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小田原が抱える観光コンテンツの課題とは
小田原と聞いてなにを思い浮かべるだろう?子供の頃に歌った「お猿のかごや」の歌詞に登場する小田原提灯。もしくは「箱根駅伝で通過していくあの場所」・・・くらいのイメージではないでしょうか?
横浜に住む自分にしても、小田原に何があるのかと聞かれたら「小田原城」くらいしか思いつかない。東京や横浜から1時間足らずの距離にして、巨大観光地箱根の隣に位置する小田原。その狭間にあって経済、観光ともに存在感が薄れてきていたのは事実。とくに観光の面では箱根の入り口に位置しながらも、箱根駅伝同様に通過するだけの場所と、小田原パッシングされている。
かつて関東最大の城下町、最大の宿場町として栄えた小田原の当時の面影は遠い昔。賑わいは東京や箱根に吸い取られていき、5年前の観光客数は450万人にまで低下。観光資源としてアピールしてきた観光コンテンツといえば、十年一日のごとくの小田原城に頼りっきり・・・。 そんな小田原の現状を目の当たりにし、「このまま没落していくのを黙って見過ごすわけにはいかなかった」と、老舗かまぼこ屋「うろこき」の八代目田代氏と彼の声がけにより集まった仲間たちは、「小田原かまぼこ通り活性化協議会」を結成。
箱根や横浜、東京を追うのではない、小田原にしかない小田原オリジナルに徹底的にこだわり、それらを魅力的に訴え行動していくようになる。その取り組みには、今後の地方都市観光の一つの方向性とヒントが詰まっている。
今回はそんな彼が取り組む地方コンテンツから、これからの地方都市の観光とマイクロツーリズム時代への可能性を探ってみたい。
「ローカル性」と「独自性」の組み合わせがマイクロツーリズムの一手に
町のローカル性とオリジナル性を知ろうと、先ず始めたのは他の観光地を知ることと同時に、外から自分たちの町を眺めてみることだった。
全国の観光地を回り、そこで感じたのはアピールされているものが『それがそこにしかないものなのか?』というとそうでもなかったり、せっかくいいものがあってもインフラが整っていなかったり、バランスが悪かったり。
そんな観光地が多いと感じた中、翻って小田原という場所は、交通の便、海と山の幸、豊かな水、箱根へと通過する大勢の観光客・・・と実はすべてが揃っていたことに気づく。それであれば、小田原のローカル性を魅力的にアピールできれば、人が呼べないわけがないと考える。
小田原にしかないローカル性と独自性としてアピールするものとしてたどり着いたのが、その昔関東最大級の宿場町として、豊かな漁場を抱える漁師町として栄えた小田原の文化と伝統。それらを伝える相応しい場所として注目したのが、“かまぼこ通り”。
宿場もなくなり魚市場もなくなった現在、唯一当時の面影をかろうじて残す“かまぼこ通り”にフォーカスし、賑わいと観光客を取り戻すべく仕掛けたのだ。
その内容は「案内板設置」「木質化脩景計画」、市と連携した「マンホールカラー化」などの景観整備から始まり、地産地消の“地場の野菜や魚を販売する”魚河岸夜市”、 その他にも数え切れないほど様々な仕掛けを展開していく。
仕掛けた数々のイベントの中、きっかけとなったのが、「かまぼこ通りに畳300畳を敷いて大宴会」と銘打った“宿場祭り”と参加者全員で100メートルのかまぼこを作る“100メートルかまぼこギネス挑戦”。
テレビや新聞でも数多く取り上げられたことで、メディアから小田原という場所が注目されるようになるのと同時に、行政だけでなく小田原の可能性を感じたJR、小田急なども巻き込んで活動の幅が広がっていく。
伝統があるからこそ次世代に残していくべき想いを形にする
そもそもは「自分たちが先祖から聞いてきた町の伝統や歴史が途切れていくことを感じ、自分たちが紡いでいかなければ子どもたちに残していけないような気がして。自分たちの責任としてそれを今やらなければと初めたことなんです」(田代さん)。
失礼ながら、それってある種の坊ちゃんの道楽?と訪ねてみた。すると「坊ちゃんには二通りいると思うのです。親から店の看板を継いだだけなのか、子供の頃から「若、若」と店の皆から呼ばれプレッシャーを感じつつ、店を継ぐその日に備えて店や商品の知識を誰よりも詳しくなろうと努力してきた苦しみを知っているのか。自分は“傾く(かぶく)”タイプなんです」という彼は間違いなく後者のタイプ。
海があって山があって、水があって、毎年箱根へ向かう約1,500万人ものゲートウェイ小田原。そこに暮らす人たちにとっては日常で当たり前だったことが、実は観光都市として高いポテンシャルを持ち、周りが注目してくれるということに気がついた“坊ちゃん”が次に仕掛けるのは、フード。
他が真似できない小田原オリジナルのフードとして、その昔旅人が小田原の宿場から箱根八里に向かう際に携えていたお弁当や、大名達が小田原の本陣で食べていた料理の再現を目指し、現在各方面から当時のレシピを集めているところだという。
さらに魚河岸飯、城下町で作られ北条家に献上していた甘味の再現をも目指す。因みに小田原市のHPによると、最新の小田原観光客数(29年度)は約610万人と4年間で160万人もの増加。
今後彼らの取り組みによって小田原がどのように活性化していくのか楽しみだ。
かまぼこ屋若旦那衆のかまぼこラブと小田原おもてなしへの仕掛けと夢の中に、これからの地方都市の観光とマイクロツーリズム時代へのヒントが隠されていた。
取材・文:山下マヌー
写真提供:小田原かまぼこ通り活性化協議会