海外のネットユーザーがざわついた「日本掃除時間最短」の調査結果

ドイツの清掃機器ブランド・ケルヒャーが毎年行っている清掃文化に関する調査。最新の調査は2019年に行われ、各国語で翻訳・要約された後、今年随所で公開された。

今回は、18~65歳までのドイツ・フランス・イギリス・オランダ・ベルギー・ポーランド・ロシア・ブラジル・アメリカ・中国・日本の11カ国の男女計11,099名対象にアンケートを実施。

「あなたにとって、家がきれいなことはどれくらい重要ですか」「一週間の中で、掃除に費やす時間はどれくらいですか」「掃除にはどんな道具を使っていますか」の3つの質問を柱として、各国の掃除事情を描いた。

ご存じの方も多いと思うが、国別の一週間のうち掃除に費やす時間ランキングでは、対象国の中で日本が最も掃除に費やす時間が短いことが判明した。最も長いロシアの4時間49分の3分の1にも満たない日本の週あたりの掃除時間1時間29分は、11カ国の平均2時間52分の約半分だった。

もともと「きれい好き」のイメージが強い日本が、対象国の中で最も家の掃除に短い時間を費やしていることは、意外性をもってレポートで言及され、その結果を知った人からも驚きの反応が寄せられた。

さらにとりわけここ数年は、近藤麻理恵氏が新しい日本のミューズとして大ブレイクしている。

著書『人生がときめく片付けの魔法』が30カ国で翻訳・出版され、昨年のNetflixオリジナル『KonMari〜人生がときめく片付けの魔法〜』(原題:Tidying Up with Marie Kondo)で米エミー賞(ドキュメンタリー部門)にノミネートされ、同国で「社会現象」とまで呼ばれた彼女の「お膝元」でもある日本。

その国の掃除時間が最も短いという結果が意外性を持って注目されたのは、無理もなかったかもしれない。

「KonMari」は世界がときめく日本人女性(画像:公式Twitterアカウントより)

「ストレス解消」「娯楽」としての掃除?「掃除」に対する各国の価値観

レポートでは特に、その理由は分析していない。ただし、日本に関する他のデータを照らし合わせると、うっすら背景は透けて見える。

「あなたにとって、家がきれいなことはどれくらい重要ですか」という質問項目では、「とても重要」「重要」と答えた割合が最も高かったブラジルで98%、11カ国平均でも92%だったのに対し、日本は78%と平均を大きく下回った。

対してコードレス掃除機の利用率は平均の23%を11ポイント上回る34%。同社の過去の調査においては「掃除中に歌を歌う」率が最も高いフランスに比して日本はその率が最も低かった、などというデータも出ている。

コードレス掃除機の利用率が高い背景には、小回りが利いて軽く、小柄な日本人(とりわけ女性)にも使いやすいことと、家が大きくないことが関係しているのではないだろうか。バッテリーで稼働する掃除機にはどうしても制限時間があり、床面積の広い大きな家には不向きだ。掃除時間の短さもこの家のサイズの問題と無関係ではないだろう。

「掃除中に歌を歌うかどうか」も些細な問題に見えて、実は根本的な価値観と直結している。

今回の調査では、イギリス人の75%が「ストレスを感じた時にその解消法として床にモップをかける」と回答し、そのうちの84%がモップがけの作業を通して気持ちが落ち着き、リラックスできると述べている。またフランス人の59%は、家の掃除にはその作業自体にメディテーションのような効果があると回答している。

掃除がリラックスにつながる効果も(画像:Pexels)

レポートで同社はこの効果を受けて、ウィーンストレスセンター所長の心理学博士Brigitte Bösenkopf氏にインタビューしている。

彼女によれば、掃除というルーティーンワークをこなすことで報酬系と呼ばれる脳内システムが活性化され、それが快感を覚えることが証明されているという。そして「一つの物事に集中すると頭がクリアになり、掃除によって家がきれいになるという副次的効果によってリラックスできる」とも。

一方で彼女は「掃除を義務と捉えるか、リラクゼーションの活動と捉えるかで精神面の効果も違う」としたうえで、「掃除に対するモチベーションは千差万別」「掃除をする時間を取れないときも自分を責めずに、限られた時間の中で掃除できる部分に注目することで、掃除を義務からポジティブな体験に変えることができる」とアドバイスしている。

正直筆者はこの部分で少し落ち込んだ。みなさんの中に、「ストレスを感じた時は雑巾がけをして解消している」という方はどのくらいいらっしゃるだろうか。少なくとも私にとって掃除はただの新たなストレス源だ。日本人の友人から「掃除が好きで仕方ない」という話を聞いたこともない。

ここからは、日本から全く異なる掃除文化を持つオランダに移住した筆者の経験に基づいた推測になるが、おそらくこの違いにはいくつかの文化的な背景がある。

まず私たち日本人にとって「家がきれいなこと」の重要度が低い理由は、おそらく大人は長時間労働、子どもは習い事や塾、週末はレジャーのお出かけで、欧州の家族よりも圧倒的に家にいる時間が短いことが大きい。

そして「身内」と「他人」の境界線が固い文化や、人と会うときに気軽に利用できる外食産業が盛んなことで、友人などと家を行き来する頻度が低いことも関係しているように思う。

オランダではとにかくお互いの自宅の行き来が盛んだ。通りに面した窓が大きく、リビングルームが外から丸見えな伝統的な家の造りも、鶏と卵的に家のきれいさと影響しあっているかもしれない。

