アメリカ発の音声SNS「Clubhouse」が今年に入って日本でも大人気となっているが、現在までのところiOS端末を持っている人しか利用できず、Androidユーザーはやきもきさせられているのではないだろうか?

そんななか、Twitterが同様のサービス「Spaces(スペーシーズ)」の正式立ち上げを準備しており、注目を集めている。SpacesはiOS端末のみならずAndroid端末での利用も可能にしており、これまでClubhouseの一人勝ち状態だった音声SNS業界に激震が走る可能性がある。

Clubhouseの人気を目の当たりにして、Twitterも音声SNS「Spaces」を立ち上げた(写真:Youtube動画”Twitter Spaces-quick review”より)

「Spaces」には書き起こし機能も

Twitterは2020年12月、Spacesのテスト運用を開始した。これはClubhouseによく似たサービスで、ユーザーは「Space」と呼ばれるバーチャルルームに入って、そこで展開される会話をリアルタイムで聞いたり、自分も発言したり、他のユーザーと音声でつながったりできるというものだ。ClubhouseがiOS端末でだけ使用できるのに対し、Spacesは今月3日からAndroidユーザーにもテストサービスが限定的に開始されている。

Clubhouseと同様、Spaceを立ち上げる際にホストは参加者を設定できる。「全員」「フォローしている人」「招待した人のみ」の3つから選ぶことができ、立ち上げたSpaceはTwitterの「フリート」(24時間で消えるショートムービー)に表示される。

「Spaces」にはリスナーが絵文字で反応できる機能がついている(写真:Youtube動画”Twitter Spaces-quick review”より)

一度に参加できるスピーカーの数は10人までで、リスナー数には制限がない。そしてSpaceでのチャット終了後にはClubhouse同様、その録音データが公開されることはない。ただ、Twitterはルール違反を確認するためにデータを30日間保持し、その間、ホストが会話の文字起こしデータをダウンロードできる点がClubhouseと異なる(現時点では英語のみ)。また、リスナーが絵文字を使って反応できる点もTwitterが新たに加えた機能だ。

「Discord」はゲーマー用のイメージを払拭

Discordも音声SNSサービスを立ち上げ、ゲーマー以外のユーザーを取り込む戦略に出ている(写真:Discord Blogより)

Clubhouseの人気を目の当たりにし、「Discord」も2020年半ばごろから音声SNS事業を強化している。2015年に立ち上げられたDiscordは、もともとゲーマー用のチャットツールとしてZ世代を中心に絶大な人気を誇っており、2015年の立ち上げ以来、そのユーザー数は急成長を遂げている。2020年6月時点のアクティブユーザーは1カ月に1億人に達した。

しかし、「ゲーマー用」というイメージが強いため、同社は2020年6月、「Your Place to Talk(あなたが話す場所)」と銘打った新たな音声SNSサービスを設定。ゲーマー以外の多様なユーザーを取り込み、「インクルーシブ」なイメージへの転換を図っている。

同サービスでは、ユーザーは「Channel(チャネル)」と呼ばれるバーチャルルームを設定し、ユーザーはそこでテキストまたは音声で会話を楽しむ。チャネルに入場するのに、ホストと友達になる必要があるものもあれば、ぶらりと立ち寄って参加できるものもあるという。興味やバックグラウンドによらず、友達や新たな仲間と「ハングアウト(たむろう)」する場所として浸透させたい考えだ。

インタラクティブな音声SNS

アプリ「Wavve」は、音声コンテンツをさまざまなSNSに載せて発信できる(写真:Instagramより)

リアルタイムのライブ配信ではないが、音声コンテンツをSNSに載せて配信できるサービスもある。

「Wavve」は音声を録音し、それをInstagramやFacebook、TwitterといったSNSでシェアできるアプリ。SNSと互換性のあるオーディオビデオ形式を利用しており、共有したいSNSに合わせて背景画像のサイズを設定できるようになっている。コンテンツの長さによって価格が異なり、1分間までなら無料、20分までなら1カ月10ドル、60分までなら1カ月18ドルのサブスクリプション代がかかる。

音声コンテンツをそのままSNSに貼り付け、リスナーからの反応が得られる点が従来のPodcastなどと違う点だが、Clubhouseのようなリアルタイムの音声コミュニケーションではない。

「Riffr」もWavveと同様のサービスで、こちらは5秒から3分の短いコンテンツのみ。「マイクロポッドキャスティング」のためのソーシャルネットワークといわれている。

「Riffr」は「マイクロポッドキャスター」のための短い音声コンテンツを配信(写真:Riffr)

一方、韓国企業が開発した音声配信アプリ「Spoon」は、2016年3月に早くもバーチャルルームを利用した音声ストリーミング配信を開始しているが、こちらはホストが「スプナー」と呼ばれるリスナーたちにラジオのようにコンテンツをライブ配信する一方、スプナーたちはテキストでリアルタイム反応するのみ。

ただ、ホストが「お題」を出して、リスナーが声を録音送信するという機能があるほか、スプナーがホストに対して「投げ銭(寄付)」ができるのが特徴的だ。

Clubhouse人気は続くか?

これらの音声SNSが目指しているのは、ホストとリスナーの双方向コミュニケーションだが、なかでもClubhouseが圧倒的に消費者にウケている理由は、「双方向かつリアルタイムでオープンなコミュニケーション」を可能にしている点だ。

そこでは見知らぬホストが設定したさまざまな「ルーム」が一覧で表示されるため、その中から自分の興味や関心に合ったものを選び、ぶらりと立ち聞きしたり発言したりすることで、偶発的なつながりを得ることができる。コロナ禍で出勤の機会が減り、偶発的な出会いや雑談が減る中、Clubhouseがこうした機会を創出する役目を担っているのだ。

Spacesの場合はすでにTwitterでできたネットワークを利用できる点がメリットでもあるが、フォロワー以外の偶発的なリスナーを呼び込む機会が少ないのはデメリットといえるのかもしれない。TwitterによるSpacesが近く正式にローンチされれば、多くのユーザーがAndroidユーザーの友達ともつながれるSpacesを利用するだろうが、偶発的な新たな出会いを求めるユーザーにとっては、Clubhouseの魅力もあせない。

一方、記録を気にせずに本音トークを楽しむ井戸端会議ならClubhouseが気楽だが、記録を残したいようなミーティングにはSpacesが便利だろう。また、大勢のリスナーからなんらかの反応を得たいような場合もSpacesの絵文字機能が活かされる。使い方や対話相手によって、両者を分けるユーザーも増えるのかもしれない。大手SNSの追随で音声SNSがどう進化するのか、今後の動向が注目される。

文:山本直子
企画・編集:岡徳之(Livit