2020年4月1日より、国の法改正として改正健康増進法に受動喫煙防止がルールとして加えられ、東京都を皮切りに、各自治体でも受動喫煙防止条例が施行されている。

こういった背景において喫煙環境が大きく変化する中で、煙がなく・においの少ない「加熱式たばこ」が成人喫煙者への選択肢として加わったことで、紙巻たばこから切替える成人ユーザーも多くなってきたように見受けられる。

FDA(米国食品医薬品局)が「曝露低減たばこ製品」として米国内での販売を許可したIQOS(アイコス)を提供するフィリップ モリス ジャパン合同会社(以下、PMJ)と、有馬温泉旅館協同組合は、2020年11月26日、温泉街の中心エリアを加熱式たばこ専用とするケースとしては国内の温泉地として初めて「煙のない温泉地」へ向け、中心街「金の湯」「銀の湯」付近に加熱式たばこ専用エリアを2カ所新設する包括協定を取り交わした。

今回は、本協定の発表イベントの模様や本取組みの紹介、フィリップ モリス ジャパン目指す「煙のない社会」の真意について迫る。

有馬温泉が抱えていた喫煙をめぐる問題を解決する、加熱式たばこ専用エリア

有馬温泉は国内最古泉を有す湯治場として国内外の注目を集め、2019年度には年間約155万人の観光客が訪れている。一方で、これまで紙巻たばこの路上喫煙や吸い殻のポイ捨てに悩み、喫煙対策が課題だった。

イベントではまず、一般社団法人有馬温泉観光協会会長の金井啓修氏(以下、敬称略)から開会の挨拶に併せて、本取組みの背景について語られた。


一般社団法人有馬温泉観光協会会長 金井 啓修氏

金井「温泉地というのは、解決できていない問題が山積みです。例えば、温泉地に綺麗なトイレを整備したいと申し入れても、行政側との折り合いはなかなかつくものではありません。そういった状況のなかで、今回の喫煙できるかできないかという問題に対しては、新しい解決方法が一つ見つかったと思っています。

まだまだ解決しないといけない問題は多々あるのですが、そういったことも包み隠さず皆さまにお伝えすることによって、有馬温泉が次なる100年、200年と続く温泉地になっていけると思っています。フィリップ モリス ジャパンさんに、今回このような加熱式たばこ専用エリアを作っていただいたことを非常に感謝しております」

続いて、フィリップ モリス ジャパンの井上哲副社長(以下、敬称略)から、有馬温泉とのシナジーについて語られた。

井上「喫煙に関する健康課題から、煙のない製品がつくれないか、という弊社の取組みは、2014年4月から日本でも加熱式たばこ販売というかたちで、現在に至るまで進めさせていただいています。


フィリップ モリス ジャパン副社長 井上哲氏

先ほど金井会長もおっしゃったように、有馬温泉では、これまで紙巻たばこによる歩きたばこ、ポイ捨てなどの問題がありました。その問題解決の一助として、有馬温泉に来られる観光客に対し、加熱式たばこ専用エリアを設置することで、弊社として何か貢献できないかという観点で連携させていただきました。

今回、この加熱式たばこ専用エリアができることによって、非喫煙者の方でも快適に有馬温泉の観光を楽しんでいただきたい、という意図があります」

「あるのは湯煙だけでいい」足湯で癒される加熱式たばこ専用エリア

ここからは実際の加熱式たばこ専用エリアがどういったものかを紹介する。

加熱式たばこ専用エリアが設置されたのは、日帰り入浴も可能な温泉街でも人気のスポット、「金の湯」と「銀の湯」付近の2カ所。加熱式たばこ専用エリアでの紙巻たばこの喫煙は禁止されている。


1カ所目の加熱式たばこ専用エリア。金の湯から50歩ほど。

1カ所目の加熱式たばこ専用エリアは、名湯の金泉が楽しめる金の湯から50歩ほどの距離にある。加熱式たばこと温泉を組み合わせたデザインの暖簾が目印となっている。入り口には、「加熱式たばこ専用エリア、紙巻たばこおよび20歳以下の喫煙は禁止」と書かれている。


金の湯側の加熱式たばこ専用エリアの内部

こちらには足湯も設置されており、加熱式たばこ専用エリアとしてだけではない有馬温泉ならではの工夫だ。足場はゆったりと座れるため、ソーシャルディスタンスにも気が配られている。側面にはキーメッセージである「あるのは湯煙だけでいい」のポスターも設置。
※足湯に浸かりながらの加熱式たばこの使用はNGとのこと

以前、有馬温泉では目立たない路地裏などでの喫煙が見られ、そういった状況がポイ捨てなどの問題へとつながっていたことから、今回の加熱式たばこ専用エリアもメインの通りから少し入った路地に設置されているという経緯がある。


2カ所目の加熱式たばこ専用エリア。銀の湯すぐ近く。

2カ所目の加熱式たばこ専用エリアは、金の湯から徒歩5分、銀の湯のすぐ近くにある。この辺りはおよそ1300年の歴史ある温泉寺や、豊臣秀吉の正室寧々の別邸後の念仏寺、そして594年に聖徳太子によって建立された極楽寺があり、歴史情緒溢れるエリアとなっている。


