ロボットシェフ需要急騰、感染懸念と人材不足で加速する外食産業の調理ロボット導入

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AI・ロボティクスの進化に伴い、ロボットが対応できるタスクの範囲は広がってきている。ただし、産業ごとに自動化できる範囲は異なる。

マッキンゼーは米労働統計局のデータなどを分析し、産業ごとにどれほどの作業が自動化できるのか、その比率をまとめている(2016年7月)。

それによると、最も自動化可能比率が高いのは宿泊・フードサービス産業だ。その割合は73%。フードサービスでは、準備・調理・配膳など自動化範囲が広いと分析。ちなみに2位は農業と製造業でともに60%。以下、3位交通・倉庫業53%、4位小売53%、5位鉱業51%といった具合だ。

マッキンゼーの予想は、2020年新型コロナの影響も相まって、現実のものになりつつある。感染予防などを理由に、外食産業における調理ロボットの導入が加速しているのだ。

感染予防という観点だけでなく、ロックダウン・外出規制によってフードデリバリー需要が急増したこと、さらには外食産業における労働者不足などの構造的な問題も、調理ロボット需要増加の背景にあるといわれている。

新型コロナによって、外食産業はどのように変貌しているのか。欧米の最新動向を追ってみたい。

米国の老舗店も注目、1台300万円、ハンバーガーを焼くロボット「Flippy」

米国で人気のファストフードといえばハンバーガー。このハンバーガーの調理は今後、大半がロボットが担当することになるかもしれない。

米13州に377店舗を構えるハンバーガーショップWhite Castleは、このところハンバーガー調理ロボットへの投資を加速している。1921年創業の同社、世界初のバーガーチェーンといわれる老舗だが、先端テクノロジーの導入を積極的に進めているのだ。

AP通信が2020年7月に報じたところでは、White Castleはシリコンバレーの調理ロボットスタートアップMiso Roboticsと昨年から提携交渉を進めていたが、新型コロナをきっかけに議論は加速し、ロボット導入の試験運用に至ったという。

Miso Roboticsの「Flippy」(Miso Roboticsウェブサイトより)

White Castleが試験運用したのは、Miso Roboticsが開発している「Flippy」と呼ばれるロボット。バーガーを焼いたり、フレンチフライを揚げることが可能だ。温度センサーとクラウドでつながったAIブレインによって、調理を最適化できる。AP通信によると、Flippyは1台3万ドル(約310万円)、また月額1,500ドル(約15万5,000円)のサービス費用がかかるとのこと。

White Castleは1店舗での試験運用を実施していたが、その結果は良好だったようだ。10月末には、試験運用の結果を踏まえ、新たに10店舗でロボットを導入することを明らかにした。

スマホで注文ロボットキオスク、人は介在しないフードサービス

Flippyは調理に特化したロボットで、注文・配膳などには人の介在が必須だ。

一方、客がスマホを通じて直接やり取りするフードサービスロボットも登場している。

シリコンバレーのロボットスタートアップ、Blendidが開発しているスムージーロボットはその1つ。客はスマホで、欲しいスムージのカスタマイズや注文ができる仕組み。注文、調理、配膳で人が介在することはない完全無人の調理ロボットだ。食材補充のみスタッフが行う。

パンデミック前の導入数は、サンフランシスコの数カ所のみだったが、現在では病院やショッピングモールなどからの引き合いが増えているという。同社ウェブサイトによると、ウォルマート・ディクソン支店やサンフランシスコ大学のカフェテリアなどで導入されている。

Blendidのロボットキオスク(Blendidウェブサイトより)

同じく、カリフォルニア発のスタートアップChowboticsも、完全無人でコンタクトレスの調理ロボットを開発している。その名もサラダ調理ロボット「Sally」だ。

欧米のスーパーで一般的なサラダバーだが、ソーシャルディスタンスを維持するために、多くの店でサラダバーを含めセルフサービスは中止されている。そんな中、サラダバーの代替策として「Sally」を導入するスーパーが増えているという。

2020年10月末には、コンタクトレスにするためモバイルアプリをローンチ。客はスマホで注文し、ロボットが調理したサラダを受け取るだけという流れが可能となった。パンデミック前は、病院や大学での利用が多かったが、今ではスーパーや老人ホーム、さらには米軍施設などで関心が高まり、売り上げは前年比で60%以上増えているという。

サラダ調理ロボット「Sally」(Chowboticsウェブサイトより)

大手オンラインスーパーも注目、ロンドン発のフードサービスロボット

大西洋を隔てた欧州でも調理ロボットへの関心が急速に高まっている。

注目株の1つは、英国最大級のオンラインスーパーOcadoが資金を投じるロンドン発のフードロボットスタートアップKarakuriだ。

2020年12月時点までで、Ocadoなどから計1,350万ポンド(約18億円)を調達。このほど、最新調理ロボット「DK-One」を発表したばかり。

DK-Oneは、冷物・温物に対応したロボット。スマホやタブレットを通じ注文することが可能だ。厳密には「Cook(調理)」するロボットではなく、材料の最適保存と注文を受けてからその材料を組み合わせる「Assemble」ロボットであるとのこと。

パンデミック前は、新興レストランからの引き合いが多かったが、新型コロナの影響で、欧州の大手スーパーチェーンからの関心が急速に高まっているという。

「ロボットが仕事を奪う」は杞憂?外食産業の人材不足問題

AI・ロボットの普及が消費者の目に見える形で本格化している状況。こうした報道を受け、AI・ロボットがいよいよ人間の仕事を奪いにきたと戦々恐々とする人もいるかもしれない。

しかし、労働市場で起こる変化を踏まえると、実際はゼロサムゲームではない状況が浮き彫りとなる。

多くの国の外食産業では、労働者不足が深刻化しているのだ。これはパンデミック前から起こっていた問題だが、新型コロナで一層悪化したといわれている。

ブルームバーグも2020年8月27日の記事で、米国では歴史的に失業率が高まっているにも関わらず、外食企業の多くが労働者を見つけられない状況が続いていると伝えている。サービス産業は感染リスクが高く、賃金を上げても人が集まらないというのだ。またパートタイムで働く10代の若者も大幅に減っている。

一方で、フードデリバリー需要は増加しており、外食企業の多くはロボットに頼らざるを得ない状況。AI・ロボットが人の仕事を奪っているというよりは、人材を探すのが難しいタスクをロボットに代替させるという格好になっている。

欧米における外食産業の人材不足問題はこの先も継続すると見られている。ワクチンが開発され、パンデミック収束後には調理ロボット需要は下がるだろうとの見方もあるようだが、構造的な人材不足問題を鑑みると、調理ロボットがニューノーマルになっていく未来の方が確実性が高いのかもしれない。

[文] 細谷元(Livit

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