YouTubeがショッピング新機能を試験運用、タグから直接購買できる仕組み

パンデミックをきっかけに大きく変化したものの1つにショッピングが挙げられる。

ロックダウン、ソーシャルディスタンスを背景に、オンラインショッピング利用が急増。AdWeekが伝えたセールスフォースの予想によると、米国2020年ホリデー期間のオンラインショッピング利用は、前年比で2倍以上拡大するという。米リテール市場全体における、Eコマースの売上高比率は2019年の14%から今年は30%に増加。これにともないEコマース売上高は、2,210億ドル(約23兆円)と過去最高を更新する見込みだ。

Eコマース利用の急速な拡大を受け、ソーシャルメディア大手も急ピッチでこの変化に対応しようとしている。

直近では、グーグルが運営するYouTubeが一部のクリエイターと連携し、同プラットフォーム上でショッピング促進の新機能の試験運用を開始した。これは10月9日にブルームバーグが情報筋の話として伝えたニュース。広告収益を主軸とするグーグルがEコマースビジネスを強化する動きとして関心を集めている。

新機能の詳細は公表されていないが、ブルームバーグが伝えたところでは、クリエイターらはYouTube動画内に登場する商品にタグを付け、商品ページに視聴者を誘導できるもの。

米金融サービス会社Motley Foolは、この新機能をインスタグラムのショッピングタグに似た機能だと指摘している。つまり、動画内に登場する商品に直接的に商品名や価格などの情報を示すタグを付加できるということになる。

現在、YouTubeクリエイターたちは、YouTubeからの広告収益に加え、動画説明欄に貼ったアフィリエイトリンク経由で収益を得ることが可能。新機能を使えば動画説明欄への誘導なしで、購買を促すことができるようになる。

アフィリエイトリンクを使える状況のため、新機能の効果がどれほどあるのか懐疑的にみる人もいるようだが、動画説明欄のアフィリエイトリンクは文字のみで、どのリンクがどの商品なのか混乱することが多々ある。動画内で視覚的・直感的に情報を与えられるのなら、一定の購買促進効果は見込めるのかもしれない。

ブルームバーグは、グーグルがこのYouTubeの新機能をEコマースプラットフォームのShopifyと統合する可能性があるとも報じている。

フェイスブックもリテール機能を拡充

YouTubeの取り組みは「ソーシャルコマース」という新トレンドの一端を示すもの。

ソーシャルコマースとは、文字通りソーシャルメディアを介したショッピングのこと。インスタグラムなどで数年前からいくつかの施策が始まっていたようだが、新型コロナによるEコマース需要の爆発で、この数カ月間の間にフェイスブックやYouTubeなどでも様々な施策が導入され始めている。

RBC Capitalの「ソーシャルコマース」調査によると、いま同分野で最も活発なのがフェイスブックとピンタレストだ。

フェイスブックは2020年8月25日、同プラットフォーム上でプロダクト検索と購入を可能にする「Facebook Shop」機能をリリース。この3カ月前にリリースしたビジネス向け機能「Shops」を補完し、フェイスブックのソーシャルコマース分野のポジションを強化する動きとなる。「Shops」はビジネスユーザー向けの機能で、フェイスブックとインスタグラムでプロダクトページを開設・管理するもの。

メッセンジャー、インスタグラム・ダイレクト、WhatsAppなどフェイスブック傘下の各チャットアプリも上記の新機能と連動し、プロダクトに関する質問の応答だけでなく、同チャット内でプロダクトの画像表示やシェアもできるようになる。

またフェイスブックでは「ライブショッピング」も可能になる。The Vergeなどによると、フェイスブックとインスタグラムのビジネスユーザーは、ライブストリーミングイベントを開催し、そのイベント内でプロダクトを紹介し、直接販売することができるという。

フェイスブックのライブショッピング(フェイスブックウェブサイトより)

インスタグラムは動画「IGTV」「Reels」にもショッピング機能を

フェイスブック社は、傘下インスタグラムのリテール機能もさらに強化している。

米リテールメディアMarketingDiveなどは2020年10月5日、インスタグラムの動画セクション「IGTV」と「Reels」にショッピング機能が追加されると報じたのだ。

動画内に登場するプロダクトをタップすると、インスタグラム内で直接購入するか販売者ページで購入できる機能という。

ウォルマートやアマゾンが幅を利かせるホリデー期間のEコマース市場。MarketingDiveは、インスタグラムの新機能追加は、フェイスブックがホリデーEコマース市場のシェアを奪いに行く意向を示唆するものだと指摘している。

リテール/Eコマース企業のカウンター

ソーシャルメディアがEコマース市場シェアを狙う一方、リテール/Eコマース企業は消費者のメディア消費時間を狙う算段だ。

アマゾンは同社運営のライブストリーミングサービスTwitchにて、一般層に人気の高いスポーツジャンルの強化に力を入れている。Twitchはもともとゲームのストリーミング・プラットフォームとして広く認知されてきたが、スポーツ分野のテコ入れで、視聴者の裾野を広げたい考えのようだ。

またアマゾンはライブストリーミングを通じて購買を促進する「Amazon Live」に加え、最近ではクラウドゲーミングサービス「Luna」をローンチしており、フェイスブックやグーグルとのメディア消費時間の争奪戦は激化の様相となっている。

Amazon Live

ウォルマートがTikTokの買収に興味を示していたという報道があったが、これもリテール企業のメディア消費時間狙いを如実に示すもの。

こうして見ると「ソーシャルコマース」は、ソーシャルメディア企業のリテール/Eコマース参入とリテール/Eコマース企業のソーシャルメディア参入という2つの大きな動きから盛り上がっていることが分かる。この収れんの動きはどのような決着を見るのか、今後の展開からも目が離せない。

文:細谷元(Livit