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今年初め、アマゾンがボーイング社の旅客機を購入したことが判明した。同社は米国内におけるドローンによる配送プロジェクトのテストなどでも広く知られているが、航空機を使った航空物流事業もすでに行っており、今回の航空機購入は、アマゾンが航空物流事業に一層力を入れていくことを表すサインとして受け止められている。
今回は、アマゾンの航空機購入報道や、米国内での航空物流市場のプレイヤーの状況、そしてアマゾン配送サービスの今後を、各海外メディアや研究所からのレポートからお伝えする。
アマゾンがリースではなく航空機購入に踏み出した背景
Eコマースと小包配送サービスは密接に関わっている。モルガン・スタンレーのインターネットチームは、インターネットショッピング(Eコマース)の量が、2020年は前年比で40%以上増加すると、昨年11月の時点で予測していた。米国メディアDCVelocityの記事に掲載されたこの数字は、過去4年間の前年比である10%半ばの成長率と比較し、爆発的な増加だ。
このコロナウイルスを背景としたEコマースの繁栄のおかげで、「ビッグスリー」と呼ばれる米国の3つの主要な運送業者、FedEx、UPS、およびUSPSに加え、新たに4つ目として頭角を現しているのが、インターネットショッピングのプラットフォームで知られるアマゾンだ。
2021年1月、アマゾンは既存の航空会社であるデルタ航空とウエストジェット航空から、11機の中古ボーイング767-300ジェット機を購入すると発表した。コロナ渦で旅行需要が大幅に減り、旅客航空会社が急いで固定費を縮小する一方、オンラインショッピングに付随した航空貨物市場が成長していることを示す、最新の兆候ともいえるだろう。
購入の様子をレポートしたCNBCの記事によると、アマゾンとデルタ、ウエストジェット社は実際の飛行機の価格の開示を拒否している。ただ航空コンサルティング会社のAscendby Ciriumによると、多くの航空機の価値が急落した2020年において、同年12月中旬のボーイング767-300ERの価値は、2020年の初頭と比較して、約15%も低いと見積もっている。アマゾン・エアの貨物輸送機を、リースではなく購入するという決定は、このタイミングをみて前倒しされたという可能性も考えられる。
アマゾンは、業務多角化による効率化として、すでにいくつかの航空貨物業務を自社内に持ち込み、外部の請負業者に頼る工程を減らすこともしていた。そのためにここ数カ月にわたって同社は、契約した空中地上オペレーターを監督するためのメンテナンスマネジャーや監督者の求人情報を掲載していた。
前述のDCVelocityの記事によれば、モルガン・スタンレーのエグゼクティブディレクターRavi Shanker氏は、「パンデミックの前にもすでに存在していた巨大な小包配送の成長の波に乗ったアマゾン物流部門は、当初3年間の予測成長だった数値を、コロナウイルスで6カ月の期間に短縮しクリアしている」と小包フォーラム見本市で発言している。この事実からも、オンラインショッピングの波がコロナで急激に後押しされたこと、そしてアマゾンがそのチャンスを逃していないことが分かる。
さらにShanker氏は、「モルガン・スタンレーは2019年12月、アマゾンが年末までに自社パッケージの約半分を社内配送に移行すると推定していた。実際それは一昨年の2倍の量である。そしてmアマゾンが2020年7、8月までに、自社ボリュームの約3分の2を社内で配送していることを指摘する業界レポートが、すでに多く存在する」と声明の中で述べ、その急激な成長と配送業務を自社に取り入れる動きが活発化していることが分かった。
米国の航空物流市場プレイヤーとの比較
シカゴにあるDePaul大学のChaddickメトロポリタン開発研究所のダイレクターであるSchwieterman氏などが共同執筆した2021年2月発行の最新レポート「Strategic Moves By Amazon Air | WINTER 2021」によると、年明け後は通常減少する小売の出荷だが、アマゾン・エアのフライトの活動は、2020年8月から2021年2月の間に15%も増加したことを伝えている。
