メルカリの研究開発組織「mercari R4D(アールフォーディー)」(以下、R4D)と大阪大学社会技術共創研究センター (以下、ELSIセンター)は、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues/倫理的・法的・社会的課題)に配慮した研究開発プロセスを構築する共同研究を9月に開始した。
R4Dは、研究開発活動がより健全な成長を遂げ、また社会にその価値を還元するために、研究倫理指針や研究倫理審査委員会規程を定め、委員会開催や研究者への教育活動等を進めてきた。
しかし、企業や研究開発に対する倫理性がますます社会で重要視されるなかで、R4Dにおいても、より時代に即して研究倫理審査プロセスを見直し、社会の要請に応えていく必要があると考えたとのことだ。
ELSIセンターは、新規科学技術に係るELSIやガバナンスのあり方などを総合的に研究するとともに、研究開発の実践の支援を通じた研究活動を展開することを目指している。
2020年4月の設立以来、いくつかのプロジェクトにおいて、学内の理工情報系の研究者と共同で、研究開発プロセスにELSIへの配慮を取り組む試みを実践してきた。
そこで今回、ELSIセンターのこれまでの研究で得られた知見をもとに、R4Dを対象に、企業研究所における、ELSIに配慮した研究開発プロセスの方法論を構築するとともに、ELSI人材育成のための教育カリキュラムを作成するための共同研究を開始した。
ELSIセンターが企業研究所における研究開発プロセスを対象とする共同研究は本件が初めてとなる。
これはアカデミアで近年提唱されている「責任ある研究・イノベーション(Responsible Research and Innovation: RRI)」の考え方を企業活動において具体化する作業であり、国際的にも先駆的な試みといえる。
具体的な取組は以下になる。
(1) メルカリにおける研究倫理審査の高度化
より実践的かつ適切な研究倫理審査を実現するために、ELSIへ配慮し、責任ある研究・イノベーション(RRI)の理念を実体化するため、研究倫理指針、研究倫理審査委員会規程等の文書、そして実際の委員会の運用について、改善と高度化を進める。
(2) メルカリにおけるELSI人材育成
責任ある研究・イノベーション(RRI)を体現した研究倫理審査を実現するために、研究倫理審査委員と研究者を対象としたELSI教育プログラムの開発を進めます。今後、全社員向けのELSI教育についても検討している。
(3) ELSI研究テーマの探索
R4Dはこれまで、理工学分野や情報技術分野等の研究を先行させてきたが、人文・社会科学を含めた分野へ拡大することを検討している。今後の研究研究のテーマになりうる課題を探索していくとのことだ。
ELSIという言葉は、1990年に米国で始まったゲノム解析プログラムにおいて研究プログラム名として用いられ始めた。
近年は、ナノテクノロジー、原子力技術、コンピューターサイエンス、人工知能(AI)技術などの文脈においても用いられる機会が増えつつある。
また、2020年に改正された科学技術・イノベーション基本法においても、イノベーションの創出に向け、改めて法律や哲学、倫理など人文・社会科学分野の研究の意義が強調されている。
大阪大学は、社会変革に貢献する世界屈指のイノベーティブな大学を目指すことを目標とし、2020年4月に全学組織の1つとしてELSIセンターを設立し、新規科学技術の研究開発プロセスにELSIへの配慮を組み込むための手法を研究するとともに、共創を実践することに取り組んでいる。
メルカリはCtoCフリマアプリという独自の事業を展開しており、今年、マーケットプレイスのあり方について経済学、企業倫理、ESG等の有識者やステークホルダーを交えた有識者会議を設立。
メルカリのマーケットプレイスの運営・管理のためのルールのベースとなる、基本的な考え方を定めた原則(Principles)を議論することが目的。
この例のように、社会一般にますます企業活動に対するELSIや人文・社会科学分野の実践活動は、必要性・重要性が高まっているという。
そして、R4Dは、CtoCフリマアプリが有する個人情報を含むデータを用いた研究開発や、既存事業を超える先進的なHCI(Human Computer Interaction)やAI、量子技術等、様々な研究分野に挑戦している。
メルカリR4Dは、今回、より実践的かつ高度な研究倫理やELSI活動の方法論を構築することについて、今後の研究開発活動を下支えする重要な基盤として捉えているとのことだ。