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新型コロナウイルスのパンデミックが生み出した社会的風潮の中に、「動物を飼う」という私たちの行動が挙げられる。コロナ以前から言われ、科学的にも証明されているのが、動物と共に過ごすことが人に安らぎをもたらすという効果だ。
この効用を意識してか、しないでか、コロナが広がっていくにつれ、人々は動物保護施設などから進んで犬などの動物を引き取っている話題が、世界各国のニュースを賑わしている。絆を深め、共に楽しみたいという犬と飼い主を対象にしたサービスやスポットも登場し始めている。
コロナ抑制にいい隔離で、反対にストレスを感じる人間
コロナは私たちの身体にさまざまに影響している。症状が事細かに解説され、誰もがどのような状態かを把握している「コロナ」という病気のみではない。コロナに関連するさまざまな状況が人々のメンタル面に大きな影を落としている。
コロナを抑制するのに有効とされる隔離やソーシャルディスタンスすら、私たちの心には負担だ。「ほかの人から距離を置く」ことは、「社会的動物」である人間に大きな影響を及ぼしている。
同様にコロナ対策として実践されているのが、コロナで亡くなった場合はその人を見送れないというルールだ。感染し、入院した時点から見舞いに訪れることも、最期を看取ることも、葬儀を出すこともできない。遺族は持続的で広汎性を帯びた悲嘆反応である、遷延性悲嘆障害に陥る可能性があると指摘される。
感染者だけではない。医者や看護師など第一線でコロナと闘う人々もまたストレスを抱えている。たった半年ほどの間に、非常に多くの人の死を目撃することは、どんなにプロフェッショナルな人でも辛い。
コロナのパンデミックを生き残ったはいいが、中には精神衛生上の問題を抱えてしまった人も少なくない。医療専門家向けに詳細な専門臨床情報を提供するウェブサイト「ヘリオ」には「ロングターム・メンタルヘルスエフェクツ・オブ・コーヴィッド19」という記事がある。コロナが原因の精神疾患の中でも、症状が長く続くものについて、情報を掲載している。そこに挙げられる症状には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、大うつ病性障害、不安障害、恐怖症、回避行動を伴う恐怖感、さまざまな神経精神疾患などがある。
さらに症状を自分で抑えこもうとした結果、別の問題が生じるケースもある。例えば、薬物使用やインターネット中毒。家庭内暴力や児童虐待が挙げられる。
コロナ禍で人に安らぎをくれるのは、家族の一員である犬
コロナ前から一般的にいわれる動物と過ごすことのメリットに加え、コロナ禍でもそのメリットが有効であることを説いたのが、「ホワイ・コンパニオンアニマルズ・アー・べネフィシャル・デュアリング・コーヴィッド19」という論文だ。インドでアニマルセラピストと心理学者として活動するウンナティ・G・フンジャン氏らによる。多岐にわたる学術分野の論文を集めた「セージ・ジャーナル」に7月、掲載された。
人は動物と直接的に触れ合うことで、身体的・心理的メリットを得ることができるという。例えばたった15分でも共に過ごし、触れ合うと、脳で健康と幸福感を高める生化学物質が放出される。ほかにも免疫システムを高めるという効果もあるそうだ。コロナという病気にかかる危険性があること、ロックダウン、生活物資や資源へのアクセスが限られていることといった状況下で、動物と共に過ごせれば、その有益性は通常より高まるとみられている。
相性のいい犬を、犬版ティンダーで探す
コロナ禍で人々がペットとして動物を飼い始める中、人気が出たのが犬だ。ペット動物の中でも昔から人間の一番の友達といわれ、ほかの動物と比較しても、私たちと気持ちを通わせるのが最も得意だといえる。
それでも飼い始めるにあたり、どんな犬を選んだらいいのか迷う人は多い。特に動物保護施設から引き取る場合は、施設に来る前にどんな環境にいたのかや、どんな性格なのかを飼い主が事前に知っておくことは大切。そんなケースに役立つのが、犬を飼いたい人と施設で過ごす犬とのマッチングをしてくれる「マイフーマン」アプリだ。ペットフードで知られるマーズのニュージーランド支社と、広告代理店のコレンソBBDOが協力して制作した。
