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近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を目指し多くの企業が取り組みを始め、今まで以上にAIや、AIの知識を持つ専門家のニーズが高まっている。しかし、その高額な費用や専門家の不足から、AI導入のハードルは依然高いままである。
2019年4月に株式会社アドフレックス・コミュニケーションズが実施した「今更聞けないAI(人工知能)の認識/イメージ調査」によると、AIができることを「知っている」と回答した人は約18%ほどで、未だAIの正しい知識も普及していないのが現状だ。
このように現場におけるAIへの理解不足や、AIを使いこなせるAI人材が不足している課題を解決するソリューション開発に力を入れているのが、「AIの民主化」をビジョンにもつaiforce solutionsだ。
今回は、株式会社aiforce solutionsのCEO、西川 智章氏(以下、敬称略)に、日本でAIが普及しない理由をはじめ、AIの普及とは切っても切れない教育の必要性や、AIサービスとマイクロソフトとの取り組みで生まれるシナジーについて伺った。
AI導入のハードルは“AI人材”不足
――現在の日本企業では、AIをどれくらい活用できているものなのでしょうか。
西川 ほとんど活用できていない、というのが現状だと思います。
現在の日本ではAIの需給バランスが崩れていて、導入するだけでも費用が高額になってしまう状況にあります。AIという技術がまだビジネスにおいて効果が証明されていないため、PoC(実証実験)を何度も繰り返す必要があるのです。実証実験だけに8,500万ほどの費用がかかることもあり、多くの企業がまだまだ手の届かない技術なんです。
株式会社aiforce solutions CEO 西川 智章氏
また、AIを使いこなせたり、専門知識を持つAI人材と呼ばれる人たちがまず少ない。そういった人材を育てる費用まで考えると、AIは予算が潤沢な企業しか導入できないというわけです。
年々テクノロジーが進化していく中で、あらゆる分野の大量のデータが取れるようになってきています。しかし、AI人材がいないために、せっかく取れたデータが全く活用されていないのが現状です。
――近年、いたるところでAIという言葉を見かけるようになりました。そもそもAIが騒がれるようになった理由はどういったところでしょうか。
西川 話題となったのは、AI技術の根幹であるディープラーニングによって、画像の認識レベルが人間の識別レベルを越えたことがきっかけでした。「よくわからないけどすごい、魔法のようなツール」という期待感からAIという言葉がバズワードになり、騒がれるようになったという経緯ですね。
――AIには様々な定義があると思います。例えば、RPAのように日常の業務を定義するものだったり、ドラえもんのようなものだったりと幅がありますよね。
西川 私たちは、AIを「機械学習でできること」と定義しています。AIの機械学習でできることは大きく分けて2つになります。それは「分類」と「予測」です。例えば、「分類」はクレジットカードの支払いが有効か無効かなどについての分類。「予測」なら過去のデータを基にした株価予測などがあります。
AIが機械学習をするためには、企業の中にデータが貯まっていないといけない。しかし、企業にデータサイエンティストが足りていないために、どんなデータを貯めていくべきかわかっていなかったり、貯めたデータを活かしきれていないというわけです。
――AI人材不足を解決するにはどうしたらよいのでしょうか。
西川 海外と比較すると、日本ではまだまだAIについて勉強ができる大学などの学校が少ない。例えば中国では高校からAIの教科書があるのに対し、日本では、文科省からAIの勉強に力を入れていくという方針は出ましたが、実行計画まで落としきれていないのが現状です。
