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米国発Clubhouse、日本でもほぼ同時進行で拡大中
2020年4月に米国でローンチされ、ベンチャー投資家らを中心に利用者を拡大してきた音声SNS「Clubhouse」。2020年末頃から日本でもユーザー数が急速に拡大し話題に。国内ビジネス/テックメディアによる報道も急増し、「Clubhouse」がちょっとしたバズワードとなっている。
通常、海外発のソーシャルアプリが日本で話題となり普及するまでには、少し時間を要するところだが、Clubhouseに関しては、そのタイムラグがほとんどない印象を受ける。英語圏の一般向けのニュース/ビジネスメディアがClubhouseを取り上げ始めたのは、つい最近のこと。
たとえば、ブルームバーグ(英語版)は「Forget TikTok. Clubhouse is Social Media’s Next Star」というセンセーショナルなタイトルの記事を公開したが、公開日は2021年1月25日。またニューヨーク・タイムズ紙の「Clubhouse Makes Way for Influencers」と題した記事は、2020年12月23日公開といった具合だ。
Clubhouse自体が新しいSNSであること、そして本場米国でも主要メディアを通じた議論が日本との時間差なしで起こっていることから、Clubhouseをめぐって米国でどのような展開があるのか、日本語での情報は限られている。
本記事では、米国メディアの最新情報を参考に、現時点で日本語メディアでは報じられていないClubhouseの可能性と課題に関する議論を追ってみたい。そこから日本市場でのClubhouseの進化を予想することができるかもしれない。
10億ドルで株式購入したい投資家も?数字で見るClubhouse
まず、Clubhouse関連の数字をまとめてみたい。
上記2021年1月25日付のブルームバーグ記事は、Clubhouse共同創業者ポール・デイビソン氏が1月24日に開催したタウンホール会議での発言を紹介。それによると、ユーザー数はこの2〜3週間で2倍増となる200万人に到達したという。
2020年12月23日のニューヨーク・タイムズの記事は、同時点における利用者数は60万人だったと伝えていることから、2021年1月だけで100万人以上のユーザーを獲得した計算となる。
現在Clubhouseを利用できるのはiOSのみ、かつ利用するには既存ユーザーからの招待が必須(2人まで招待可能)。このことを考慮すると、この短期間でのユーザー増加率は特筆に値する。もし、アンドロイドでも利用できるようになり、さらに招待制から誰でも参加可能な形になれば、ユーザー数はさらに増えることが見込まれる。実際、Clubhouseの運営チームは、新しい参加方式を検討中だ。
このほかClubhouseに関連する数字としては、評価額に関するものがある。ブルームバーグがThe Infomationの情報(1月22日)として伝えたところでは、同社株を10億ドル(約1050億円)で取得しようと試みる投資家が出現。同社評価額は8カ月前に1億ドル(約105億円)といわれており、この短期間で10倍に膨れ上がったことになる。
本国米国での最新トレンド、インフルエンサーは40〜50歳
もともとシリコンバレーなど米国のベンチャーキャピタリストらの間で人気となったClubhouse。パンデミックの影響で自由に外出できない状況下、投資家らの「オフレコ」の会話やネットワーキングのオンライン空間として発展してきた経緯があるが、今ではその用途・ジャンルは非常に多様化している。
米国では、有名人のトークショー、DJによる音楽イベント、スピードデート、政治関連ディスカッションなどの人気が高いという。
上記ブルームバーグの記事は「TikTok」に代わるソーシャルメディアが登場したと大々的に報じているが、現状を見る限り、ユーザー層は大きく異っている可能性が高く、もしかすると別の表現の方がしっくりとくるのかもしれない。
TikTokは音楽と映像による短編動画アプリであり、その主なインフルエンサーとユーザーはともに10代とみられている。一方、Clubhouseは音声のみのSNSで、インフルエンサーとユーザーの年齢層はかなり高いといわれている。
