「ワークライフバランス世界1位」を支えるオランダの習慣「ニクセン」と、それをサポートする「ハウシェ」での週末
ワークライフバランス、取れていますか。
筆者が現在暮らすオランダは、ワークライフバランス世界一位の国(OECD・2019)とされている。
オランダ人が忙しさに支配されず、自分の人生を自分のペースで生きるための習慣として生活に根づいているのが「niksen(ニクセン=意識的に何もしない時間を取ること)」。今年日本でも紹介本『週末は、Niksen。』が刊行され、QOLや健康のために生活にniksenな時間を取り入れようとする人がじわじわと増えているらしい。
そしてそんなniksenの本場オランダで、「何にもしない充電時間」をサポートする人気ビジネスが、全国に展開するお手軽レンタル別荘施設「ハウシェ」。
以前の記事でこのロッジステイの文化・ビジネスをご紹介したところ、思いがけず多くの方から反響をいただいた。そこで先日また週末だけロッジに滞在し「ニクセン」な時間を過ごしてきた筆者が、写真多めで全行程とそのニクセンぶりをご紹介したい。
ビジネスモデルとしてのイメージもしてもらいやすいよう、施設のアウトライン、ステイ中にかかった費用や用意されたプログラムなどを詳しくお伝えするので、日本でもどなたかハウシェ、始めませんか。
「ハウシェ」滞在、行程と費用全公開
今回お世話になったのは、大手バケーションハウス経営会社「Landal」がオランダ中央部に擁する「Landal Coldenhove」。自然豊かで広大な敷地を有し、2~12人向けのレンタルロッジが369棟(うち5棟はサファリテントタイプ)、その他に私物のキャンピングカーやトレーラーを停留させて宿泊するためのキャンピングエリアがある。
敷地内にはレセプションオフィスの周りに、レストラン、ピッツェリア、ファストフードスタンド、ベーカリー、スーパー型の店舗が一店舗ずつ営業。その他コインランドリーが1カ所、公共トイレとシャワーの小屋が1カ所、犬用のシャワーブースが一カ所、滞在中のゴミを分別して出せるゴミステーションが9カ所など、滞在をサポートする施設が揃っている。
レクリエーションのためには屋内プール、体育館、ミニゴルフコース、アーチェリー場、ボーリング場、12カ所の公園、マスコットのBolloと遊べる幼児向けのプレイルームなどのほか、遊具の揃った大規模な屋内遊戯施設や、アルパカやウサギのいるちょっとしたふれあい牧場がある。店舗以外は宿泊者はすべて無料で利用できる。
私たちは子ども3人を含む5人家族で、2ベッドの寝室が3つある6人用のハウシェを金曜日から3泊の週末パッケージでレンタル。レンタル代は3泊で418ユーロのロッジレンタル料、30ユーロの予約手数料、大人1人あたり9ユーロ/子ども1人あたり8ユーロのリネン代(自分でシーツや布団カバーを持ち込めば省略)を含んだ総額490ユーロ(約58,000円)。
ステイの行程は以下の通り。
1日目 到着とお誕生日祝い
朝に荷造りをし、昼に学校が終わった子どもたちを拾った足で出発。15時ごろ施設に到着。コロナ対策でチェックインはドライブスルー式。
滞在するハウシェは、ダブルの寝室が1つ、ツインの寝室が2つ、トイレ、シャワーブースつきのバスルーム、リビング、調理器具や食器類まですべてそろったキッチンダイニング、掃除器具の入った倉庫、小さな裏庭スペースをもつバンガローハウス。
15:00〜17:00 着いたらまずは家族5人分のベッドメイキングをする(ベッドにシーツ、枕とカバー、掛布団とそのカバーが無造作に置いてあるので)。
自宅にはないSenseoのコーヒーメーカーがあるのが嬉しく、さっそく入れた香り高いSenseoコーヒーを一杯飲みながら、持参したキッチン用品(炊飯器、ハンドソープ、食材や各種調味料など)や洗面用品を各所に配置していく。この時点で若干「いつものウチ」感が出てしまうが、気にしないようにする。
私と夫がバタバタと滞在の準備をしている間、子どもたちはハウシェのまわりでドングリを拾ったり、勝手にテレビをつけて観たり。その間にも3つある寝室を見て場所決めにもめたり、メイクしたばかりのベッドの上をテンションMAXでゴロゴロしたりするので、落ち着くまでに2時間くらいかかる。