現在、アマゾン・エアは1日平均140便を定期的に運航しており、今年6月までに160便以上に増えると予想している。内訳として1日あたり約80便を占めるボーイング767は、アマゾン・エアの主力輸送手段であり、ボーイング737は約60便となっている。2022年末までに11機のボーイングジェット機が就航したとして、Amazonは85機以上の航空機を保有することとなる。
とはいえ、アマゾン・エアの米国内事業は業界大手のFedEx ExpressやUPSに比較し、まだ脅威とは言えない大きさである。アマゾンの国内ネットワークは実にUPSの約15%にすぎない。679機の飛行機を保有するFedExや、572機を所有、リースするUPSと、アマゾンのその数はかけ離れている。
それでも注目に値するのは、同航空会社の急速な成長率が、他の確立された貨物航空会社とは一線を画しているからである。
さらに、Chaddickメトロポリタン開発研究所のレポートでは、アマゾンはシンシナティ・ノーザンケンタッキー・インターナショナル(CVG)とオハイオ州のウィルミントンエアパーク(ILN)の2つの空港ハブを拡大することで、然るべきタイミングで、一般配送サービス開始に積極的に移行できるようになることも予想されている。
これら2つの空港周辺のフライトオペレーションと倉庫の密度は実際高まっており、さらに、この地域の他小売業者と物流プロバイダーによる投資が見られている事実などにより、企業から消費者への迅速な一般配送を提供する新たな能力をアマゾンが保持しようとしていることが分かる。
以下の地図も示すとおり、同2空港からのフライトはすでにネットワークとして米国の人口のほとんどに接続しており、さらに迅速な拡大も見込まれる。
そのため、レポート最終章では、アマゾン自体から発表された意図やスケジュールは明確になってはいないものの、「アマゾンのプラットフォームでまだ行われていない一般配送サービスも18か月以内に開始するのでは」と予想されている。
モルガン・スタンレーの予測では、早ければ今年中にも、配送サービスを第三者にも提供する可能性があるとしている。
アマゾン・エア、自社内に取り込んだ配送業務サービスの行方
2020年11月にオープンしたドイツのライプツィヒ / ハレ空港にある同社初のヨーロッパのハブ空港は、「アマゾンの米国航空貨物事業が、今後どのように形作られるかを示す良い例」であると、レポートや各メディアで捉えられている。
ライプツィヒのハブでは、アマゾンは現在、荷物の積み下ろしなどの地上サービスを自社のスタッフと一緒に処理している。最終的には航空貨物業務の多くを社内に移すことで、コストと配送速度をより最適化できるように、各拠点を整える方向にアマゾンが動くのは明らかだろう。
また、前述のChaddickメトロポリタン開発研究所のレポートでは、アマゾン・エアのヨーロッパ内ネットワークの運営模様も紹介されている。2020年末から同社に登録された飛行機を使用しており、ヨーロッパ全体の市場に対して成長を促す重要な役割を果たしていると見られる。
フライトネットワークは、ASLアイルランド航空にリースされたボーイング737の2機を使用して提供され、3つ目の飛行機もまもなくサービスを開始する予定と見られている。アイルランドの航空会社は通常、ドイツ・ライプツィヒとスペイン・バルセロナ間やドイツ・ケルンとスペイン・マドリード間などの、中距離ルートで1日8便を運航している。
さらに、前項で米国内でのサービス開始予想に触れた一般配送サービスでは、すでに現在イギリスでAmazon Shippingと呼ばれる、自社のプラットフォームで販売していない第三者の小売業者への翌日配達サービスを提供している。このような外部とのネットワークがすでにヨーロッパではあることを、Chaddickメトロポリタン開発研究所のSchwieterman氏がインタビューで語っている。
即日発送や迅速対応のポリシーを掲げ、オンラインショッピングの第一線を進むアマゾン。静かにそして着実に、時勢を捉えながらアマゾン・エアも発達することで、そのビジネスはプラットフォーム以外の航空貨物業という側面でも企業や顧客を捉えていく日は近いかもしれない。
文:米山怜子
企画・編集:岡徳之(Livit)
参考:
https://www.cnbc.com/2021/02/17/amazon-air-fleet-growing-fast-could-resemble-airline-study.html