新型コロナの感染拡大により、様々なことが一変した2020年。 不要不急の外出が制限され、各方面にその影響が及んでいるが、スポーツの世界も例外ではない。

多くの人々が観客として集まるイベントは軒並み中止や延期となり、プロアマ問わず老若男女スポーツを楽しむ機会がなくなっている。この約1年間を振り返ると身体を動かすことの大切さを知った方も多いのではないだろうか。

そんな中、日本スポーツ界をけん引統括し、基盤を支えているのが日本スポーツ協会(以下、JSPO)だ。

同協会の会長である伊藤 雅俊氏、副会長兼専務理事の泉 正文氏、常務理事の森岡 裕策氏の3人は、これからの新しい時代にむけてスポーツの重要性を語るとともに、今後の展望についてメディアとのラウンドテーブルで指針を示した。

引き続き、ビジネスや日々の生活など社会全体において新たな様式に合わせた変化が求められる中で、日本スポーツ協会は今、スポーツ界を支えるべく何を思い、どのようなアクションを行っていくのだろうか。

コロナ禍の状況により今年はオンラインで2021年の活動について指針を示した

スポーツの未来を担う、日本最大のネットワークを有するスポーツ団体

日本スポーツ協会(JSPO)と聞いて、あまりなじみがないと思う方も多いかもしれない。しかし実は、私たちが日常で触れる数々のスポーツと密接な関係を持つ組織である。

同協会の設立経緯や社会的な役割とはどのようなものか。会長の伊藤氏は歴史的背景を振り返りながら、その活動内容をこのように語る。

伊藤「JSPOは、日本のあらゆるスポーツを包括する、日本で最も大きなネットワークを有するスポーツ団体です。陸上競技や水泳、サッカーや柔道などの競技団体や、47都道府県の体育・スポーツ協会、そして日本中学校体育連盟、全国高等学校体育連盟など117の団体が加盟しています。

私たちの目的は、各競技や競技団体、地域のスポーツ組織を支援、育成していくことで、国民のスポーツへの参画機会を増やし、スポーツを普及していくことです。子供から高齢者まで、人種、国籍、性別、障がいや疾病の有無にかかわらず、誰もが生涯にわたりスポーツを安全に楽しく『する、みる、ささえる』という環境を整備していくための事業を推進しています」

日本スポーツ協会会長 伊藤雅俊氏

もともとは、初代会長の嘉納治五郎師範が、1912年のストックホルムオリンピック(スウェーデン)に出場する選手団の編成を行うために、前年の明治44(1911)年7月、大日本体育協会という団体を設立したのが始まりです。設立当初は選手団の編成、派遣による国際競技力の向上と国民の体力向上という目標を掲げていました。

その後、平成23(2011)年に創立100周年を迎え、平成30(2018)年に、団体の名称を日本体育協会から日本スポーツ協会(Japan Sport Association:JSPO)へ変更しました」

森岡「私たちJSPOは、国民のスポーツの普及・振興をメインの施策とし、JOC(日本オリンピック委員会)はオリンピックへの選手団の派遣を担っています。もともと、JOCは、1946年、大日本体育協会の理事会で設立された内部組織が、その後、分離・独立してできた団体です」

JSPOの主な事業は、国民体育大会や日本スポーツマスターズなどを運営する「イベント事業」や、総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団の育成など地域に密着したスポーツを促進する「クラブ/エリア事業」、公認スポーツ指導者の養成、広報活動の展開などを行う「ソフトインフラ事業」などがある。

またその他、日本スポーツ界全体の組織・体制の整備・強化の役割も担っている。

日本スポーツ協会はスポーツにおける多様な分野を担っている

全ての人々へスポーツの機会を。先を見据えた子供たちへの未来投資

新型コロナの感染拡大により、スポーツ界も多くの打撃を受けることとなった。伊藤氏は、コロナ禍におけるスポーツ界の現状や懸念について次のように語る。

伊藤「新型コロナの感染拡大により、スポーツ界では試合の延期や中止が相次ぎました。また、不要不急の外出が制限されたことにより、国民がスポーツを自由に行い、見に行く機会が減り、国全体でスポーツが止まっている状況です。

特に、私が一番心配しているのは、子供たちやお年寄りが外出を控え、身体を動かした遊びやウォーキングなどができなくなっていることです。日常生活のちょっとした身体活動ができなくなることにより、免疫力の低下などから健康二次被害が出てくることも懸念しています。

人間は、常に身体を動かし続けることにより、身体的にも精神的にも健康を保つことができる生き物です。そのため、コロナ禍であっても自分の体力を維持し、健康で文化的な生活ができるよう、我々がガイドラインを作り、スポーツを安心して安全に行える環境をつくっていくことが大切だと考えています」

一方、日本では大人になるとスポーツへ参画する機会が極端に少なくなることがこれまでの課題であったと森岡氏は言及する。

森岡「我が国ではスポーツが日常的な生活習慣にはなっておらず、学校段階での体育活動や運動部活動が終了した後は、スポーツに親しむ機会が非常に少なくなる。

特に、若い世代の方々は、仕事が忙しく、家事・育児に大変で、お金や時間がないなどの理由から大半の方がスポーツから離れてしまいます。

そういった背景から、大人になった途端に体力が低下して疲れやすくなったり、リフレッシュする機会がなくなったり、身体的にも精神的にも大きな影響を及ぼしています。

実際の例として、男性の場合、平均寿命は81歳であるのに対し、健康に活動できる健康寿命は72歳であるというデータがあります。この約10年の間に、病院通いや寝たきりになってしまう可能性が高いということです。私たちは、この約10年間の差を縮め、いかにして豊かなシニアライフを送ることができるかということも、JSPOのもう一つのミッションだと考えています」