このアプリは飼い主候補と、飼い主候補にぴったり合う犬のみがマッチするよう、AIとスマートマッチングシステムを使用している。犬をもらい受けようという人に重宝しそうなのは、複数の保護施設に預けられている犬が「マイフーマン」に集められていることだ。施設側は写真、どんなバックグラウンドを持った犬なのか、性格を提供すれば、犬種を見つけ出すのも、飼い主候補が読むプロフィールを作るのも、このプラットフォームがすべてやってくれる。
毎年引き取られた犬5匹のうち1匹は施設に出戻るため、同アプリでその数をゼロに近づけられればとマーズ・ニュージーランドの支配人、ピート・シモンズ氏は話す。マーズは今、「ア・ベターワールド・フォー・ペッツ」キャンペーンを展開中で、ペット動物にとって暮らしやすい社会になるよう努めている。同アプリを、もとペットだった動物がホームレスにならないようにする努力の一環として開発した。保護施設の要望を取り入れ、18カ月をかけて開発した「マイフーマン」は、12月中に一般にお目見えすることになっている。
飼い主だけでなく、犬もばっちり参加するセルフィ―
世界中で年齢や性別を問わず楽しまれるようになったのが、セルフィーだ。今年1月にはセルフィ―を楽しむのに特化した施設がドバイに誕生している。「ザ・セルフィー・キングダム」だ。現在、ユニークな背景や小道具を用意した17のポップアップルームがあり、ビジターはこれらの部屋で、気分に合わせ4種類の照明を使い分けて、セルフィ―三昧ができる。背景は数カ月ごとに変更されるので、飽きることがない。
「セルフィー・キングダム」では最近、セルフィ―を犬と一緒に体験できたらという愛犬家の夢をかなえた。もちろん犬が自分でカメラやスマホを持って写真が撮れるわけではないのだが、小道具などをうまく使えば、飼い主のセルフィ―より上をいく、犬の写真が撮れると評判なのだ。
ペット連れの場合、必ず予約が必要。入場料金は必ず大人が入場することを前提に1時間に35UAEディルハム(約1,000円)となっている。セットになると、プロのカメラマンによる1時間の撮影と写真のフレームが付いた「ペット・フォトグラフィー」が880UAEディルハム(約2万5,000円)、「ペット・フォトグラフィー」にグルーミングを加えた「ペット・ラックス・パッケージ」は1250UAEディルハム(約3万5,000円)だ。
ラグジュアリーホテルで、大好きな犬と贅沢なステイを
犬連れで泊りがけの旅行をする際、どうしても犬を泊まらせてくれるところを最優先に探すことになる。一番気軽に泊まれるのはキャンプ場という人も少なくないだろう。しかし、実はラグジュアリーホテルで相棒の犬と優雅にステイというチョイスもある。ニュージーランドの首都ウェリントンにあるQTウェリントンは、「パプ・イヤー!ステイ」というパッケージを犬用に提供している。宿泊の条件は犬が20キロ以下であることだ。
「パプ・イヤー!」用に用意された部屋には、犬用のデザイナー寝具が用意されている。飼い主のベッドで一緒に寝るのはご法度だ。ミニバーには個々の犬に合わせ、用意されたケーキやビスケットなどが入っている。もちろん材料は犬に良いものばかりだ。室内の匂いが気になった場合の芳香剤、フンを処理する際に使用する、生分解可能で自然に優しい袋も備え付けられている。
ルームサービスには犬用のものもある。「ウーフ・タルタル」と名付けられた、ホテルの料理長が腕によりをかけた料理や、ヴィーガンの犬のための料理も開発・用意している。
ホテル内では、ウルブズ・オブ・ウェリントンやスマック・バンといった、犬用のデザイナーブランドによる蝶ネクタイやバンダナを手に入れることもできる。
犬は1泊529NZドル(約3万9,000円)。これには150NZドル(約1万1,000円)分の清掃料金が含まれている。
犬をかわいがり、気持ちを通わせ、絆を深めることで、コロナがもたらしたストレスや不安を和らげてきた私たち。犬版ティンダーで相性の良い相手を探したり、一緒にセルフィーを撮ったり、ラグジュアリーホテルにゆっくり滞在したりと、犬連れでできる楽しいことが増えてきている。しかし、お金がかかりそうなことも確か。コロナとは違うものの、これが人間のストレスにならないといいのだが……。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)