移住を考える際に最も気になるのは、言葉、食事、いや気候だろうか。ここで「サステナビリティへの取り組み」と答える人は多くないだろう。しかし意外にも、幸せな移住には大きく関係するようだ。

今回、世界中の駐在員コミュニティ「InterNations」から「環境・サステナビリティランキング」が発表され、駐在員の目からみた環境・ウェルビーイング先進国が明らかとなった。

調査対象の60カ国中、1位はフィンランド、2位はスウェーデン、3位はノルウェー。日本は25位だった。このランキング結果と上位国の取り組みから、環境に取り組むサステナブルな国はなぜ幸福度が高いのかをレポートする。

ランキング結果

今回発表されたランキングは、世界60カ国に住む海外駐在員の目で見た、各国のリサイクル状況やサステナブルな製品の普及状況、空気のきれいさ、地元住民の環境意識などを評価したものだ。

同ランキングで1位だったのは雄大な自然を誇るフィンランド。次いで下記の国々が続く。

2位 スウェーデン
3位 ノルウェー
4位 オーストリア
5位 スイス
6位 デンマーク
7位 ニュージーランド
8位 ドイツ
9位 カナダ
10位 ルクセンブルクだ。

評価の理由をみてみよう。

1位 フィンランド

フィンランドについて、現地で暮らす駐在員たちは自然環境、飲水と衛生面の安全性についてとても良いとしている。加えてフィンランドは空気のきれいさとリサイクルの取り組みについても高評価だった。

フィンランド政府の自然保護とサステナブルな取り組みを推し進めるための国としての姿勢と、政策を評価する声が目立った。

2位 スウェーデン

フィンランドに次ぐ2位は、同じく北欧のスウェーデンだ。クリーン・エネルギーへのアクセスと節エネの取り組みが高評価につながった。地元での廃棄物管理とリサイクルの取り組みについても高く評価されている。

環境に配慮したグリーンな製品とサービスにアクセスしやすいことも高得点の理由だ。

さらに、スウェーデン政府の環境政策に取り組む姿勢に加え、国民の環境意識もスウェーデンの評価を押し上げた要因だ。

3位 ノルウェー

ランキング3位はノルウェー。空気のきれいさと飲水と衛生面の安全性が高評価につながった。ノルウェー政府の環境保護のための政策についても多くの駐在員が評価できると回答。

一方で、ノルウェーは環境に配慮したグリーンな製品とサービスにあまりアクセスがないという理由で、他の北欧2カ国に一歩及ばなかった。

25位 日本

日本は60カ国25位とあまり振るわない結果だ。

飲水と衛生面での安全性、空気のきれいさ、自然に恵まれた環境については高評価だったものの、世界に比べて環境に配慮したグリーンな製品やサービスにアクセスしづらい状況だと受け止められた。

さらに、日本に暮らす駐在員たちは、日本国民が環境問題についてあまり関心を持っておらず、政府も積極的に環境保護の政策を支持していないと感じている。

環境大国フィンランドの取り組み

ムーミンの生まれ故郷として知られるフィンランドは、雄大な自然を誇る福祉国家だ。フィンランド人は大のサウナ好きで、フィンランド国内には200万ものサウナがあるなど、健康大国という側面もある。

フィンランド政府は昨年、2035年までにカーボン・ニュートラルを達成するという、世界的に見ても野心的な目標を公表。環境大国として世界に先んじて気候変動と環境破壊の問題に取り組む。

そんなフィンランドの環境への取り組みで特徴的なのは、行政が中心となってサステナブルな社会構築を推し進めている点だ。

森の多様性を守り続ける「森林法」

10万を超える湖と国土の7割をも占める森林からなるフィンランドは、ヨーロッパで最も森と水が多く、最も空気がきれいなことで知られる。これは、長年の政策と努力の結果とも言える。

フィンランドで初めてとなる森林法が策定されたのは、1886年に遡る。この法律により、フィンランド国内で1本の木を切ると3年以内に5本の木を植えなければいけなくなった。さらに、たとえ私有地であっても樹齢が70年に満たない木は伐採が禁止されている。

