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マイクロソフトがインタラクティブなバーチャルレポートを発表
CSR活動の一環として毎年サステナビリティ・レポートを発表するマイクロソフト。2020年のサステナビリティ・レポートに呼応して、ゲーム『マインクラフト』上のマップである「Sustainable City」を先日発表した。
マインクラフトは、デジタル空間上に自由にブロックを配置して建築物などをつくり、思い思いの世界を築けるゲームだ。
「Sustainable City」は、このマインクラフトをプログラミング教育・情報教育・協同学習などの教材として使えるようにした教育向けのプラットフォーム「マインクラフト教育エディション」上で利用できるコンテンツとなっており、誰でも無料でダウンロードが可能だ。
ゲーム感覚で持続的開発を学べる「Sustainable City」
マインクラフト上で「Sustainable City」のマップを開くと、クリーンエネルギーやリサイクルなどをテーマとしたさまざまなインフラや技術を、ゲーム上で歩き回りながらバーチャル見学できるようになっている。
例えば、農地、スーパーマーケット、ゴミ処理場、リサイクル工場を見学してサステナブルな食産業を学ぶ「Sustainable Food Production」や、サステナブルな素材のみで造られたソーラーパネル付きの家屋「Sustainable Home」を訪ねられる。
汚水再利用の浄水場や風力発電プラントの仕組みが学べる「Alternative Energy」、社会・経済・環境に対する林業の影響を説明する「Dependable Forests」も面白い。いずれのコンテンツも、デジタル空間をゲーム感覚で訪問し学べるインタラクティブなコンテンツだ。
「遊びの力」を使ってより良い世界を築く
CO2排出量を削減し、最終的にはゼロにするという目標を掲げている同社。ザネイチャーコンサーバンシー (The Nature Conservancy)や世界自然保護基金とパートナーシップを組みながら、2030年までには、大気から取り除かれるCO2が事業活動に必要なCO2を上回るカーボンネガティブとなることを発表している。
「Sustainable City」が発表されたプラットフォームであるマインクラフトは、世界中で1億人以上のプレイヤー数を誇る。そのなかでも「マインクラフト教育エディション」を使用しているのは、115ヵ国約3500万人の学生と教育者だ。
マインクラフトを介することで、子供も含むより多くの人にリーチし、ゲーム感覚で遊んでもらいながらメッセージを伝えることができる。
他ユーザーが作った世界を訪問したり、共同作業もできるマインクラフトはまちづくりワークショップにも最適。
国際連合人間居住計画(ハビタット)は、主に発展途上国の子供たちに向けた「Block by Block」という教育プログラムを運営している。ブロックを動かしながら簡単にアイデアを視覚化したり、組み換えたりできるマインクラフトは、専門知識がなくとも使用できるオープンでアクセシブルなツールだ。
インタラクティブなゲームの可能性
コロナウイルスの影響でフィジカルな場での情報交換が限られるなか、インタラクティブなビデオゲームの可能性に注目している企業や組織は、マイクロソフトだけではない。
ファッションブランドの「バレンシアガ」は、2021年の秋コレクションを「Aftreworld: The Age of Tomorrow」というゲーム形式で発表した。
データ送信サービスのWeTransferがここ数年行っているクリエイティブ業界調査報告レポートでも、2020年版にはボールを動かして簡単に遊べるゲームが組み込まれていた。
Mailchimpの2020年のアニュアル・レポートは、キャラクターを動かしながら読み進めるゲーム風の仕様となっており、普段ビジネスレポートなど読まない人でも、つい長居したくなる工夫がされている。
また、バイデン米大統領が「あつまれどうぶつの森」で選挙キャンペーンを行ったことは、記憶に新しい。香港の若者たちによる民主化運動も、屋外での活動が厳しく規制された結果、フィジカルな空間から「あつまれどうぶつの森」や最近では「Clubhouse」などの仮想空間に移行している。
インタラクティブなビデオゲームが、これからの若者文化をつくる
もちろん、Webサイトにインタラクティブなエンターテイメント性を持たせるなど、オンラインマーケティングにゲーミフィケーションを取り入れる事例は、パンデミックの流行以前からあった。
新型ポルシェ「911 GT2 RS」が2018年にデビューを飾ったのは、レーシングシミュレータゲーム「Forza Motorsport 7」内であったし、米国のロックバンドWeezerは2019年に、バトルロイヤルゲーム「Fortnite」上で新作アルバムをプロモーションする島を作った。
受動的に眺めるだけでなく、実際に触ってもらうことでユーザーにパーソナルな体験を提供しエンゲージメントを求める手法は、バーチャル空間への移行がますます顕著になりつつある今、今後も拡大していくだろう。2019年のゲーム業界の収益は1,390億ドル。在宅時間が長くなった2020年にはゲーム業界の収益は20%増加し、1,800億ドルまで伸びた。
トレンド予測家のショーン・モナハンは、スポーツや音楽などに代わり、ビデオゲームが若者文化の主流になりつつあると話す。
エンターテイメントだけでなく、マイクロソフトの「Sustainability City」など、教育や企業ブランディング、政治活動にもビデオゲームが活用される時代。マインクラフトの教育エディションなど、より良い世界に向けたゲームコンテンツの今後が楽しみだ。
文:杉田真理子
編集:岡徳之(Livit)