イスラエルでは人口の約40%がワクチン接種

「ワクチン後進国」と呼ばれる日本では2月中旬頃からようやく新型コロナのワクチン接種が開始される。

他国のデータと比較してみると、ワクチン後進国と呼ばれる理由が明確になる。

ロイター通信2月8日時点の最新情報では、すでにワクチン接種を開始した国の数は67カ国に上り、累計回数は1億回を越えた。

最もワクチン接種が進んでいるのがイスラエルで、2回接種する前提で見た場合、全人口(約880万人)の28%がワクチンを接種した計算になる。

またオックスフォード大学の統計サイト「Our World Data」2021年2月8日時点の最新データによると、少なくともワクチンを1回接種した人口比率でイスラエルは39.59%に達している。

人口100人あたりのワクチン接種人数、イスラエルが大差でトップに(「Our World Data」より)

イスラエルのほか、少なくともワクチンを1回接種した人口の割合が高いのは、アラブ首長国連邦(39.95%)、英国(約16.89%)、バーレーン(10.73 %)、米国(9.05%)、マルタ(6.36%)、アイスランド(3.71%)、デンマーク(3.39%)、ルーマニア(3.37%)、ポーランド(3.17%)、アイルランド(3.08%)、スペイン(2.79%)、フランス(2.72%)、ドイツ(2.64%)、イタリア(2.34%)など。

イスラエルの新型コロナ・ワクチンステーション(2021年1月25日)

絶対数で見ると米国が最多。これまでのワクチン接種回数は3,900万回に上る。これに中国(3,120万回)、英国(1,198万回)、インド(578万回)、イスラエル(544万回)、アラブ首長国連邦(420万回)、ブラジル(340万回)、トルコ(260万回)、イタリア(252万回)、フランス(208万回)、スペイン(199万回)、カナダ(104万回)、インドネシア(91万回)などが続く。

このようなワクチンの普及とともに活発化しているのが「ワクチンパスポート」をめぐる議論だ。

ワクチンを接種した人に「ワクチンパスポート」を発行し、その提示を飛行機利用や入国の際の条件にしようという動きが出始め、賛否の議論が巻き起こっている。

海外渡航に「ワクチンパスポート」が必須となる可能性が高まっており、海外旅行を切望する日本人にとっても無視できないトピックだ。

オーストラリア旅行に「ワクチンパスポート」が義務付けられる可能性

日本人に人気のある海外渡航先オーストラリアでは、2020年11月頃カンタス航空などが、国際便の搭乗者に対し「ワクチンパスポート」の提示を義務付ける計画を発表。スマホアプリを使って、ワクチン接種の有無を証明する仕組みを導入するという。

地元紙シドニー・モーニング・ヘラルド11月24日の記事によると、カンタス航空のアラン・ジョイスCEOは、国際便搭乗者に対し、搭乗前に新型コロナワクチン接種の証明を義務付ける方針を明らかにした。国内便については、今後の情勢次第で、証明義務の有無を決めると語っている。

地元メディアExective Travellerが2021年1月21日に伝えたところでは、カンタス航空はこのほど、国際線利用者にワクチン接種を義務付けるとする同社の方針に対する消費者の意識調査を実施。それよると、海外渡航でワクチン接種が必須になるのであれば、接種すると回答した割合は87%に上ったことが判明。また、一部の国への渡航にワクチン接種が義務付けられるべきとの回答も85%と高い割合が示された。

カンタス航空は2021年7月から国際線の運航を再開する構えだ。

シンガポール、昨年末から「ワクチンパスポート」の取り組み開始

カンタス航空のこの動きは、航空会社の国際業界団体「国際航空運送協会(IATA)」が推進する枠組み「IATA Travel Pass Initiative」に準ずるものだと報じられている。

このIATAのトラベルパスポート計画は、各国政府の認証を受けた検査/ワクチン提供機関が検査/ワクチン接種済みの証明証をモバイルアプリに発行し、世界共通のワクチンパスポートとして利用しようというもの。

IATAの枠組みに関して、今最も取り組みが進んでいるといわれるのがシンガポールだ。

シンガポール航空は昨年12月23日から、QRコードを活用したトラベルパスポートの試験運用を開始。認定機関が検査/ワクチン接種を証明するQRコードをデジタルまたは書類の形で発行、航空会社や当局は旅行者の搭乗/入国時にそのQRコードを読み取り、検査/ワクチン接種の有無を確認するというもの。

現在、インドネシア・ジャカルタ、またはマレーシア・クアラルンプールからシンガポールに渡航する人が対象だが、運用がうまくいけば、他の都市にも拡大する計画という。また、スマホアプリへの統合も進めており、2021年6月頃にはスマホが検査/ワクチン接種を証明するパスポート代わりになる可能性もある。

シンガポール地元紙ストレーツタイムズは、同国政府がこの「トラベルパスポート」の仕組みを国際標準にするために、IATAに働きかけていると伝えている。

ユナイテッドやルフトハンザも「ワクチンパスポート」導入へ

IATAの枠組みは、世界中の政府や航空会社の連携が必要となるため、広く普及するには少し時間を要するかもしれない。

その間に、航空会社単体や国・地域で各々「ワクチンパスポート」の取り組みが広がるシナリオも考えられる。

ニューヨーク・タイムズ紙(2021年2月4日)によると、米ユナイテッド、ジェットブルー、ドイツ・ルフトハンザは、今後数週間以内に世界経済フォーラムが主導して開発したスマホアプリ「CommonPass app」を導入する計画だ。このアプリも、利用者の検査/ワクチン接種を証明するものだ。

またロイター通信(2021年1月8日)によると、デンマークが独自に「デジタル・ワクチンパスポート」を開発中とのこと。デンマークでワクチン接種を完了した人に発行するデジタル証明証で、海外旅行の入国時に提示する。スマホアプリ形式になるのかどうかはまだ未定。

欧州ではこのほかシェンゲン圏での移動を促進するためワクチンパスポートの導入が議論され、さらに英国でも独自のワクチンパスポートアプリの開発が進められている状況だ。

ワクチンパスポートをめぐっては、個人情報問題や差別を助長する可能生を指摘する批判の声もあるが、安全性を確保したいという政府・航空会社・国民の声は強く、概ね肯定的に捉えられている印象だ。英ガーディアン紙も、英国では人権保護団体がワクチンパスポート導入の動きに反対しているが、プロジェクトを支援する声は増えていると伝えている。

歴史的経緯からワクチンに対し消極的になってしまったといわれる日本だが、ワクチンパスポートが世界標準となった場合、考え方や態度を変えざるをえない。

文:細谷元(Livit

参考
https://graphics.reuters.com/world-coronavirus-tracker-and-maps/

https://ourworldindata.org/covid-vaccinations

https://www.executivetraveller.com/news/qantas-says-87-of-flyers-willing-to-take-covid-vaccine-if-required

https://www.iata.org/en/programs/passenger/travel-pass/

https://news.trust.org/item/20210108102547-wylec/

https://www.theguardian.com/society/2021/jan/15/covid-vaccine-passports-what-are-they-and-do-they-pose-a-danger-to-privacy