銀の湯側の加熱式たばこ専用エリアの内部

こちらのエリアは腰掛けられるようになっており、金の湯側同様、ソーシャルディスタンスを確保できるスペースとなっている。この加熱式たばこ専用エリアの壁面には、温泉の説明や名所「ねね橋」、有馬川の説明のほか、コンセプトである「たばこの煙のない日本の最古泉を目指して」という記載がされている。

社会全体がより良い方向へ向かうために一歩ずつ進みたい

イベントの中盤では金井氏と井上氏に対し、質疑応答がなされた。

──有馬温泉とフィリップ モリス ジャパンとの出会いについて教えてください。

金井「以前、有馬の河川敷で夏場イベントを開催した際に、喫煙スペースを作っていただいたことが最初の出会いです。イベント会場である河川はこの夏に改修したのですが、その際に移動式の喫煙車を作ったらいいんじゃないかというアイデアからスタートして、移動やスペースの問題などを議論していくうちに、今回のお話へと至りました」

井上「いま金井会長からお話があったような背景で、弊社としても煙のない社会を目指すという企業ビジョンのもと、加熱式たばこのメリット・デメリット、科学的なデータやエビデンスも含めてしっかりとご説明させていただきました。それが今回の取組みに繋がったことを補足させていただければと思います。

せっかくより良い環境、施設が整っていても、たばこを吸われる方が道端で吸い殻を捨ててしまうようなことになっては元も子もありません。そういったマナーのソフト面での支援というかたちで、ツールや仕掛け作り、また諸々ご指導もいただきながらご協力させていただいたという経緯があります」

──今後の展開やビジョンについて教えてください。

金井「フィリップ モリス ジャパンさんとは、今回のことだけでなく、出来るだけいい関係を築いていきたいと思っています。このプロジェクトでは加熱式たばこについてのみでしたが、今後は紙巻たばこに対する施策も考えていきたいですね」

井上「私たちのミッションである『煙のない社会』を達成するためには、環境整備が非常に重要だと考えています。今回の有馬温泉観光協会様はじめ、この趣旨にご賛同いただける方々の協力を得ながら、たばこを吸われる方も吸われない方も、社会全体としてより良い方向へ向かうためにできることを一つずつやっていきたいと考えています」

「煙のない社会」の意味と意義

同社はなぜ、「煙のない社会」を目指すのか。

冒頭でも触れた通り、フィリップ モリス ジャパンは、煙のない社会を企業ビジョンとして掲げ、実現を目指している。たばこ会社でありながら、全ての成人喫煙者に対して「禁煙することがベストである」というメッセージを訴求している。

喫煙に健康リスクが伴うということは周知の事実だろう。そのため、自身の健康や周囲への影響を考えれば禁煙、もしくはそもそも喫煙を始めないのが一番だ。成人喫煙者の数は、年々減少傾向にはあるものの、男性の29.0%、女性の8.1%(※)が喫煙している状況にある(2020年1月15日時点)。いまだ紙巻たばこの喫煙を続ける成人喫煙者が数多くいる以上、フィリップ モリス ジャパンでは少しでも害の少ない、紙巻たばこの代替となる製品を開発し、提供するべきではないか、と考えている。

では、なぜたばこ会社がそのような活動を行うのか。それは喫煙による周囲への不快を取り除く、ということだけでなく、成人喫煙者個々の健康リスクを減らしていけるのではないか、またその連鎖によって社会全体の喫煙の害を減らしていけるのではないか、という想いからだ。この考え方を、「たばこ・ハームリダクション」と呼ぶ。

公衆衛生専門家のクライヴ・ベイツ(フィリップ モリス ジャパンHPより抜粋 ※一部日本語訳)

これは同社に限った話ではない。世界的な大手たばこメーカー各社でも同様の考え方をしており、たばこ業界全体で取組んでいる問題だ。

世界ではいま、紙巻たばこによる望まない受動喫煙対策が進んでいるが、日本では改正健康増進法が全面施行された2020年は受動喫煙対策において大きく前進した年だったと言える。フィリップ モリス ジャパンは、喫煙をめぐる規制環境の整備が進められる中、「煙のない」ランドマークを主要な観光地などに広げて行くことで、地域が抱える課題解決に貢献することを目指している。

本イベントの最後には、加熱式たばこの蒸気と紙巻たばこの煙がどう違うかを比較する実験も行われ、幕を閉じた。

煙のない社会の実現に向けて

改正健康増進法の施行により、喫煙環境が急激に変化する中、たばこを吸う人も吸わない人も、たばこのあり方について考えるべき時が来ている。フィリップ モリス ジャパンは約20年間、紙巻たばこを燃焼することで発生する煙の有害性成分の量を減らすための研究を続けてきた。

フィリップ モリス ジャパンが考える「煙のない社会」はその一つの最終形であり、答えだろう。

今回の有馬温泉での加熱式たばこ専用エリアの設置は、今後日本のみならず世界で変わっていくであろう喫煙環境の方向性を示す、ひとつの形だ。

フィリップ モリス ジャパンはこれからも「煙のない社会」実現のための研究と取り組みを推し進めていくだろう。

(※)出典:成人喫煙率(厚生労働省 国民健康・栄養調査)

取材・文:花岡 郁
写真:西村 克也