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Twitterが、2/25に開催された「Analyst Day2021」において、以前から噂されていたサブスクリプションサービスの内容を遂に発表した。
「スーパーフォロー」と呼ばれるこの新たなサブスクリプションサービスは、広告収入に頼らない安定した収益源の確立という課題の解決策として期待されているが、その背景にはもっと多様な要素が絡んでいる。
本稿では、現時点で分かっている「スーパーフォロー」の中身に触れつつ、Twitterがこのプロダクトを開発した背景にあるものについても考察していきたい。
Twitterの存在意義を改めて突き詰める、という信念
2月25日木曜日、9:00(日本時間26日2:00)から開催された「#TWTRAnalyst Day2021」では、イベント冒頭でCEOジャック・ドーシーが改めてTwitterの存在意義を次のように語った。
“Why Twitter?”——それは、インターネット上で公開された会話がもたらす様々なベネフィットであり、アイデアを瞬時に拡散し、世界の人々の考えを知り、人類がどのような問題に直面しているかを学ぶ。そして、究極的にはTwitterを通じて私たちは常に一緒にいる事を実感できること。
そして、次々と打ち出されるTwitterの新たな施策は、この存在意義を実現するためである事をことさら強調している印象を受けた。
つまり、公開された会話を、健全に、真にユーザーにとって価値あるものとして保つことこそがユーザーを惹きつけ、ひいてはTwitterに収益をもたらす結果になる、という事だろう。
2020年、Twitterは米国大統領選挙中のフェイクニュース拡散問題において槍玉に上げられた印象があるだけに、プラットフォームを健全な状態に保つための打ち手の実現、そしてそれをもってユーザーの信頼を勝ち取ることは、確かに目下の課題だったと言える。
実際に、最近実装されたリプライを制限できる機能では、不適切なリプライを85%削減できたと見積もられているし、さらに今後は「Smarter Safety」や「Birdwatch」といった、個人が不適切な攻撃に晒される事を回避したり、情報の真贋を見極めたりすることをサポートしてくれる新機能が実装される予定になっている。
そして、これらの機能と同様に、Twitterの信念に基づいて開発された新機能の一つとして発表されたのが、「スーパーフォロー」である。
Twitter初、“投げ銭型”サブスクリプション「スーパーフォロー」
Twitterが、サブスクリプションモデルを模索していることは、少し前から常に話題となっていた。
世界のデジタル広告市場において、競合他社の後塵を拝していた同社(シェアがたったの0.8%という状況だった)は、サブスクリプションモデルを広告収入に依存しない新たな収益基盤として確立させたい考えを持っていたのである。
Twitterがどのようなサービスに対して課金するかは世界から注目されており、広告が配信されないフィードやTweetDeckなど、様々な憶測があらゆるメディアで囁かれていた。そのような状況の中で詳らかになったのが、今回の「スーパーフォロー」である。
これは、いわば“tipping(投げ銭)”システムであり、ユーザーは月額4.99ドル(日本での価格設定は未定)を支払うことで、任意のユーザーをスーパーフォローすることができるようになる。スーパーフォローされたユーザーは、一般のフォロワーからは見ることができない特別な設定のコンテンツをスーパーフォロワーに向けて発信できる。
これによって、コンテンツの発信者、いわゆる「クリエイター」と呼ばれる立場のユーザーは、Twitter上で直接収益を得ることができる仕組みだ。
スーパーフォローの詳細はまだ明らかになっていないが、投げ銭というコンセプトからすれば、スーパーフォロー1アカウントごとに課金が発生するのではないかと考えられている。
背景にあるのは、やはり「クリエイターエコノミー」
一見、この「スーパーフォロー」という新機能は、冒頭でお伝えしたTwitterの存在意義とは無関係なようにも思える。
しかし、やはりここには密接な関係があると言えるだろう。これを理解するには、SNSを含めたあらゆるメディアを今席巻している「クリエイターエコノミー」について知っておく必要がある。
クリエイターエコノミーとは、企業や組織に所属しない、独立したコンテンツクリエイターを中心とした経済圏全体の事を指し、そこにはコンテンツ制作を支援するプロダクトから、クリエイターが直接収益を受け取れる仕組みまでが含まれている。

特に、2020年は世界でクリエイターエコノミーが急成長した年だと言われており、今、あらゆるメディアは、クリエイターを自社のプラットフォームに集めるべく、こぞって戦略を組み立て、新しいサービスを打ち出し、いわば「クリエイター争奪戦」といった様相を呈している。
例えばYouTubeでは、2021年、クリエイターエコノミーの醸成に力を入れるという戦略を打ち出している。その中でも特に象徴的な施策は、ライブコマースを可能にし、D2Cなどを手がけるクリエイターがYouTube上で直接収益を上げることができる「動画内eコマースショッピングエクスペリエンス」だろう。
YouTubeでは、TikTok的な短尺動画専門の機能「YouTube Shorts」にも今後力を入れていく方針であり、ここにも、様々なタイプのコンテンツクリエイターを自社プラットフォームへ集めておこうという思惑が現れている。
なぜ、今「クリエイターエコノミー」なのか?
Twitterを含め、近年のSNSプラットフォームには、人が集まると同時に、ノイズも増えた。それは、プラットフォームが収益を上げるための広告だったり、冒頭で挙げたフェイクニュースだったり、あるいは個人を不必要に攻撃する投稿といったものたちである。
特に2020年はコロナ禍や米大統領選といった状況が、ノイズの量を増やす結果となった。そして、それらのノイズに紛れて、自分たちが本当に見たいコンテンツや情報が埋もれてしまうことに辟易としているユーザーは多い。
だからこそ、良質なコンテンツを生み出すクリエイターは、より多くのユーザーを惹きつける。そしてそこには、クリエイターを中心とした小さなコミュニティがいくつも形成されている、という状況だ。
つまり、今、プラットフォームがより多くのアクティブユーザーを獲得するためには、クリエイター、あるいはクリエイターを取り巻くコミュニティをサポートする仕組みを持っていることが必須条件となる。
今回、Twitterはまさにこの方向に舵を切ったと言えるだろう。それは、「スーパーフォロー」以外に発表された新機能を見ても明らかだ。
例えば「Revue」という機能では、クリエイターがニュースレターのような長文コンテンツを投稿できるだけでなく、コンテンツごとに金額の設定も可能になる見込みだ。
また、現在ベータ版がリリースされている「Space」は、音声を用いてユーザー同士がコミュニケーションできるClubhouse的な機能であり、クリエイターがこれを上手に活用すれば、強固なコミュニティを形成することができるだろう。
それだけではない。「Community」という、ズバリそのものの名前が冠された機能も今後登場する予定だ。この機能では、ユーザーが興味を持てる分野のコンテンツをより簡単に発見でき、そこに紐付くコミュニティとコミュニケーションを開始できるようになる。そして、特定の分野に特化したコンテンツを発信できるクリエイターにとっては、フォロワー(あるいはスーパーフォロワー)の獲得をサポートしてくれることになるだろう。
それぞれの新機能について、現状は不明な部分も多いが、近いうちに明らかになるものと思われる。
クリエイターエコノミーの醸成に本格的に参入した形となるTwitter。ジャック・ドーシーが掲げた当面の目標は、2023年の第4四半期にデイリーアクティブユーザー3億1,500万人以上、年間収益75億ドル(約7,970億円)以上というものだ。
クリエイターを自認し、Twitterを収益源にするべく画策するユーザーと共に、今後伸びていけるのかどうか、その動向に注目したい。
文:池有生
企画・編集:岡徳之(Livit)