マーヤやハイジと会えるテーマパーク
『みつばちマーヤ』『アルプスの少女ハイジ』『小さなバイキングビッケ』。これらのアニメを「懐かしい」と感じる人は、筆者と同年代だろう。
日本で40年程度前にアニメ化・放映され、わが国ではすっかり懐かしい存在となってしまった。しかし、彼らがメインキャラクターを務めるテーマパークがヨーロッパにある。しかも複数だ。
それがベルギーの大手芸能プロダクション「STUDIO100」がプロデュースし、現在4カ国に7つのテーマパークを運営する「Plopsa」だ。
1990年代にベルギーのアナウンサー(当時)が子ども向け番組制作のために立ち上げた同プロダクションは、その後番組の拡張や3人組ガールズユニット「K3」のプロデュース権の吸収などを経て急成長。(K3は日本の例でたとえるなら低年齢向けAKBや3次元のプリキュアというとイメージできるだろうか。90年代の結成からメンバーチェンジを経て小学生以下の女子に絶大な人気を保っている歌のおねえさんグループ)
2008年に『みつばちマーヤ』、『アルプスの少女ハイジ』、『小さなバイキングビッケ』といった70年代に日本などで制作・放映された(一部はドイツなど欧州のスタジオとの共同制作)アニメーションの権利を獲得し、CGによる新作エピソードの制作を開始。それとともに、前後して国内外に次々にオープンしたテーマパークやバケーションビレッジにキャラクターを投入していった。
9,000km離れた異国で出会う「なつかしいキャラクター」
例として筆者の訪れた「Plopsa Indoor Hasselt」を紹介したい。
ベルギーの北東部に位置するHasselt、首都ブリュッセルから車で1時間強の距離にあるこのパークは、全天候対応型のインドアテーマパーク。
ベルギーやオランダで幼児に人気の子どもピエロ「BUMBA」や、先述の「K3」とあわせて、オランダやベルギーで子どもに大人気のキャラクターたちが迎えてくれるこのパークには、屋内外合わせて22のライド・アトラクションがある。
全体として日本の大型テーマパークとくらべると小規模かつ低年齢向きで、特に10歳以下の子どもにものすごく「ちょうどいい」と感じる。開園時間も(日によって異なるが)標準的に10時〜17時であるところも頃合いだ。日本の大規模テーマパークの場合、こなせるアトラクションの数や元気に遊べる時間が限られてしまうので、このサイズが本当に「ちょうどいい」のだ。
乗り放題の入場チケットは子どもの身長ごとに価格設定がされていて(一定の身長がないと利用できないアトラクションがあるため)、85cm未満の子どもは無料、99cm台までは11,50ユーロ、1m以上は子どもも大人も21,50ユーロ。1年間入場し放題の年間パスポートが99,99ユーロである。
もちろん規模が大違いなので比べても仕方ないのだが、筆者は千葉出身・テーマパーク好きなので正直、非常に割安と感じる。(その他各種の特別料金が設定されている。それについては後ほど詳しくお話ししたい)
楽しみ方も子ども向けに設計されている。『小さなバイキングビッケ』のコースターに乗り、『みつばちマーヤ』のプレイグラウンドで遊び、屋内のゴムボートやカエルの小舟など水回りのライドやカルーセルに乗り、海賊船で遊ぶ。「国内屈指の長さを誇るすべり台」は謎の中毒性があるらしく、滑っては登り滑っては登りを繰り返す子が続出している。
ちょっと飽きたら屋外に出て、火消し型アトラクション「K3の消防カルーセル」で思い切り放水したり、ボルダリングのできる「クライミングマウンテン」によじ登ったり、ゴーカートを飛ばしたり。暖かい日は水びたしになって遊べる「踊る噴水」もある。
屋内に戻ってきたらまたライドに乗ってもいいし、フロアが光る「K3ディスコ」で踊ってもいい。ステージで終日開催されている「BUMBA」のショーは、地域によって公用語が違うベルギーの子たちみんなが楽しめるよう、オランダ語バージョンとフランス語バージョンを交互にやっている。私はどちらも聞き取れないのだが、見ているだけでも楽しい。
日本のラグジュアリーなテーマパークはすばらしいエンターテイメントが目白押しだが、意外と子どもは受動的に乗ったり観たりするよりも、自分で体を使って遊ぶほうが好きだったりする。高い入場料を払って連れて行ったテーマパークで、子どもが一番喜んだのはよじ登れるしょうもないオブジェだったりして苦笑した経験のある人もいるだろう。
そういう意味でこのパークには、乗って楽しむ形のライドと、子どもたちが能動的に遊べるアトラクションが半々くらいで、子どもたちが飽きずに遊べる。
おなかが空いたら、ハイジのスナックコーナーでホットドッグやワッフルを買ってもいいし、ガッツリ食べたい人はメインダイニング「スタジオ100カフェ」でスパゲティや牛肉煮込み、パネクック(オランダ風の薄くてモチモチのパンケーキ)などを食べてもいい。
でもやっぱりおすすめはベルギー発祥のフライドポテトだ。オランダやベルギーの遊園地で定番メニューといえばこれで、黄金色にパリッと揚がった中がホクホクの太めのベルギー風ポテトは本当にハズレがない。
パークを出る前には、スーベニアショップ「Plopsaショップ」でのお買い物をお忘れなく。お膝元の日本でもお目にかかれないマーヤやハイジのグッズが目白押しだ。
