花王感覚科学研究所とサニタリー研究所は、手で触れたときにやわらかさや快感情(心地よさ)を実感するほど、唾液中のオキシトシン量が増加することを確認したという。
養育者と子どもの間の愛着形成に関わるホルモン「オキシトシン」と触感の関係について研究を進めており、研究内容は、第61回日本母性衛生学会学術集会(10月9~10日、オンライン開催)にて発表された。
花王は、赤ちゃん用紙おむつなどの乳幼児向け商品開発の基盤研究として、このオキシトシンに着目した研究を行なってきた。
2018年の先行研究により、凹凸の形状で風合いに差をつけた赤ちゃん用紙おむつに使われる素材に成人女性が手の平側で触れたとき、その触感の違いによって唾液中のオキシトシン量の変化に差異が出ることがわかっているという。
その際は、2つの素材のうち、より「やわらかい」「ふんわりする」と感じられるものを触ったときに、唾液中のオキシトシン量が増加することが示されたとのことだ。
そこで今回、触感の違いによるオキシトシン量の変化をさらに追究するため、さまざまな風合いの生地に手の平側で触れたときの唾液中のオキシトシン量の変化を解析したという。
試験方法は以下のとおり。
■試験方法
・試験参加者: 20~50代の妊娠・授乳をしていない女性14名
・ 触ってもらった生地:一般的に触感が心地よく感じられそうなものから、摩擦性・弾力性ができるだけバラつくように選択した5種類。
① 眼鏡拭き
(ポリエステル/ナイロン超極細繊維)
② シルク毛布
③ マイクロファイバー毛布
④ ベロア生地
(ぬいぐるみなどによく使われる)
⑤ カシミヤセーター
試験では、視覚による影響を排除するため、生地は外から見えない不透明なボックスに入れて底面に動かないように固定。
試験参加者はボックス内に両手を入れ、手の平と指を生地につけた状態で前
後左右に自由に滑らせるように動かして触ったという。
ひとつの生地に対して「30秒ボックスに手を入れて触ったあと、30秒
生地から手を離して触らず安静にする」という動作を5回繰り返した。
生地に触る前と触る動作がすべて終了したあとに唾液を採取してオキシトシン量を測定し、前後の変化率を算出。
さらに、触る動作がすべて終了した直後に、生地の触感についての3項目(やわらかさ、なめらかさ、ふんわり感)に、快感情(心地よさ)を加えた計4項目を試験参加者に評価してもらったという。
これらの項目の評価には、10cm Visual Analog Scale(VAS)を用いられ、これは試験参加者の感覚を10cmの長さの直線上で示すもの。
たとえば「やわらかさ」を例にとると、左端(0cm)が「やわらかくない」、右端(10cm)が「非常にやわらかい」を意味しており、試験参加者はどの程度やわらかさを感じたかをスケールの任意の場所で評価する。
なお、各試験参加者は、1日にひとつの生地にしか触れていない。
今回の研究では、5種類の生地の中に、手の平側で触れた前後でオキシトシン量が有意に変化したものはなかったという。
しかし、分析の結果、試験参加者の触感評価とオキシトシン量の変化に関
係があることが明らかになった。
「やわらかさ」の評価とオキシトシン量変化率の間に、有意な弱い正相関があったとのことだ。
また、「やわらかさ」の評価で全体を 2 つのグループに分けると、やわらかさの評価が高いグループでオキシトシン量の変化率も大きくなっていたという。
これは、試験参加者が生地を触ってやわらかさを実感するほど、オキシトシン量が増えることを意味しているという。
快感情(心地よさ)の評価とオキシトシン量変化率との間にも、有意な弱い正相関があった。
快感情(心地よさ)の評価で全体を2つのグループに分けると、快感情(心地よさ)の評価が高いグループでオキシトシン量の変化率も大きくなっていたという。
これは、試験参加者が生地を触って「心地よい」と実感するほど、オキシトシン量が増えることを意味しているとのことだ。
今回の研究より、手で触れたときにやわらかさや快感情(心地よさ)を感じるほど、養育者と子どもの間の愛着形成に関わるオキシトシンが増えることが示唆されたという。
この研究から、養育者が触れて「やわらかい、心地よい」と感じるものを子どもの衣類やおむつなどに用いることが、養育者のオキシトシンの上昇を介した養育者と子どもの関係性の向上に寄与する可能性が考えられるとのことだ。
花王は今後も、五感を介した養育者と子どもの関係性向上に関する研究を深めるとともに、広く社会に情報提供を行なっていくとしている。