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Spotify最新調査があぶり出す、世界のZ世代の教育・仕事観
ビジネススキル・知識の習得において、その存在意義が問われている大学。多くの人が主張するのは、大学で学ぶことはビジネスや実社会において役に立たないというもの。
この議論に対する賛否は様々あるようだが、海外のZ世代の間では4年制大学が時代に合っていないと考え、代わりの方法で世の中を生き抜く力を習得しようとする人が増えている。
この傾向をあぶり出したのが、音楽ストリーミング大手Spotifyによる最新意識調査「Culture Next 2020」だ。
2020年第2四半期時点で約3億人(有料会員1億3,800万人)の月間アクティブユーザーを持つSpotifyが、そのユーザベースを生かし実施した大規模な意識調査。リサーチ企業Culture Co-opの支援を得て、2019〜2020年秋冬/2020年夏期に、Z世代(15〜25歳)とミレニアル世代(26〜40歳)を対象に、量的・質的調査を行った。
量的調査では、オーストラリア、ブラジル、カナダ、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、メキシコ、スペイン、米国、英国に住む若者計7,500人以上が調査対象となった。
同調査で若い世代に観察される特徴の1つとして挙げられているのが、Z世代における「DIYメンタリティ」だ。教育・仕事に関して、大学や企業に頼らず、道を自分で切り開く(do it yourself = DIY)の精神が醸成されているという。
Spotifyの調査によると、Z世代の半数以上が自分たちより上の世代の行動や選択は、変化の激しい時代において当てにならないと見ていることが判明。これはパンデミックによる大きな経済社会変化の前から観察されたものだが、パンデミックによってこの傾向は一層強くなった。2020年夏の調査では、実にZ世代の67%がそのように感じると回答。また、大学や企業などの「大規模組織(big institutions)」に頼ることが危険だと感じているZ世代の割合は53%となった。
Spotifyの調査インタビューに回答したインドネシアの女性(23歳)は、大学が教える世界観は現実とはかけ離れていると指摘。米アトランタ在住の女性(18歳)も、大学で教わることは将来の役に立ちそうにないと語っている。
信頼低下、コスパの悪さ、Z世代の大学を見る目
Z世代における大学に対する評価が厳しくなっていることは、他の調査でも示されている。
米投資サービス企業TD Ameritradeが2019年2〜3月、米国在住のZ世代・ミレニアル世代など計3,000人以上を対象に実施した調査では、高校卒業後の進路で4年制大学以外の選択肢を検討しているZ世代の割合は89%と非常に高いことが判明。4年制大学以外の選択肢として最も高い割合を示したのが、オンラインコースの受講で、半数近い46%だった。
Spotify調査は、こうした傾向が強くなっている理由として、大学の信頼が落ちていること、学費の高騰、オンラインコースなど代替学習環境が整ってきたことを挙げている。
大学への信頼に関して米国では2019年に、大学不正入試に関する大規模なスキャンダルが公表され、多くの人々の不信を買った。また大学の多くがパンデミックによってオンライン授業に移行したことで、大学の存在意義を問う声が高まっているという。
学費の高騰は、米国では頻繁に取り上げられている深刻な社会経済問題の1つ。ミレニアル世代の多くが学生ローンを組み、苦しい生活を強いられていることが多くのメディアで伝えられており、その情報を見聞きしたZ世代の間で、大学のコストパフォーマンスを吟味する人が増えているというのだ。
TD Ameritradeの調査によると、米ミレニアル世代の20%は学生ローンの額が5万ドル(約530万円以上)以上になり、2万ドル(約212万円)以上で見た場合、その割合は57%に上る。学生ローンの返済が終わる年齢について、ミレニアル世代の40%が30〜39歳、31%が40歳以上と見込んでおり、多くが悲観的な予測をしていることも明らかになった。これらは2019年に実施された調査の数字。パンデミックによる景況感の悪化、失業率の上昇などを考慮すると、一層悲観的なものになっていることが考えられる。
デジタルネイティブの本領発揮、Z世代の適応能力
冒頭で触れたように、Z世代の間では「DIYメンタリティ」が醸成されている。それは教育だけでなく、仕事においても顕著になってきている。
Spotify調査では、Z世代の65%がすでに自身のビジネスを始めた、また始めるつもりだと回答しており、同世代の起業意思が高いことが示されている。
パンデミックをきっかけに、Z世代の起業マインドはより一層高まったことも示唆されている。Spotifyの2020年7月調査では、パンデミック以前に比べ、起業への関心が高まったというZ世代の割合は59%となったことが分かったのだ。
「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代。デジタルプラットフォームをフル活用し、変化の速い時代を乗り切る構えだ。必須となるスキルは、YouTube、Udemy、Couseraなどで素早く習得することが可能。フォトショップの使い方やデザインを学びアパレルブランドを立ち上げるなど、クリエイティブ関連ビジネスを始めるケースは少なくないようだ。
時代の変化が速くなっているのは事実。その変化に順応しているZ世代の考え方や生き方は、上の世代にとっても参考になるのではないだろうか。
[文] 細谷元(Livit)