常務理事 森岡裕策氏

この約10年の差を埋めるために、まずは子供をターゲットとした施策を行っていると伊藤氏は語る。その理由とはなんなのだろうか。

伊藤「このミッションを実現するために、私たちは現在『JSPO アクティブ・チャイルド・プログラム(以下、JSPO-ACP)』という施策を展開しています。子供をターゲットに重点を置いた理由は、今の子供たちにとってスポーツが日常の生活習慣となれば、彼らが大人になった時、スポーツの習慣や環境はこれまで以上に日常的なものとなり、将来的には国民全体のヘルスケアにつながると考えているからです。

また、国民が長く健康でいられるということは、医療費をはじめ社会保障費などの抑制にもつながります。つまり、私たちは今、未来への投資に取り組んでいるところなのです」

森岡「もちろん子供だけではなく、大人になってからも運動やスポーツを始めることは重要です。ですが、大人に運動・スポーツへの興味・関心を持ってもらい、行動変容につなげるには、相当なパワーが必要ですし、子供に対するアプローチとは異なる方法をとる必要があります。

JSPO-ACPの最大のポイントである、楽しく積極的に体を動かす経験は、子供の内発的な動機付けを大切にしなければなりませんが、大人には別のアプローチが必要であると考えられます。 例えば、運動・スポーツを行えば健康になれる、人生が豊かになる、ダイエットができる、といった目標を設定することなどです。アプローチの仕方を工夫すれば、JSPO-ACPのノウハウを最大限に活用して大人向けのプログラムも開発可能です」

▼JSPO-ACP体験イメージ
「人気のファミリークリエイターが挑戦!家でも手軽に楽しめる「JSPO-ACP」 で楽しく体を動かそう」

▼JSPO-ACPの詳細はこちら
アクティブ・チャイルド・プログラム公式HP

未来に向けた三つのアクション、withコロナとどう向き合うか

2021年を迎えた今、JSPOは今後どのような目標を持ち、活動を行っていくのだろうか。泉氏は具体的な三つ行動方針を示した。

「2021年の抱負として、私たちは三つのことを掲げています。

一つ目は、『子供の運動遊びの定着』です。先ほどもお話ししたJSPO-ACPを活用し、身体を動かす機会を増やしていき、健康に日々を過ごしていけるようサポートに取り組みます。

また、新型コロナの感染拡大により、昨年はスポーツ少年団の大会や活動が軒並み中止となってしまいました。今年度は、子供にも身近となったインターネットを利用するなどして、スポーツ交流の機会を増やしていく工夫をして事業を推進していきます。

また、都道府県体育・スポーツ協会と連携し、各地域の実情に応じた推進プロジェクトを設置するとともに、JSPO-ACP 等も活用しながら子供の運動遊び定着のための事業を実施することにより、子供たちの運動・スポーツの再開を支援し、地域の好循環の実現を図ることも検討しています。

二つ目は、『新しい生活様式』に対応した地域のスポーツの推進です。

コロナによって中止や縮小を余儀なくされているスポーツイベントの再開に向けたガイドラインなどを活用し、新しい生活様式の中でも安心安全にスポーツができる機会や環境づくりを支援することが、コロナ禍における私たちの使命だと考えております。

実際に、昨年からコロナ禍における対策として、無観客試合の推進や、客席を減らしての試合開催、会場の予防対策のガイドライン策定などに取り組んでまいりました。

そして三つ目は、『安全安心なスポーツ機会の確保』です。

JSPOには各競技団体はもとより、47都道府県の体育・スポーツ協会も加盟しており、地域との連携を行っております。安全にスポーツが行える場所やガイドラインの周知に加え、動画やSNSを利用した非対面でのオンライン交流も実施し、安全安心なスポーツ環境の基盤強化に取り組んでいきます」

副会長兼専務理事 泉正文氏

スポーツの在り方を考え、価値をさらに高める1年に

伊藤「私たちJSPOは『スポーツと、望む未来へ。』という言葉をコーポレートメッセージにしています。スポーツによって、明るい日本の未来をつくり出していくことが私たちの最大の使命です。

そのためにも、スポーツの価値を一層高め、基盤づくりを行っていく必要があります。

ここ数年、スポーツ界では不祥事などが頻発していました。それは、スポーツ界が社会から閉ざされたムラ社会の中で活動してきたためです。自分たちにしか通用しない閉鎖的なルールや秩序の中で物事を決め実施してきましたが、今後は社会の目が届くところで、新しく作ったルールの下、社会から信頼・信用される行動をとる必要があります。スポーツの信用を壊すようなことは徹底的に改善していかなければなりません。

2020年から2021年がスポーツ団体の『ガバナンス改革元年』と言えるよう、JSPOは、スポーツ統括団体として、しっかり対応していきます。そして、日本におけるスポーツの文化的価値を高める取り組みを行ってまいります」

私たちは昨今の情勢により、屋内で過ごすことが多くなった。しかし、「本来ヒトは動物である。身体を動かすことはヒトの根源的な欲求であり、ヒトは身体を動かすようにできている」と伊藤氏が語るように、人間にとってスポーツは生きる上で必要不可欠な営みだ。

これからどのような時代になるのかは誰にも分からない。しかし、スポーツが世界から無くなることは決して無いだろう。姿や形がいかに変化したとしてもヒトのそばにスポーツは存在し続ける。

日本スポーツ協会はこれからも時代の変化に適応し、人々にとって最良のスポーツの機会を提供し続けていく。