2050年までに、魚よりも多くのプラスチックごみが海を漂うことになるーー。非常にショッキングな表現だが、私たち人間がこれまでと同じようにプラスチックを製造し、廃棄し続ければこれが現実のものになるという

プラスチックとはそもそも石油にエネルギーをかけて加工したものだ。地中の奥深くに眠る石油という資源を人間が掘り起こし、ほんのわずかな間使用しただけでそれをごみに変えてしまい、その多くを自然の中に撒き散らしている。特に包装容器は、食品などを保存するためのほんの短い時間使われるだけでごみになっている。

1964年には1,500万トンだったプラスチック製造は、この50年の間に20倍の3億1,100万トンへと膨れ上がった。さらに、この先20年で倍増すると予測されている。UNEPの同報告書によると、日本人1人当たりのプラスチック包装容器のごみ廃棄量はアメリカに次ぐ世界第二位で、年間32キロにものぼる。

使用後のプラスチック包装容器はリサイクル回収されるものもあるが、最終的に資源として活用されるのはたったの5%に留まる。残りはすべて廃棄されているのが現状だ。

一度自然の中に流出したプラスチックは、その後数百年、もしくは半永久的にエコシステムの中を漂う。海や川の生き物に有害なのはもちろん、生態系にちらばるプラスチックは形を変えて私たち人間の口にも入っているだろう。

一方で、プラスチックは軽く、耐水性に優れ、加工しやすいなどの特性がある。少し部屋を見回しただけでも、PCや掃除機、化粧品、洋服など身の回りのあらゆる製品に用いられており、プラスチックなしの暮らしなど想像できないほどだ。特にこのコロナ禍では、衛生を保つために食品や医療の場などでその能力を発揮している。

このプラスチックという素材の恩恵を受けつつも、環境負荷を減らすため、今世界各地では多くのスタートアップ企業があらゆる原料から「代替プラスチック素材」の開発・実用化に向け大きく歩みを進めているので紹介したい。

木由来のプラスチック代替素材をつくる「Sulapac」

フィンランドのSulapacは、バイオマテリアル分野の研究者2人が立ち上げた、木を原料とする次世代プラスチック素材を提供するスタートアップ。創業者のSuvi Haimi氏とLaura Kyllönen氏がフィンランドの壮大な森林からインスピレーションを受けて開発したのが、バイオコンポジット材料(木材と天然の結合剤)という独自素材だ。Sulapacのつくる代替プラスチック素材は工場や海洋環境で生分解可能だという。

Sulapacがこの素材を提供し、協業する企業はこれを元に化粧品やジュエリーを入れる容器などを作る。すばらしいのは、通常プラスチックを原料として容器の製造を行う工場が機材を入れ替えることなく、そのままこの代替素材を製造ラインに投入して容器の製造販売を行うことができる点だ。

2019年にはフランスのラグジュアリー・ハウスのシャネルや複数のベンチャーキャピタルなどから1,900万ユーロ(約24億円)の資金調達を受けたほか、革新的なサーキュラーエコノミーの新興企業に贈られる「Green Alley Award」や複数の国際的な賞を受賞している注目企業だ。

とうもろこしなど植物素材からフードパッケージをつくる「Vegware」

スコットランドに拠点を置くVegwareは、ヤシの葉やとうもろこしなどの植物から作られた環境に優しいフードサービス用パッケージを提供する。現在はヨーロッパ、中東、中南米など世界70カ国で販売されている。

使い終わったら回収して、専用のコンポスト施設で堆肥化することで、環境に負荷をかけない一方で、見た目も素材の特性も石油由来のプラスチックに引けを取らないところが魅力だ。

コロナ禍でもロックダウンする都市でのテイクアウトのニーズがあと押しする形となり、Vegwareは昨年10月、前年比43%の営業利益を記録している。

海藻からつくる食べられるプラスチック代替素材「Ooho!」

イギリス著名大学院インペリアル・カレッジ・ロンドンと美術大学院ロイヤル・カレッジ・オブ・アーツの学生だった創業者2人が立ち上げたのは、「包装容器を消す」ことを目指すスタートアップNotplaだ。

言葉の通り、Notplaがつくる海藻由来の代替プラスチックの袋Ooho!は使い終わると消えてしまう。袋は豊富な天然資源である海草から作られているため食べることができ、食べない場合も自然食品と同様に4週間から6週間で生分解される。

Ooho!は食事をテイクアウトする際のソース入れやドレッシング入れとして利用したり、水を入れてペットボトルの代わりなどとして利用することができる。ロンドン・マラソンでは2017年から給水所で一部ペットボトルの水の代わりにろ過水の入ったOoho!が配布されている。

