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プラスチックごみ問題や大気汚染などの環境問題。これまで環境問題の深刻さを訴えていたのは、主に国際機関と環境NGO。一般消費者の間では問題の深刻さは認識されておらず、企業も環境問題を二の次に捉えていた。
しかし、インターネットの普及も手伝い、消費者の多くが環境問題の現状を知るようになった今、企業の環境への取り組みの有無や深度が消費者の消費行動を大きく左右するようになっており、ビジネスの観点からも企業は環境への取り組みが持つ影響力を無視できなくなっている。
また、他の世代に比べ環境問題への意識が高いといわれるZ世代が労働市場に参入しているが、その多くが働きたい企業の条件の1つに「しっかりとした環境への取り組みを行っている」ことを挙げているのだ。さらには、Z世代だけでなく、ミレニアル世代でも同様の傾向が観察されており、環境取り組みは転職市場でも重要な要素になりつつある。
以下では、いくつかの調査を参考に環境への取り組みにまつわるリスクとベネフィットを見てみたい。
環境ポリシー有する企業で働きたいZ世代は80%以上
環境への取り組みを実施しないことのリスクの1つとして挙げられるのが、若い世代の人材獲得が難しくなる可能性だ。
労働市場への参入が増えているZ世代においては、就職したい企業の条件として環境への取り組みの有無・深度を挙げる割合が高く、環境取り組みをしていない企業には人材が集まらないというシナリオも考えられる。
たとえば、英ガーディアン紙が伝えたリクルーティングアプリDebutの調査によると、英国の学生で「しっかりとした環境ポリシーを持つ企業・組織で働きたい」という割合は女性89%、男性80%と非常に高い数値となったのだ。
また、英国政府が2018年に実施した意識調査によると、グリーンエコノミーに携わりたいと考えるZ世代(18〜24歳)は60%に達したことが判明。強力な環境ポリシーを持つ企業または環境保全に直接関わる産業・企業で働きたいというZ世代は非常に多いことをを示している。
英国だけでなくこの傾向はグローバルでも確認できる。デルが2018年8〜9月、世界17カ国1万2,000人以上のZ世代(16〜23歳)を対象にした調査では、「社会的・環境的に責任を果している企業に就職したい」という割合は、フィリピン53%、ブラジル48%、マレーシア47%、ベトナム43%、ドイツ41%、トルコ40%となった。
自社の環境への取り組み欠如、レビューサイトで公開するミレニアル世代が40%以上
環境ポリシーはZ世代新卒社員の獲得に影響するだけでなく、ミレニアル世代/X世代のミドルキャリア人材の獲得にも影響を及ぼす可能性がある。
米大手企業HPが2019年4月に発表した調査レポート「HP Workforce Sustainability Survey」では、ミレニアル世代/X世代が企業の環境への取り組みに対してどのような意識を持っているのか、その傾向をあぶり出している。
2019年1月末〜2月にかけて、北米、欧州、インド、中国の10市場1,000人(主にミレニアル世代とX世代)を対象に実施された同調査では、「もし自分が働く企業の環境への取り組みが残念なものなら、そのことをGlassdoorなどの企業レビューサイトに書き込む」との回答は全体で39%に上った。3人に1人以上が、レビューサイトに環境への取り組みの粗末さを公開するというのだ。

この割合は国ごとに大きく異なる。最も割合が高かったのはインド。実に62%がレビューサイトに環境への取り組みが粗末であることを公開すると回答。これに、中国61%、メキシコ50%、イタリア41%、スペイン36%、カナダ32%などと続いた。
また世代別でも若干の違いがあり、全体的にミレニアル世代の方が企業の環境への取り組みに厳しい目を向けていることが判明。上記レビューサイトに記載するという割合は、X世代(39〜54歳)が34%だったのに対し、ミレニアル世代(25〜38歳)は44%となった。
このほか世代別に見ると「会社が環境への取り組みを実施していない場合、転職を検討する」との回答は、ミレニアル世代が45%、X世代が37%、「転職先の企業が環境への取り組みを実施していない場合、その仕事を辞退する」という回答は、ミレニアル世代49%、X世代41%などとなった。ミレニアル世代に比べ、X世代の割合は若干低いが、それでも40%と低くはない数値であることに留意が必要だ。
HPはこれらの傾向を踏まえ、「職場におけるサステナビリティな取り組みは、もはやオプショナルではなくなった」と指摘。企業内部の環境への取り組みの欠如は、外部のレビューサイトなどに記載され、企業の信頼性や評判が損なわれるリスクを高めると警告している。
環境への取り組み熱心な企業、ROI高い傾向
上記調査はレピュテーションリスクの高まりを示すもので、企業にとっては頭が痛い問題かもしれない。しかし、これは同時に環境への取り組みの促進で、レピュテーションを高め、ビジネスを拡大させる機会と捉えることもできる。
英非営利組織CDPが2014年に発表した調査レポートでは、米S&P500企業のうち、環境への取り組みを事業戦略の中核に落とし込み、環境保全などで積極的な活動を見せている企業は、そうでない企業に比べROIが18%高くなる傾向が明らかになった。
また、事業活動にかかる二酸化炭素排出量を公開していない企業と比較すると、環境取り組みに積極的な企業のROIは67%も高くなったという。
次のテクノロジー投資の波が「クリーンテック」領域で起こりつつあり、またパンデミック後の経済復興では「グリーンエコノミー」がカギになるとも言われている。リスク回避、機会創出、いずれにせよ「環境・自然」が今後のビジネスで必須のキーワードとなるのは間違いないだろう。
文:細谷元(Livit)