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2020年、新型コロナの影響が最も深刻だった産業の1つは、観光産業だろう。
このほど国連世界観光機関(UNWTO)が発表した報告によると、同年のグローバル観光産業の経済損失規模は1兆3,000億ドル(約136兆円)と、2008年のリーマンショック時の11倍に上ったことが判明。各国のインバウンド客数も前年比で74%減(10億人減)となった。
観光客減少率を地域別に見ると、アジア太平洋地域が最大で84%。これに中東76%、欧州71%、アフリカ71%、米州69%が続いた。UNWTOは、観光関連分野では依然1億~1億2,000人の雇用が危機的状況にあると指摘している。
2021年に入り、ワクチンの普及が進みつつある中、今年の観光産業は幾分か回復するのではないかとの声もあるが、専門家らの意見は様々だ。
UNWTOが観光産業の専門家パネルを対象に実施した意識調査では、2021年の観光産業が前年に比べ良くなると予想している割合は45%、2020年と変わらないと見る割合は25%、前年より悪くなるとの割合は30%と、半数以上が今年と同じか、悪くなる可能性があると考えていることが判明した。
また世界の観光産業が2019年の水準に戻るのは、2023年になるとの回答が43%、2024年以降になるだろうとの意見は41%という具合だ。
ワクチン接種で隔離免除の観光地続々、セーシェルやタイ・プーケットなど
上記専門家の予想が示す通り、世界の観光産業が2019年の水準に戻るには、ある程度の時間を要するかもしれないが、ワクチンの普及とワクチンパスポート制度の導入により、2021年から消費者の支出が少しずつ観光に戻ってくるシナリオは十分に考えられる。
ワクチン接種した観光客の隔離免除を表明する国がいくつか登場しているのだ。
中東ニュースメディアNationalの記事(2021年2月8日)によると、現時点でワクチン接種済みの観光客の受け入れを表明している国は8カ国・地域。その8カ国とは、セイシェル、ルーマニア、エストニア、アイスランド、ジョージア、ポーランド、タイ・プーケット、キプロス。
ワクチン接種済みであれば、14日間の隔離を免除すると世界で初めて表明したのはセーシェルだ。2021年1月14日、セーシェル政府は、4つの主要ワクチンのうち1種類について、2回の接種を完了し、かつ72時間以内のPCR検査で陰性である観光客であれば、隔離を免除する方針を発表。2回目の接種は入国2週間前までに済ませておく必要がある。
さらに3月中旬にはワクチン接種条件を緩和する方針も発表。ワクチンを接種しなくても、PCR検査での陰性を証明すれば隔離を免除する。セーシェル政府の計画では、この時期までにセーシェル国民の75%がワクチンを接種しており、安全を確保できるとみているようだ。
米CNBCによると、セーシェルは米モデルナのワクチンを受け取る予定になっているが、現在実際に投与されているワクチンの多くは中国Sinopharm傘下の企業が開発したもの。一部の専門家が、臨床試験結果に関する情報不足を懸念するワクチンだ。セーシェルはこのほか、アラブ首長国連邦からSinopharmワクチンを、またインドからCovishiledワクチンを受け取るなど「ワクチン外交」が白熱する場にもなっている。
日本人に人気の観光地タイ・プーケットでは、地元政府が2021年10月までに住民40万人のうち25万人のワクチン接種を完了させるとともに、ワクチンを接種した観光客の受け入れを開始する計画を発表。タイ政府も「ワクチンパスポート」についての議論を進めるなど、観光産業復興に向けた動きが活発化しつつある。
英語圏のZ世代・ミレニアル世代、「ベタな」観光地は避けて旅行
こうした世界の観光産業の動きがある中で、消費者は旅行についてどのような意識を持っているのか。
EuroNewsが伝えた英語圏の旅行ウェブサイトTopdeckの観光意識調査によると、Z世代とミレニアル世代の中で、ロックダウンを体験したことで、旅行への意欲が高まったとの回答は93%に上った。また81%がスタンダードな観光地ではないところに旅行するつもりだと回答、75%が次の旅行では普段より長い休暇を取得すると回答している。
Topdeckの調査では、英語圏のZ世代・ミレニアル世代の間で関心が高い旅行先として、ギリシャ、イタリア、日本、カナダ、アフリカ、ニュージーランドなどが挙げられている。
欧米の観光業界では2020年に「Isolationist Travel」という言葉が頻繁に登場していたが、2021年もこのトレンドは続くと思われる。
Isolationist Travelとはその言葉の通り、密になりそうな場所を避ける旅行スタイルで、アウトドアアクティビティ、リモートロッジ宿泊、プライベートキャンプを指す言葉だ。
上記Topdeckの調査でも81%がスタンダードな観光地を避けるだろうと回答していることからも、Isolationist Travelへの関心が依然高いであろうことが推定できる。
このトレンドは、日本のトレンドとも軌を一にするもの。日本では「ソロキャンプ」や「車中泊」、さらに「バンライフ」という言葉が広がりを見せ、実践者も増加している印象がある。
今後、ワクチンパスポートの導入による入国緩和が進み、海外観光客が増えたとき、日本でも英語などで「ソロキャンプ」や「車中泊」を実践する仕組みが整っていれば、海外観光客に人気となるのかもしれない。
デジタルノマドビザと「ワーク・フロム・ビーチ」
リモートワークの普及で、プライベートと仕事の境界線が曖昧になったといわれている。
これは旅行と仕事の関係にも当てはまりそうだ。リモートワークによって自宅以外からも仕事ができるようになった今、リゾート地で長期滞在し、その場所で休暇を堪能しつつ、仕事もするという生活スタイルが可能になっている。
たとえば、バルバドスでは、最長12カ月のデジタルノマドビザを取得することができる。バルバドスは、カリブ海諸国の中でも最速のネット速度であることを謳っており、デジタルノマドの誘致に注力している。
このほか、バミューダ、モーリシャス、ケイマン諸島なども同様デジタルノマドビザを発給しており、「ワーク・フロム・ビーチ」というライフスタイルも実現可能となっているのだ。
2021年、観光産業はどこまで復興することができるのか。ワクチンパスポートの普及、それに伴うグリーンレーンの拡張、新たな旅行トレンド、リモートワークと観光の融合など、復興を目指す取り組みに注目していきたい。
文:細谷元(Livit)
参考
https://www.cnbc.com/2021/01/25/covid-vaccine-travel-seychelles-is-open-to-vaccinated-visitors.html