フィンランドの豊かな森には、そこでの生態系を守りながら人々が暮らしを営むことができるように、国が率先して導いてきた背景がある。

国家をあげて持続可能な観光を目指す「サステナブル・トラベル・フィンランド」

自然は観光において大きな資源であると同時に、保護の仕組みがつくられなければ観光によって破壊されうるものでもある。

昨年フィンランド観光局のVisitFinlandは、将来の世代のため、フィンランドの雄大な自然を守るために「サステナブル・トラベル・フィンランド」プログラムを発表した。

VisitFinlandが国内すべての環境事業者に呼びかけるこのプログラムは、観光の分野でサステナブルな事業者を政府が認定し、環境・経済・社会にとって持続可能な観光産業へと導くものだ。

フィンランドでは、観光業従事者の83%が国として持続可能な観光プログラムを実施することを支持すると答えており、今後観光分野では取り組みの加速が期待される。

環境負荷に応じて値段が変わるモビリティの仕組み「CitiCAP」

2019年6月、EUで持続可能な開発に向けて最も先進的な取り組みを行っている自治体に贈られる「欧州グリーン首都賞」を受賞したのは、フィンランド第8の都市ラフティだ。

受賞した理由は、同市が行う世界初の試み「CitiCAP」にある。

CitiCAPは、ラフティ行政と研究機関、IT企業が連携して運営するアプリで、登録者の移動距離や移動手段、所要時間などから二酸化炭素排出量を自動的に算出。カーシェアリングや自転車などで二酸化炭素排出量を抑えれば、利用者はバスの割引券や自動車修理に使える割引券などのお得なリターンを得られる仕組みになっている。現在実証実験中だが、今後本導入を目指す。

ラフティでは、これまで住民の多くが移動手段として車に依存してきた。この仕組みを導入することで、住民たちに環境意識を高め、環境負荷の高い自家用車ではなく、サステナブルな移動手段を利用する行動変容とマインドシフトを促す狙いだ。

ラフティは10万人都市と規模は小さいながらもヨーロッパ屈指の環境先進都市として今後が注目される。

サステナビリティ=幸福度?

ここで、もうひとつ紹介したいデータがある。「2020年幸福度ランキング」だ。

今回取り上げる駐在員が感じる「環境・サステナビリティランキング」と「幸福度ランキング」とでは、結果が驚くほど似ていることに気づくはずだ。

幸福度ランキングは、人口あたりのGDP、社会支援の充実度、健康寿命、人生における選択の自由度、社会における寛容度、腐敗に関する認識度から評価し算出されるもので、評価基準は今回のInterNationsによって発表された駐在員が選ぶ「環境・サステナビリティランキング」とはまったく異なる。

それでは、なぜサステナビリティへの取り組みと、そこに暮らす人たちの幸福度はこれほどにも似通った結果となるのだろうか。

サステナビリティを追求することは、地球と人々の繁栄を追求すること

これは、サステナビリティとは、社会を構成するすべての人にとっての暮らしやすさとそのまま同義語だからだ。

国連が取りまとめたSDGs(持続可能な開発目標)達成のために、今世界各国が取り組むのも同じ理由だ。

SDGsとは、世界のリーダーたちが健全な地球ですべての人々が尊厳と豊かさを享有できる未来の実現のために、活動の指針となる17の目標を定めたものだ。

サステナブルな国を目指し取り組みを進めることは、環境が健全に保たれ、人々が身体的・精神的・社会的に満たされて暮らすことができる、つまり幸福な国を目指すこと他ならない。

勉強や仕事、ライフスタイルなどのために海外移住を検討するなら、移住先のサステナビリティのための取り組みを知ることが幸せな移住生活への大きな手がかりとなるかもしれない。

参考
https://www.iamexpat.nl/expat-info/dutch-expat-news/netherlands-one-most-sustainable-destinations-expats
https://www.internations.org/expat-insider/

文:西崎こずえ
企画・編集:岡徳之(Livit