Notplaはこれまでに計3回、合わせて540万ポンド(約7億7,200万円)の資金調達を行うなど、イギリス国内外からの注目を集めている。

砂糖を原料にしたペットボトル代替素材「Avantium」

オランダに拠点を置くAvantiumは、ペットボトルの原材料となる石油を削減するため、植物性の材料のみを使ったペットボトルを開発した。

この新しいペットボトルの原料は、環境に優しい方法で栽培されたとうもろこしや小麦から抽出された砂糖。植物性と言えど、炭酸飲料に使用することもでき、生分解することも可能だ。

コンポストを使えばおよそ一年ほどで自然のバクテリアがボトルを分解し、土に還る。また、試験結果によれば、コンポストせず外へ放置したとしても同様の時間で分解されることも示唆されている。

Avantium社の開発したこのペットボトルの試作品開発には、コカ・コーラ、ダノン、カールスバーグなど、世界的大企業らも支援に加わった。なかでもコカ・コーラは2023年までにこの生分解可能なプラスチックボトルで飲料を販売する意向だという。

Avantiumは、将来的には新たに抽出した砂糖を原料とするのではなく、バイオ廃棄物からの製造に切り替える予定だと発表している。世界中で製造されるペットボトルは年間およそ300万トンにも上ると言われるなか、大手企業も新たな素材に注目している。

世界初の植物性タンパク質由来の「Xampla」

日本人研究者も携わるイギリス・ケンブリッジ大学発のスタートアップXamplaが目指すのは、同社のつくる100%植物由来のタンパク質からつくる100%無害な生分解性のプラスチック代替素材によって、マイクロプラスチックとすべての種類の使い捨てプラスチックに取って代わることだ。

柔軟剤などに使われる、香り成分を閉じ込めるためのプラスチック製のマイクロカプセル(マイクロビーズなどと表現されることもある)は粒子が細かく目に見えないため、他のプラスチックごみのように回収してリサイクルすることが難しく、生活排水の中に混ざって川から海に流れ出し、生態系に大きな負荷をかけている。

製造され、自然界に流れ出すマイクロカプセルは年間ペットボトル100億本分にも相当し、今後20年間で40万トンものマイクロプラスチックが海に排出されると見込まれる。

Xamplaの技術によって、このマイクロプラスチックは植物性タンパク質由来の生分解する素材に置き換えられることとなる。同社はマイクロカプセルの他にもフィルム状の素材やコーティング剤、使い捨て包装容器などのプラスチック代替素材を提供する。

2018年創業のXamplaは2020年、元コカ・コーラやユニリーバのサステナビリティ統括を努めたJeff Seabright氏を会長職に迎え、さらに2021年1月には620万ポンド(日本円約8億8,700万円)の資金調達を行ったことを発表。

EUは2019年、2024年までにマイクロカプセル含むマイクロプラスチックの製造販売を禁止する発表を行っており、今後この分野におけるプラスチック代替素材への需要が拡大することが見込まれる。

生分解・堆肥化する「はず」の代替プラスチック問題の切り札になるか

生分解・堆肥化されることが利点の代替プラスチック素材だが、一定の気温・湿度に保たれた条件下で管理された場合のみ実際に分解されるものがほとんどで、期間も数週間〜1年かかる。

よって、100%分解可能ではない、あるいは分解されて無害化する前に自然界に流出すれば従来型のプラスチック同様に生態系や環境に負荷をかける可能性もあると議論の対象となってきた。イギリスでサーキュラーエコノミーを推進するエレン・マッカーサー財団らも、代替プラスチック素材はあくまでも必要最低限の利用に留めるべきだとしている。

これまでタンパク質は100%分解され、無害化できるプラスチック代替素材として注目されてきたが、だれもプラスチックのような構造に加工することができないでいた。これを、Xamplaが世界で初めて達成したため、今後代替プラスチック問題の切り札になるのではないかと注目されているわけだ。

ただ、今後は、そもそも仕組みの上でプラスチック、特に使い捨てプラスチックへの依存度を減らすことが求められる。いくら消えるからと言っても、短い時間を使ってすぐに不要になる使い捨て包装容器を都度製造することには資源もエネルギーもかかりすぎるからだ。

プラスチックが不要な仕組みとは、例えばボトル入りではなく固形タイプのシャンプー・バーに切り替えたり、ガラスなど耐久性の高い容器を繰り返し利用する「再利用モデル」の包装容器を導入したり、家から店まで容器を持って行って購入する量り売りの仕組みを取り入れたりすることが考えられる。

今後も包装容器分野における脱「石油」化へ向けた取り組みは目まぐるしいイノベーションとともに進化していくことだろう。

文:西崎こずえ
企画・編集:岡徳之(Livit