温室効果ガス削減や持続可能なタンパク源の確保が叫ばれる中、家畜由来の食肉に替わる「代替肉」の存在感は急速に増している。代替肉マーケットが加熱する一方、魚介分野でも「代替シーフード」の開発は日進月歩で進んでいる。

肉にくらべるとまだ数も種類も少ないが、植物ベースの“ツナ缶”や“フィッシュパテ”などが続々と登場。中には、見た目も味も生マグロそっくりの代替マグロや、本物のエビのような代替エビも出てきている。

本物そっくり、トマトからつくられた生マグロ「AHIMI」

ニューヨークに拠点を置くフードテックスタートアップ「Ocean Hugger Foods」。同社はトマトからつくった代替マグロ「AHIMI」 と、ナス由来の代替ウナギ「UNAMI」を開発した。

ウェブサイトのトップ画面には、まるで本物のようなマグロとウナギの握り寿司写真がアップで掲載されている。いずれも植物ベースの製品で、AHIMはトマト、グルテンフリーの醤油、砂糖、水、ごま油の5つのみで構成。一方UNANIもナス、みりん、こめ油など植物性の食材だけつくられている。

2016年に創業した同社は昨年タイの食品流通会社Nove Foodsと提携し、2021年中にAHIMIとUNAMIのグローバル市場展開を発表した。両商品はすでに北米や英国で販売されているが、世界30カ国にネットワークを持つNove Foodsと手を組むことで、世界の代替シーフード市場に本格参入する狙いだ。

このままでは持続不可能、枯渇が懸念される水産資源

代替シーフード開発の背景には、減少し続ける水産資源への危惧がある。

SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」のターゲット14.4では「水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させる」と謳われている。

現在、海に生息している魚や生物の数は1970年の約半分。にもかかわらず、世界全体の漁獲量は年間93.8百万トン(2017年)と過去20年ほぼ横ばいと変わらない。国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、生物学的に持続可能でない、過剰に漁獲利用された状態にある水産資源の割合は33%(2015年)にのぼるという。

このうちチリマアジ、カラフトシシャモ、タイセイヨウダラは特に危険な状態にあり、マグロ・カツオ類の主要7種(ビンナガ、メバチ、大西洋クロマグロ、ミナミマグロ、太平洋クロマグロ、カツオ及びキハダ)については、43%が過剰漁獲されていると報告されている。

FAOによると、人間が1日に摂取する動物性タンパク質(1人あたり約32グラム)のうち、約17%の約5グラムを水産物が担っているという。現在、約77億人いる世界人口は2050年には97億人を超えると予測されているが、海洋生物保護と十分なタンパク源の確保は、人類にとって差し迫った問題であることは言うまでもない。

アジアでも高まる代替シーフード需要

世界人口のおよそ半分を占めるアジア地域。アジアでも今、代替タンパク質への関心は高まっている。

シンガポールでは「植物肉」を使った食材が次々に投入されているほか、タイでも多くのレストランが代替肉を取り扱い始めている。タイの外食大手「ゼン・コーポレーション」は、大豆やココナッツオイルから作った「代替豚肉」のガパオライスを、自社の屋台風レストランで出している。味・食感ともに「本物に近い」と地元客からも好評であるという。

バンコクに本社を置く世界最大のマグロ缶詰加工会社「タイ・ユニオン」は、2021年に植物由来のエビを発売すると発表している。同社のイノベーションディレクターTunyawat Kasemsuwan氏はこの新製品を「エビを使わない、エビと同じ味の“エビ天”」と説明している。

マグロ缶詰における同社の世界シェアは90%で、売り上げの中心は欧米だ。代替エビも将来的に国際市場をターゲットにすることを目指している。

魚の細胞を培養した「培養シーフード」開発も

これまで紹介した代替シーフードはいずれも植物由来であったが、魚から採取した細胞を培養してつくる「培養シーフード」の開発も進んでいる。

培養シーフードを手掛けているのは、米サンディエゴのスタートアップ「BlueNalu」。同社は2020年にベンチャーキャピタルより2000万米ドルの資金を調達し、さらに6000万米ドルの転換社債融資を調達。市内に3700m2のパイロット工場の建設を予定している。

BlueNaluが開発する培養魚は、本物の魚から筋肉・脂肪細胞、結合組織を採取。それにビタミンやアミノ酸、糖類を与えながら培養して“シート状”の代替魚肉をつくる。昨年ブリの切り身の製造に成功し、現在はシイラやクロマグロなど魚介8種の細胞株を開発している。

同社のLou Cooperhouse代表によると、「サンディエゴに培養シーフードのレストランを開業する予定」とのこと。そして将来的には、全米に店を展開していきたいと述べている。

代替シーフードに取り組むスタートアップ

代替シーフードには大手企業も注目している。世界食品大手のネスレは昨年代替ツナ製品「TuNo」を発表、前出のBlueNaluには住友商事も出資している。日本ではようやく代替肉が登場し始めたばかりで、シーフードはまだこれからといった段階だ。

しかし、昨今の流れを考えると、代替シーフードがスーパーやレストランに登場するのも時間の問題だろう。ここからは、代替シーフード開発に取り組む米国のスタートアップ3社を紹介する。

6種の豆をブレンドした代替ツナ「Good Catch Foods」

植物ベースの代替ツナや冷凍シーフードパテなどを開発したニューヨークのスタートアップ「Good Catch Foods」。現在、商品は北米の小売店を中心に販売されている。

同社が開発した代替シーフードは、えんどう豆、ひよこ豆、レンズ豆、大豆、そら豆、白インゲン豆の6種類の豆類がブレンドされている。プロテインやDHAが豊富に含まれ、藻類油を使用しているため海産物のような風味を味わえるという。

同社には米食品大手のゼネラル・ミルズが3200万ドルの出資をしている。

エビ、カニ、ロブスターなど甲殻類が中心「New Wave Food」

カリフォルニアのフードテックスタートアップ「New Wave Foods」は、海藻抽出物と緑豆タンパク質の混合物より、代替エビの製造に成功した。同社は今年1月にシリーズAラウンドで1800万米ドルの資金調達を完了し、飲食施設への販売を始めることを発表した。

同社によると。アメリカ人は年間約68万トンのエビを食べており、その8割は外食産業で消費されているという。

代替エビは、従来のエビの価格と同程度で販売する予定。今後はロブスターやホタテ、カニの代替製品も開発していく計画だそうだ。

グルテンフリーのフィッシュパテやスモークサーモンなど「Sophie’s Kitchen」

代替のエビフライ、魚フライ、カニのパテ、ツナ缶などの家庭用加工食品を製造販売しているカリフォルニアのスタートアップ「Sophie’s Kitchen」。

中でも異色なのは、こんにゃく粉やえんどう豆、片栗粉、オリーブオイルなどでつくった代替スモークサーモン。クリームチーズと一緒にパンにはさむと、本格的な“スモークサーモンサンド”が味わえるという。

いずれの商品もグルテンフリーで大豆不使用。代替タンパク製品には大豆が使用されることが多いが、大豆アレルギーでも安心して食べられる商品として注目されている。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit

<参考>

Ocean Hugger Relaunches With Nove For Global Plant-Based Seafood Roll Out In 2021

Cell-based fish startup BlueNalu lands $60 million to build out San Diego factory

Shrimp alternative company ‘snaps’ into foodservice

Seafood Giant Thai Union To Launch Plant-Based Shrimp This Year

東南アジア、植物由来の代替食品が拡大 人口増と新型コロナ影響で

水産庁