AIに興味を持っている学生は多数いるのですが、そもそもAIについて教えることのできる先生や教材が不足している、といった根本的な課題を抱えています。
そのため私たちは、ビジネスシーンにおけるAIスキルを上げるのはもちろん、日本人のAIリテラシーの底上げを弊社のサービスで実現したいと考えています。
使命は、AIの多様性と正しい知識を啓蒙すること
――会社設立の背景を教えてください。
西川 もともと私は、公認会計士としてPwCでデータ監査をしていました。データ監査とは、海外の会計データを分析して統計的に不正パターンを見つけたり、疑わしい取引を見つけたりする監査です。AIという言葉が出てくる前から会計データの分析に機械学習を取り入れていました。
その後、AIの認知度が上がり始め、企業へのAI導入支援をするチームに携わりました。そしてその中で、AI導入が高額な費用を要するというハードルにぶつかりました。
日本の人口が減っていく中、このまま生産性を上げていくのは非常に難しいですが、AIが力になれることはたくさんあります。だからこそ、日本の将来を考えたときに、AIを使いこなせるAI人材を普及させる必要があると強く思いました。それが会社を設立することになったきっかけです。
――aiforceのサービスである、専門家いらずでAIが使えるようになる「AMATERAS(アマテラス)」とはどのようなサービスでしょうか。
西川 「AMATERAS」のサービスは、大きく分けて3つあります。
1つ目の「AMATERAS RAY」は、専門家でなくても、現場の社員がたった数クリックで、最適な予測結果を自ら簡単に、何度も検証することを可能にするAIサービスです。どれほど簡単かというと、先日このサービスを別媒体に取材していただいたのですが、初めてサービスを触ったその記者の方でも簡単な操作で株価の予測ができる、というほど簡単です(笑)。
また、そのスピード感も特徴の一つで、わずか15分程で大量のデータを学習し、分析結果を導き出すことができます。
2つ目は「AMATERAS EDU」という、AI人材を育成するためのハンズオン型の実践的プログラムです。慶応義塾大学、東北大学などで教鞭をとる講師陣による、AIを作りながら学ぶ体系的なカリキュラムです。実際に慶応義塾大学や東北大学ではこのプログラムを授業で導入しています。
そして3つ目が、「AMATERAS BPO」という、分析業務の業務代行を弊社で行うサービスです。
――現在、どのような企業に導入され、どのように活用されているのでしょうか。
西川 おかげさまで、大手企業様を中心に導入していただいております。
世界的な大手アイスクリーム・パーラー・チェーン企業では、アイスクリームの需要予測に利用されています。どの味がどれくらい売れるかを予測し、在庫管理に役立てていただいています。
同社での取り組みでは、弊社サービスを使って簡易的な操作で売上予測を立てました。その需要予測をもとに10万個のアイスクリームを販売した結果、ロスが10個以下だったという結果が出ており、高い精度にご好評をいただいています。
また大手総合商社では、弊社のサービスを活用し、ありとあらゆる予測をされています。例えば、アルミ、石油、鉱物、スーパー、ドラッグストアなど、幅広い分野で様々な角度からデータ分析を行っています。
また、大手輸送機器メーカーでは、知的財産権の維持判定という、ユニークな使い方をされています。例えば、同社が製造する製品には、いくつもの知的財産権が含まれるのですが、その権利を維持するためには維持費が必要です。そのため、過去の製品利用状況などのデータを分析、予測し、不要なものを売却することでコスト削減に役立てています。
――現在、AI市場は業界を発展させていく段階だということですね。今後、AI市場を開拓していきたい分野や企業はありますか?
