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1日の再生回数35億回、YouTube短編動画シェア機能「Shorts」
時代劇「暴れん坊将軍」でお馴染みの松平健氏やオリエンタルラジオの中田敦彦氏など、著名な俳優や芸人の参入で活況する日本のYouTube。
グローバルでもおもしろい展開を見せている。
YouTubeが2020年9月にインドで試験導入を開始した短編動画シェア機能「Shorts」の1日あたりの視聴回数が35億回と驚異的な数字を叩き出したのだ。この数字は、YouTubeのスーザン・ウォジスキCEOがこのほど発表した「2021年のYouTube戦略」の中で明らかされたもの。この結果を受け、YouTubeは2021年、Shortsの展開を加速させる構えだ。
2020年、パンデミック/ロックダウンの影響で、視聴数が大きく伸びたといわれるYouTube。2021年もShortsを中心に、ダイナミックな動きを見せるものと思われる。
そんな2021年のYouTube動向を予想する上で、重要になってくるのが、グローバルYouTuberたちだ。数千万人のフォロワーを持つグローバルYouTuberたちのコンテンツや発言は、世界各地のコンシューマ市場に大きな影響を及ぼし、グローバルトレンドを形成することも少なくない。
たとえば、2020年11月だけで世界5億人のプレイヤーを記録したオンラインゲーム「Among Us」は、TwitchとYouTubeのインフルエンサーによって世界トレンドを形成した好例といえる。
グローバルYouTuberといっても数多く存在する。その中でも、特に注目されているYouTuberを見つけるには「YouTube界のオスカー賞」と呼ばれるStreamy Awards(ストリーミー賞)の受賞者やノミネートされたクリエイターを見てみるのが良いかもしれない。
これは2009年、オンライン配信動画のクリエイター向けに始まった賞で「配信動画のアカデミー賞(オスカー賞)」などと呼ばれることもある。ただ、最近ではストリーミー賞でノミネートされるクリエイターのほとんどがYouTuberであることから、メディアでは「YouTube版オスカー賞」などという表現が用いられる場合がある。
毎年発表されるストリーミー賞。2020年12月末に最新の2020年版が発表されたばかり。特に注目されるグローバルYouTuberをピックアップしてみたい。
平均動画制作コスト3,000万円以上、1日15時間稼働のトップYouTuber
2020年のストリーミー賞では、3つの大テーマを設定。その下に様々な部門を設け、受賞者を選定している。3つのテーマとは「ストリーミー賞」「ソーシャルグッド賞」「ブランド賞」だ。
ストリーミー賞では、総合賞に加え、ビジュアルエフェクト、編集、ダンス、コメディなど詳細な部門に分けられている。総合賞受賞者に対するメディアの注目度は高く、話題にもなりやすい。
2020年総合賞を受賞したのは、22歳の米国YouTuber、ジミー・ドナルドソン氏だ。「Mr.Beast」の名で活動するドナルドソン氏、そのメインチャンネルの登録者数は2021年2月2日時点で5,250万人。スペインの人口(約4,700万人)や韓国の人口(約5,100万人)を上回る数だ。同チャンネルの累計再生回数は、90億回近くに達している。
ストリーミー賞の選定は、独立した審査員、クリエイター組織、オンライン映像産業の専門家らによってなされている。選定基準の詳細は不明だが、ストリーミー賞ウェブサイトによると、世界的にフォロワーを持ち、イノベーティブかつ視聴数の多いコンテンツを配信しているクリエイターを選定しているとのこと。
ドナルドソン氏が総合賞を受賞した理由の1つとして考えられるのが、動画あたりの視聴数が他のクリエイターを圧倒している点だ。
ここ最近の動画1本あたりの視聴数は、3,000万〜4,000万回を維持している。登録者が5,000万人以上いるため不思議ではないと思うかもしれないが、すべての登録者がすべての動画を見るとは限らず、この回数を維持しているのは驚異的と考えられている。個人で世界最多の登録者を誇るPewDiePieチャンネルは1億人以上の登録者がいるが、動画1本あたりの再生回数は400〜500万回にとどまっている。
ドナルドソン氏の動画の人気が高い理由はいくつか考えられるが、企画・コスト面で他のYouTuberが真似できないほどリソースを投下している点、そして社会課題に対する姿勢に好感が持たれている点などが挙げられる。
ブルームバーグによると、ドナルドソン氏の動画1本あたりの長さは10~15分だが、企画を練るのに数カ月、撮影・編集には5日かけている。ドナルドソン氏自身の稼働時間も1日12〜15時間に達するという。企画を実行するコストも動画1本あたり平均30万ドル(約3,100万円)と驚異的だ。
2020年8月14日に投稿した動画では、80万ドル(約8,400万円)で島を購入。この動画の視聴回数は4,600万回、続いて公開した島でのチャレンジ企画動画は6,000万回再生された。島関連では計1億回の再生回数を記録しているが、おそらくこれらの動画だけで島購入にかかったコストや撮影コストは回収できていない。こうした点が、他のYouTuberとの大きな差別化ポイントになっている。
社会課題に対しては、ドッグシェルターのすべての犬に里親を見つけたり、植林2,000万本プロジェクトを実施したりと、YouTubeを通じてドナルドソン氏らしいスケールで活動を実施。このような点が考慮され、ストリーミー賞では総合賞だけでなく、「ソーシャルグッド賞」も受賞している。
ドナルドソン氏はツイッターで「メインチャンネルは損失覚悟で運営を行い、フォロワーをできるだけ増やすことに注力。その影響力を駆使して、将来ホームレス向けのシェルターやフードバンクを設立し、稼いだお金はすべてそのようなプロジェクトに使いたい」と表明。
また「自身が死ぬときは銀行口座はゼロになっている。物質的なライフスタイルには興味がない」と自身の価値観を語っていることも、Z世代やミレニアル世代の人気を集める理由になっているようだ。
ストリーミー賞は基本的に英語チャンネルが対象になっているが、非英語圏のクリエイターらも受賞のチャンスがある。ストリーミー賞・インターナショナル部門では、米国以外のクリエイターがノミネートされている。
2020年は、日本からはヒカキン氏がノミネートされたほか、スペインのMikecrack、インドのMythpat、キューバのSandra Cires Artがノミネート。この部門ではブラジルのWindersson Nunesが受賞した。
イーロン・マスクも視聴、グローバルトレンドを知り、英語学習もできるYouTubeチャンネル
日本でYouTubeは、英語学習の場としても活用されている側面がある。
今回ストリーミー賞のノミネーションの中には、英語学習としてだけでなくグローバルトレンドも知る上でも役立つチャンネルがいくつかある。
マーケス・ブラウンリー(Marques Brownlee)氏のチャンネルはその1つだろう。
主にテックガジェットのレビューを行うYouTuberで、登録者数は1360万人、累計再生回数は23億回。時折、イーロン・マスク氏やビル・ゲイツ氏などテック業界の大物との対談動画も配信しており、テック界隈のグローバルトレンドを確認する上で役立つチャンネルだ。マスク氏がブラウンリー氏のレビュー動画を視聴して、ガジェットを購入したという逸話もある。
日本でもますます活況するYouTube。グローバルな動向も合わせて、2021年は目が離せない年になりそうだ。
文:細谷元(Livit)
参考
https://www.streamys.org/nominees-winners/10th-annual-nominees/