データが公表されている訳ではないが、ニューヨーク・タイムズが伝えた、Clubhouseインフルエンサーの1人、キャサリン・コナーズ氏(50歳)の発言によると、同SNSでは40〜50代のインフルエンサーが多い。
コナーズ氏は現在、Clubhouseが主催する「Creator Pilot Program」に参加している。同プログラムは、Clubhouseの創業者との定期ミーティングに参加したり、開発中のツールに早期アクセスしたりできるもので、40人ほどの著名なClubhouseインフルエンサーが参加中だ。コナーズ氏によると、このうち40〜50代のインフルエンサーが数名参加している。
またコナーズ氏は、Clubhouseの著名インフルエンサーの多くは、一般的に「インフルエンサー」と聞いて想起されるZ世代やミレニアル世代ではないとも発言している。
Clubhouseは音声のみのSNS。インフルエンサーとして視聴者を魅了するには、会話内容や質がカギとなる。こうした性質から、必然的にインフルエンサー、視聴者ともに年齢が高くなる傾向があるのかもしれない。
また、最近日本でも利用者が増えているDiscordと似ているという話もあるようだが、Discordの主要ユーザーもZ世代とミレニアル世代。ユーザー層は少し異なると思われる。
クリエイターエコノミーの醸成と差別・フェイクニュース対応がカギ
現在、ユーザー数が急拡大しているClubhouseだが、この先FacebookやYouTubeのような存在になるには、いくつかの課題をクリアする必要があると指摘されている。主には「クリエイターエコノミー」の醸成と差別・フェイクニュース問題への対策強化だ。
クリエイターエコノミーとは、具体的にマネタイズの仕組みの整備だ。インフルエンサー/クリエイターがコンテンツを制作するにはコストがかかる。このコストを回収し、次のコンテンツ制作に投じる資金を稼がなくてはならない。資金が稼げない環境では、インフルエンサーと視聴者の流出は免れない。2017年にサービスを終了した短編動画アプリVineは、このクリエイターエコノミーの創出に失敗した事例として知られている。
一方、YouTubeはこのほど発表した2021年の戦略の中で「クリエイターエコノミー」という言葉を強調しており、2021年以降はソーシャルメディア間のクリエイターエコノミー創出/強化の競争が激しくなることが想定される。
こうした流れを受け、Clubhouseは2021年1月24日に公開したブログの中で、クリエイターへの投資を強化する方針を発表。今後数カ月以内に、チップ、チケット、サブスクリプションなどを通じて、クリエイターがマネタイズできる仕組みを導入する計画という。同ブログは、検索/ランキング機能の強化計画にも触れている。
差別・フェイクニュース問題に関しては、どこまで実効性のある対策を導入できるかに焦点が集まりそうだ。
現在、Clubhouseでは利用規約で、暴力やポルノに加え差別的な発言を禁止している。そのようなユーザーがいても、他のユーザーが報告すれば、運営側が違反ユーザーの利用を禁止することができる。
しかし、同じような差別・暴力的な意見や思想を持つ人のみのコミュニティがClubhouse内に醸成されてしまう可能性も否定できない。誰も報告しなければ、運営側が知ることは難しい。
米Vanity Fair誌2020年12月10日の記事は、いくつかの事例からClubhouseのエコーチェンバー化の危険性を指摘している。エコーチェンバー化は、FacebookやTwitterにも観察される問題。Clubhouseがどのような対策を取るのかが気になるところ。
音声SNS分野は、Twitterの「Spaces」に加え、Clubhouseの直接的な競合といえる「WaterCooler」が登場。今後、さらなるプレイヤーの参入も見込まれる。本国米国でのClubhouseの動向に加え、他にどのようなプラットフォームが登場するのか、注目してみてはいかがだろうか。
文:細谷元(Livit)
参考
https://www.joinclubhouse.com/welcoming-more-voices
https://www.vanityfair.com/news/2020/12/the-murky-world-of-moderation-on-clubhouse