西川 例えば、RPAや、IoTデバイスなどのハブとなる分野を開拓していきたいと考えています。すでに普及しているハブでいうとやはりExcelだと思っています。
活用可能な業界だと例えば、不動産デベロッパーに弊社サービスの導入が検討されています。現在、多くの不動産業界ではExcelで各テナントの管理を行なっており、需要予測なども立てづらい状況があります。そのハブ部分をAIの力で代替することによって、より効率的な業務管理が可能と考えています。
一方で、AIは正しい知識と使い方を啓蒙しないとスケールさせることが難しい分野なので、「AIに興味はあるけどよくわからない」「使い方がよくわからない」という企業に対し、いかにして啓蒙していくか、という課題もあります。
そのため実際にツールを使ってAIの研修を行ったり、企業自身に課題となっているテーマを提出してもらい、そのテーマに対して「私たちのサービスではこんなことができますよ」とコンサルテ―ションする取り組みも行なっています。
身近なサービスとの連携で見える世界
――『Microsoft for Startups』参画の経緯を教えてください。
西川 もともとNVIDIAさんのスタートアッププログラムに入っていたのですが、そこから本プログラムをご紹介いただいたのがきっかけです。私たちのビジョンを達成するためには世界的に普及している「Microsoft Excel」やRPAとの連携が必要だと判断し、参画することを決めました。
――実際にプログラムに参画してマイクロソフトに対するイメージは変わりましたか。
西川 だいぶかわりました。最初はマイクロソフトさんが大企業なので、門前払いになるのではないかなと思っていました(笑)。しかし、実際はそんなことはなく、私たちのほかにも多種多様なスタートアップを支援されているということで、とても有難いプログラムだと思っています。
スタートアップ支援というとお金の支援だけになりがちです。しかし、『Microsoft for Startups』では、マイクロソフトの様々なソリューションを提供してくださいますし、なによりスピード感をもって対応してくださるのでとても助かっています。
自分たちの持つネットワーク以外の、さまざまな業界に私たちのソリューションをご紹介いただくといった営業サポートは、サービスの可能性を拡げるという意味でも非常にありがたいですね。
――マイクロソフトと連携して実現したい世界とは?
西川 『Microsoft Excel』のような、オフィスの中で使われるツールと連携し、AIの存在がより身近になるようにしていきたいです。
今年中には、『Microsoft Power BI』と連携できるコンテンツをリリース予定です。この『Microsoft Power BI』は、データをもとにグラフなどを作って可視化するツールなのですが、そこにAIのサービスを組み合わせることでさらなる相乗効果を狙えるサービスです。
将来的にはマイクロソフトさんとの連携をさらに発展させ、Microsoft officeと同じレベルで、皆さんにAIを活用していただくのが目標です。
AI普及のカギは教育にある
――今後はどのようなビジョンを実現したいと考えていますか。
西川 最終的には、AIがもっと自由に使われる世界を目指したいと考えています。
より多くのハードウェアと連携し、身近な存在として認識してもらう。一人ひとりがAIを使いこなし、自分でペインを解決できるような世界にしたいんです。
また、AIをもっとクリエイティブなものにしたいとも思っています。ものづくりのような感覚でAIを使ってもらえるようになったら嬉しいですね。
例えば、AIを料理に例えると、データが食材でAI人材はコックになります。無限の食材をどう料理するかはAIも一緒です。しかし、料理なら調理師免許を持ってる人じゃなくても料理ができますが、AIは現状データサイエンティストしか使いこなせていない。だからこそ、もっとおもちゃのブロックのような、小学生でも簡単に作れるものにしたいと考えています。
AI自体ができることというのは、実は、本質的にはあまりありません。しかし、想像力をかけ合わせると無限のサービスを生み出すことができます。これからは、人のアイデアを開放するようなプラットフォームや、UXを提供していきたいと考えています。
――今後はどのようなサービスの提供を考えているのでしょうか。
西川 今後は、誰でも手軽にAIを使えるサービスを作っていくことに加え、AIの教育にも力をいれていく必要があると考えています。
現在は、慶応義塾大学と東北大学で「AMATERAS EDU」を導入し、学生に対してAIに関するEラーニングを行っています。慶応義塾大学では、学生数百名を対象にバーチャルインターンを行い、AIについての記事を執筆しオウンドメディアで配信していくという試みもしています。
また、学生だけでなく、クライアントである王手総合商社では全社員へのAI基礎教育を行うにあたり、教材の提供も行っています。
――AIの普及と教育は切っても切り離せないものなんですね。
西川 テクノロジーの進化に伴い、データの量は今後さらに増加していきます。しかし、世の中にデータがいくらあっても使われなければ意味がない。AIは、そのデータに価値を与えられる存在です。これから先、AIを理解し使うことのできるスキルはITリテラシーの一つとなっていくでしょう。
そのためにも、私たちは正しいAIの知識を啓蒙し、これまで以上にAIが世の中に貢献していくようなサービスを提供する企業として成長していきたいと思っています。
※この記事は日本マイクロソフトからの寄稿記事です