CG制作の最近のキャラクターデザインをベースにしたマーヤやハイジはかなり今どきなタッチで描かれてはいるが、やはり高畑勲・宮崎駿コンビによるオリジナルから来るジブリらしさは隠しようがなく、ハイジコーナーに強烈なホーム感を覚える。高揚と疲れで衝動統制のぶっ飛んでいる子どもたちはあれもこれもと大興奮だ。
閉園が近くなるとキャラクターグリーティングで、マーヤやビッケ、BUMBAの着ぐるみが挨拶に来る。等身大の懐かしいキャラクターについ「また来るね」と日本語であいさつしてしまう。
ちなみに楽しい一日が終わり、家に帰ろうと駐車場を出ると、道路を挟んで真向かいにある巨大な鳥居に迎えられる(Hasselt市の姉妹都市である兵庫県伊丹市の協力により造られたヨーロッパ最大の日本庭園の入り口)。パークを出た後までなんともホームな気分を味わいつつ家路につくことになる。
際立つインクルーシブな取り組み
そんなPlopsaだが、日本人の筆者にとってもう一つ印象的な点がそのインクルーシブな取り組みだ。
日本でも今年4月、東京ディズニーリゾートがチケット料金を引き上げると同時に、今までは基本的に「健常者と同様に楽しめるパークの構造」を理由に設定していなかった入場パスポートの障碍者割引を初めて導入した。
理由は公にはされていないが、相次ぐ値上げによりチケット代に見合う一日の過ごし方ができない人への費用対効果を再考してくれたのか、インクルーシブな時代の流れを汲んだのかと勝手に想像している。
ただ、その「特権」の悪用ケースを例に出すまでもなく、「一人のためにみんなが迷惑」が許されない日本の場合はどうしても特定のグループへの配慮は「ずるい」という声と隣り合わせというジレンマな現実もある。
その点、みんな自分勝手な個人主義の文化でビジネスをしているPlopsaは、通常営業で困りごとを経験する少数派への配慮に迷いがない感がある。
まず特筆したいのが「静かな日」。月に数日設定されるこの日には、比較的人気の低いアトラクションを時間ごとに交互に半分ずつ稼働する。遊園地といえばふつう光と音と振動の洪水だが、半数近いアトラクションがオフになると通常日よりもずっと静かになるので、「静かな日」と呼ばれている。
元々省エネのためにEUの規定で実施が決まった取り組みなようだが、自閉症スペクトラムやADHDといった発達の特徴や、視覚や聴覚に障害があって刺激過多な場面が苦手な子どもに支持されて営業スタイルとして定着している。
また、臨月の妊婦には特別割引が適応され、入場料が16,50ユーロになる。理由は言うまでもなく「安全のために乗れないライドが多いから」だが、我々の常識で考えれば日本の妊婦さんが「上の子のために来たけれど、私は何も乗れないのだから入場料を安くしろ」とTDLに訴えたりはしないだろう。世間の風潮だって「そもそも子どものために来るのだから、付添い料として払え」「嫌なら来るな」が普通ではないだろうか。
だからこそ筆者もビックリしたのだが、これもお母さんが下の子を妊娠中のケースも多い、小さい子どものいる家族が気持ちよくみんなで一緒に来られるようにという配慮であり、裏を返せばそういった家族が「何も乗れないお母さんまで通常料金を払うのがもったいないから行くのやめよう」と二の足を踏まずに来てくれるようにという商魂でもあるのだろう。
チケット料金の話をすれば、障碍者割引チケットは妊婦と同じ16,50ユーロ、70歳以上のシニアは11,50ユーロである。「シニアほぼ半額!」とこれもまた驚いてしまうが、今どきの70歳がライドに乗れないほど老化しているケースはむしろまれだと思うので、やはり孫を連れて来てくれる可能性のあるシニアを呼び込むためのサービス割引だろうと推測する。
また、パーク内で提供する食事に関してもアレルギーだけでなく、グルテンフリーや菜食主義など様々な食のニーズに対応したミールを提供しているほか、EU共通の公的な障碍者手帳を持たない人でも、かかりつけ医からの証明書で障碍者のための優先が受けられる。これは特に「見えない障碍」を持つ人などに有用なルールではないだろうか。
ここまで持ち上げておいてなんだが、こちらの遊園地の経営者が特にとんでもない人格者だとかいうわけではない(と思う)。現場のスタッフもたいてい日本のそれよりもプロ意識の低い普通の人間だ。ただ、通常営業では遊園地を楽しめない子どもがたった一人いた場合、その子に配慮してあげるために他の多くの人にちょっとだけ迷惑がかかったり、その子が優遇されたりすることに対する文化的な寛容度が高いから、配慮がしやすいというだけだ。
しかし、「刺激過多が苦手な子どもや臨月の妊婦はそもそも来場するな」が常識的なジャスティスだと思っていた典型的日本人の筆者としては、彼らの「みんながチケット代分の楽しさを享受できるように」という歩み寄りはやっぱり見ていて嬉しいし、誰もがそれに直接・間接的にお世話になることもあればそこから気づかされたり学んだりすることもある。インクルーシブってこういうことだろうなと思う。
なにはともあれ、懐かしいアニメキャラに会えるPlopsaのパーク、ベルギー周辺へお越しの機会があればぜひ行ってみてほしい。フライドポテトも忘れずに。
文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)