17:00〜19:00 この日は夫の誕生日だったので、隣のハウシェに滞在している義父母と義兄家族が来てみんなでお祝い。大人がケーキを食べつつ他愛ない話をしている間に子どもたちが退屈し始めたので、一番近い公園まで連れて行く。
19:00 夫のお誕生日リクエストだったタコライス(持ち込んだ炊飯器でご飯を炊いた以外は、買ってきたタコスミートと切った野菜を乗せただけ)でみんなで夕食。食べ終わったらそれぞれ自分の食器を食洗器につっこんで、最後の人がスイッチを入れる。希望者は各自Senseoで食後のコーヒーを入れる。
20:00 子どもたち就寝。大人の時間としゃれこみたいところだが疲れたので、ゆっくりお風呂に入って21時ごろには就寝。
2日目 プールと公園
8:00 ゆっくり寝ようと思ったが、ベーカリーから焼き立てパンが配達(昨夜のうちに備えつけの申込用紙で注文しておいた)されたチャイムで起きる。裏庭のテーブルに出て、少し肌寒い森の朝の空気を吸いながら、まだ温かいクロワッサンをほおばっては熱いコーヒーをすする。ザ・贅沢な時間。
子どもたちはパンには目もくれずオランダの子どもチャンネルのアニメなど観ていたが、庭にリスが来て大騒ぎ。「よく眠れた?今のところ何にもしていないけど、楽しい?」と訊くと、「眠れた!めっちゃ楽しい!」との答えが返ってくる。
8:30 隣のハウシェの義父から「みんなで朝食を食べるから来い」と招集。しまったおなかいっぱいだ。とりあえず夫と子どもと全員で参加だけする。
9:30 子ども5人、大人6人の大騒ぎの朝食を終え、子どもたちが動物を見に行きたいと言うのでエントランス近くのふれあい牧場に行く。そのままの流れで隣にある大きな公園で遊び始める。
10:30〜14:00 敷地内のプールで泳ぐ。とはいえ幼児連れなので完全に水遊び。お腹が空いたので上がって、敷地内の店で買ったフルーツやパンでランチ。
14:00〜16:00 朝から遊んで泳いで疲れたので、ハウシェでダラダラする。同じダラダラでもモノがなくすっきりキレイなハウシェでコーヒー飲みながらするダラダラのリラックス感は格別だ。子どもたちも思い思いに持参したおもちゃで遊んだりYouTubeを観たりしている。「君たち家にいる時と同じことしているけど、楽しい?」と訊くと「めっちゃ楽しい!」と返ってくる。
16:00〜18:00 子どもたちが充電されて騒ぎだしたので、借りたリヤカーに子どもを乗せてエントランス近くの大きな公園と屋内遊戯施設のあるエリアに行く。子どもたちはそれぞれ遊具で遊んだり動物を見たり、ドングリや松ぼっくりを拾ったり。
18:00 今日は義兄夫婦が夕食当番なので、彼らのハウシェに集合して夕食。メニューはスパゲッティボロネーゼ。パスタを茹でて、買ったソースをかけただけ。ハウシェにいる間は安息日みたいなもので、手の込んだ料理をしてはいけないのだ。ビタミンはおやつのフルーツで摂る。
18:30 エントランスエリアで、企業マスコットの「Bollo」(の着ぐるみ)が幼児向けにベッドタイムストーリーを読み聞かせてくれるイベントがあるというので参加。10分で読み終わって18:40に「じゃあみんな、ハウシェに帰って寝るんだよ、おやすみ~」と去るBolloに「まじか」と思う(オランダの子どもは平均的に19時ごろに就寝することは知っていたが、本当だったのか…)。
18:50 ハウシェに帰ってくると子どもたちが「Bolloが寝ろって言った」と本当に寝てしまう。疲れてもいたのだろうが、ありがとうBollo。
19:00〜22:00 お風呂に入ったり、夫とテレビを観たり、ワイン持参で来た義父と3人で飲みながら、益体もない話をしてダラダラ過ごす。手が空いてもやることが一切ないってすばらしい。しかし眠くなったので義父を追い返して就寝。
3日目 最後にひと泳ぎ・体験参加・ゆっくり荷造り
9:30〜11:00 だいたい昨日と同じスケジュールで朝食をとった後、義兄家族が敷地内の森をウォーキングしようと言うので出発。
敷地内と言えども5kmはあるトレッキングコースなので、幼児2人が開始5分で脱落。帰路にある公園でいちいち遊びながら1時間半かけてハウシェに「帰宅」し、すでにハウシェに戻っていたウォーキング組に「どこ行ってたの」と怒られる。
