日立は、同社独自の計算技術CMOSアニーリングを活用し、数十人や数百人規模の勤務シフトを作成する「勤務シフト最適化ソリューション」を、10月19日から提供開始したと発表した。

同ソリューションは、量子コンピュータを疑似的に再現し、大規模で複雑な組合せ最適化問題を高速に解くことができる日立のCMOSアニーリングを活用して、時間ごとの必要人数やタスク(職務)、休暇希望、勤務頻度、通勤時間などの複雑な条件に対応した勤務シフトの作成を可能にするもの。

サービスセンターやコールセンターなどの大規模な勤務シフトにおいて、画一的なローテーションによるシフト組みではなく、細かな制約を複合的に考慮した最適な要員配置を実現するという。

なお、同ソリューションの提供開始に先立ち、三井住友フィナンシャルグループのコールセンター数か所で活用。

共同で実務上の評価観点を検討・実証したところ、人手で作成する従来の勤務シフトと比較して余剰配置の発生を約80%削減するなど、要員配置の適正化に対する高い有効性が確認できたとのことだ。

一般的に、サービスセンターやコールセンターといったシフト制を導入する職場では、過去の繁忙期の傾向や、個人やチームのタスク・希望など、細かな制約を考慮してシフトを作成する必要があるため、大規模になるほどシフト作成に膨大な工数と時間を要する。

また、複雑な条件をすべて満たすシフトを人手で作成することには限界があるため、毎週固定のローテーションを組むケースが多く、その結果、勤務者の希望や状況を柔軟に反映できないという問題や本来必要な人数に対して過不足が発生するという問題が起こりやすくなるとのことだ。

加えて、昨今、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、「密」を避けた交代制シフト勤務や非対面業務など多様な勤務形態を取り入れる企業が増え、さまざまな業種において、これまでの画一的な勤務体系が見直され、適正な人員数を配置する必要性がますます高まっているという。

同ソリューションの中核技術として活用するCMOSアニーリングは、2015年に日立の研究開発グループが開発し、「組合せ最適化問題」と呼ばれる極めて複雑で大規模な計算課題を短時間で解くことができる技術。

無数の組合せパターンの中から最適な解を選び抜くため、通常のコンピュータで処理をすると、変数が増加するにつれ計算時間が膨大になる大規模な問題も、CMOSアニーリングを活用することにより、高速に計算することが可能になるとしている。

日立は、同ソリューションの提供開始に先立ち、日立社内においても、CMOSアニーリングを活用した高速シフト作成の先行実証を進めてきた。

また、緊急事態宣言下の2020年5月から、中央研究所に所属する約360名の研究者を対象に、CMOSアニーリングによって作成したシフト出社制を導入。

研究活動は特別な設備を使用する必要があるため、出社時間を4シフト制とし、所属チームや研究内容、実験の進捗、実験設備の使用状況、希望出社頻度、通勤時間など条件を細かく設定することで、数百人規模の「3密」回避のシフトを効率的に作成し、新型コロナウイルスへの感染リスクを最小限に抑えながら、円滑に研究活動を継続することができたとのことだ。

同社は、今後、ニューノーマルな社会では、在宅勤務と出社双方の良さを生かしたフレキシブルな働き方にシフトしていくことが予想されるため、同ソリューションを、デジタルイノベーションを加速する日立のLumadaソリューションの1つとして幅広い業種業態に展開し、企業のワークライフバランスや多様な働き方への対応を支援していくとしている。

さらに、日立は、CMOSアニーリングの開発をさらに強化し、金融商品のポートフォリオ作成や物流倉庫におけるピッキング作業の高度化といったさまざま分野において、顧客のビジネスを支える基幹業務での活用をめざして、各種ソリューションの拡充に取り組んでいくとのことだ。