどれだけ抑えられるのかを可視化するものです。お客さまに環境に対する貢献を見せられるようになり、売ることに対して価格とは異なる価値を提供することができます。
いまは企業として問題提起をするフェーズです。「環境負荷計測」を提示することで、僕たちはこういう思いで取り組んでいるとメッセージを伝えることができます。サステナブルに対するリテラシーが僕たちとお客さまの双方で向上し、はじめてバリュエンスグループとして問題解決をしていくフェーズに入れる——。まずは、お金にするためだけに売るのではなく、これからは社会貢献のためにリユースするという新たなストーリーを世の中に生み出していきたいです。
あらゆる資産を扱い世界で戦う!「なんぼや」の未来予想図
——最後に、今後の展望をお聞かせください。
昨年の売り上げ379億円のうち、120億円ぐらいがリピーターのお客さまでした。お客さまとのつながりを大切にし、生まれてから死ぬまでに買う価値の高い資産を、すべてワンストップで扱える企業を目指します。
ブランド品の買い取りだけでは厳しい時代が来ますので、他ジャンルのポートフォリオを整えているところです。顧客との接点を多く持てる状況をつくり、違うところでマネタイズする方法をいまの段階から築いていかないと、いつどうなるかわからないリスクの高い業界だと思っています。ブランド品の買い取りからスタートし、骨董品・美術品、そして不動産と幅を広げてきました。今後はワインやクルマにも力を入れていく予定です。
ブランド品以外も一手にお任せしたいはずだという仮説のもと、最適なソリューションを提供していきたいと考えています。
そして、海外市場の拡大です。私たちの中期経営計画「VG1000」の中では、2025年までに海外30店舗を掲げていますが、すでに世界で10店舗以上を展開しています。店舗数がすべてではないですが、影響力を伴った状況にしていきたいです。安心・安全の日本発であり、かつ上場企業であることは高いアドバンテージになります。日本企業が繊細で確実な仕事ができることを海外の人たちは知っているわけですから、それを武器に、世界で存在感を示せる企業を目指します。
「なんぼや」に関する情報はコチラから:なんぼや公式HP
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文・安海 まりこ
写真・西村 克也