11:00〜13:00 さまざまなアクティビティが開催されている(3〜5ユーロの別料金)ので、思い思いに参加。この日の体験メニューは以下の通り。
- キャンプファイヤーを利用したポップコーン・焼きマシュマロ作り
- パラコードのブレスレット作り・スライム作りなど工作教室
- トランポリン教室・アーチェリー体験レッスン・アクアジムなどスポーツ教室
- 森の中でのオリエンテーリングや植物・野鳥観察など自然プログラム
- オリジナルアプリによるGPSゲーム。森の中のポイントを通過するごとにアプリ内で自分のツリーハウスが出来ていく(無料)
- マスコットBolloのグリーティングやミニディスコ(これも無料)
- レンタルサイクルによるサイクリング
うちの子どもたちは焼きマシュマロ作りとスライム作りに参加。マシュマロを焦がし、ベトベトのスライムを作ってものすごく嬉しそうにしている。捨てて帰りたいがダメだろうな。
13:00〜15:00 適当にハウシェに残っている食材をランチに食べ、プールで最後のひと泳ぎ。
15:00〜17:00 ハウシェに戻り、コーヒーを飲みながら荷造り。リネン類は全部はがして玄関先に出す。掃除の仕上げは施設スタッフがするが、一応備えつけの掃除用具でざっと大きなゴミを取り、キッチンやテーブルの汚れた部分を拭く。汚れた食器は全て食洗器に入れ、スイッチを入れる。ゴミは分別したまま、荷物と一緒に車に積む。帰る途中ゴミステーションに捨てる。
17:00〜 グランドフィナーレということで、敷地内のレストランで全員そろって夕食。大人2人、子ども3人の夕食と全員分の飲み物で合計60ユーロ程度。義父母や義兄家族も含め全員で記念写真を撮り、それぞれ家路につく。今日も朝から遊んで泳いだ子どもたちは帰りの車の中で寝てしまったので、自宅に着いたらそのままベッドにつっこんで、週末のハウシェステイは終了。明日からまた普通に日常が始まる。ダラダラをチャージしたので元気いっぱいだ。
施設が打ち出すステイの価値は「のんびり時間、自然、体験」
つまり家族5人で3日間、自然とお楽しみ施設の揃った森の中のきれいなハウシェで、超快適なダラダラ時間を過ごす値段が6万円程度(最後のディナーは別に考えるとして、宿泊費プラス現地で買ったパンやフルーツの値段)ということだが、どうだろう。
「その気になれば家でもできるダラダラをするのに6万円は高い」という考え方も、「キッチンから風呂までそろった別荘を一棟借り切ってお楽しみ設備を利用し放題で1人1泊4,000円は安い」という考え方もできるだろう。
一つ言えるのは、この企業が宿泊客に提供しようとしているステイの価値は、質の高いのんびり時間を確保するための環境とその体験だということだ。
宿泊客に宣伝する周辺の観光情報も最低限で、その分よく手入れされた自然と居心地のいいハウシェを提供する。それだけでは飽きてしまうであろう子どものために娯楽も用意されているが、決して家族だんらんを奪うようなインテンスなものはない。
ハウシェでは家にいるようにくつろいでもらいつつ、それでいて誰も大して家事をしなくていいように、家電やスーパーの品ぞろえが配慮してある。残されるのは、ハウシェで一緒に何にもしないでくつろいだり、せいぜいゆるいレクリエーションを家族で一緒に体験する時間だ。
でもそれこそが忙しい現代人にとって、日常の中で最も得がたいものなのではないだろうか。
現に子どもたちは、気の利いた(と、大人が考える)名所や名物を次から次へと「こなしていく」ような観光旅行よりも、ハウシェ滞在のほうが断然好きだ。いつもは仕事に家事にと忙殺されているパパやママが、穏やかな顔で何もせずに一緒にいるのがうれしいのだろうと思う。
そして子どもの心には、「エッフェル塔を見た」といったお仕着せの旅の思い出よりも、「パパと一緒にマシュマロを焼いた」みたいなあたたかい体験のほうが楽しい記憶として残ったりする。
ミレニアル以降の世代は旅に贅沢やステータスではなく、質の高い自分だけの「体験」を求めていると言われている。これからはこんな「何にもしない時間を買う」ような旅行が支持を広げていくかもしれない。
文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)