モチベーションの問題に関しては、小さいころから自分の心地よさと内的モチベーションを徹底的に大事にするオランダの教育を踏まえればさもありなんという感じだ。

オランダ人は「人が来るから」「年末だから」という外的な動機付けではなく、「きれいなほうが気持ちいいから」といった内的なモチベーションで、自分のために掃除をする。

同調査では他にも、興味深い国別の掃除文化が浮き彫りになっている。いわく、先述のように75%がストレス解消のために掃除をしている英国では、自律式のいわゆるロボット型掃除機が不人気で普及率は6%と、最も高い中国の38%の6分の1以下。

イギリスでは不人気のロボット掃除機(画像:pexels)

ポーランドは重曹とレモンなど自然派の掃除ツールが人気だが、主婦以外のパートナーなど家族の掃除分担率が52%と最も高い。

ベルギーでは伝統的に土曜日が掃除の日だったが、国民全体が豊かになったため週末はレジャーに時間を割かれ、平日に少しずつするスタイルに変わってきている。

そして6割が掃除をメディテーション的な活動と捉えているフランス人は、掃除以外にもガーデニングを家で味わえる非日常的な時間として大切にしているという。

「家は常にピカピカ」の国オランダ。クリーニングビジネスのトレンドと注目のサービス

さて先述のように、オランダの家は概して常にピカピカだ。しかし彼らが日本人に比べて絶対的に「きれい好き」かといえば、一概にそうは言えない。コロナパンデミックの封じ込めも芳しくない状態が続いている。

そこで台頭しているのが、コロナウイルス対策の清掃サービス。一般住宅から大型施設丸ごと清掃まで、プロ品質の「ウイルスフリー」を提供するサービスは、目に見えない敵との戦いに免疫のない国民に歓迎され、現在乱立状態といえるほどに「コロナクリーニング専門」を謳う清掃会社が増えている。

オランダではウイルスフリーにするサービスが人気(画像:pexels)

また最近は、「自宅の仕事場の専門家による清掃」の重要性を訴える業者も出現している。いわくパンデミックによるリモートワークの増加により、自宅の特定の場所を仕事場として利用する人が増えている。

しかしその「仕事場」は、仕事をする時しか立ち入らないので掃除の頻度が低いわりに、家にいるとつい食べ物や飲み物を持ち込む回数が多く、目に見えない食べ物のかけらなどが溜まって虫や雑菌の温床になっていることがある、とのこと。心あたりのある方もいるのではないだろうか。

趣向を変えて、同国では夏限定の趣味としてボートを所持する人も多いので、冬の間放置していたボートのメンテナンスと清掃をする専門会社も。

また、「特殊清掃」といえば日本では孤独死を連想するが、オランダではいわゆる「ゴミ屋敷清掃」のこと。大型のゴミや家具の運搬なども伴うケースが多いため、引っ越し業者が兼業している会社が多い。

拡大するシェアリング・エコノミーの流れの中で、モビリティに特化した清掃サービスも注目を浴びている。

また付加価値に関しては、ソーシャルリターンと清掃業は相性がいいらしく、多くの清掃会社が様々な社会貢献を行っている。機器や用具のサステイナビリティにこだわるサービスや、街のモニュメントの清掃プロジェクトを行う組織、または学校や施設で出張掃除レッスンをする企業も。

雇用で差をつける会社も少なくない。例えば、アムステルダムを拠点とする清掃会社のAccentは、聴覚障碍者を両親に持つMarcel Voskuilen氏によって創立された、聴覚障碍者を優先的に雇用する清掃会社。

社会貢献の側面だけではなく、彼らが耳から得られない分の情報を補填するために研ぎ澄ます視覚の鋭さを明確に売りにし、主に医療施設の高度専門清掃の分野でサービスを拡大している。

その他、特殊な「清掃サービス」

ちなみにいわゆる清掃ビジネスとは少しずれるが、筆者が人生で受けた中で一番感動的だった「清掃サービス」は、クラームゾルフによるケアの一部。クラームゾルフとは、産褥看護師とも訳され、産後の母親の家に約1週間常駐し、母子のケアと家事を請け負うオランダ伝統の専門家だ。

心身共に回復途中で、上の子の世話もろくにできず、赤ちゃんの授乳で寝られない私のもとに朝から「出勤」してきては、ベビーや体調に関する相談に乗ってくれ、「ベビー寝たぞ、今から上の子と遊ぶからお前も寝ろ」と指示をくれ、洗濯・掃除をしてきれいな家に夫が帰って来る頃に去っていく存在はとてもありがたかった。

沐浴指導などもしてくれるクラームゾルフ(緑十字公式サイトより)

全ては無理でも、実際に日本でも「助産師資格保持者による、産後のひどい汚部屋専門クリーニングサービス(育児相談も可)」などが存在したら…などと想像してしまう。産後のママにとってこれ以上のサポートはないと感じている。

他にも、あるオランダ人の友人は「定時になるとオフィスに入り仕事を始める清掃スタッフが、爆音で音楽をかけて掃除を始めるので切り上げざるを得ない」と言っていた。このような残業がしづらくなる慣習は日本でも必要ではないだろうか。「ノー残業クリーニング」などと謳えば需要もありそうだが。

国別のお掃除文化の違いを浮き彫りにした、今回ご紹介したケルヒャーの調査。でもどこの国であっても、基本的に人間がきれいな場所で過ごしたい傾向は変わらないはずだ。

お国柄が表れる異国の清掃サービス、取り入れてみてはどうだろうか?

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit