友情、学校、家族、お金、恋人、ニキビ――限りない10代の悩みを、とりとめもなくおしゃべりする5人のアメリカ人高校生によるポッドキャスト番組が人気を博している。その名も『Teenager Therapy(ティーンエイジャー・セラピー)』。新型コロナウイルスの影響で若者のコミュニケーションが制限を受ける中、同番組は多くのティーンエイジャーの悩みに寄り添う駆け込み寺的存在にもなっている。10代のリスナーを惹きつけてやまないその理由はどこにあるのだろうか?

10代による10代のポッドキャスト『ティーンエイジャー・セラピー』では、5人の高校生がティーンの悩みについて語り合う。

5人の高校生がベッドでおしゃべり

「ティーンエイジャー・セラピー」の仲間たち。左からケイラ、アイザック、トーマス、ゲイル(手前)、マーク(写真:Teenager Therapy)

「お金はだいたいの問題を解決するよね」 

「でも愛は買えない」

「ビリオネアになりたいと思う?」

「なりたい。だって、いろんな人を救えるし」

「でもたくさんお金があっても、車のコレクションとかは要らないわ」

「とりあえず、サンフランシスコの大学には行けるな」

あるエピソードでは、「お金は幸せをもたらすか?」というテーマが取り上げられた。5人の仲良し高校生による自然な会話に、リスナーは自分も彼らとベッドで寝そべりながらおしゃべりに参加しているような気持ちで引き込まれていく。

ほかのエピソードでは、ニキビについての議論が巻き起こった。同番組のホスト、ゲイル・アイターさん(17歳)がツイッターで「ニキビは美しくないけど、一時的なもの」と、つぶやいたことについて、5人が経験や意見をシェアしたのだ。

「ニキビは “美しい”とは思わないし、美しいと思う必要はないよね。肌にフォーカスしないで、内面のビューティを磨くほうがいいんじゃない?」

「ニキビは、人生の一部だし、人間の一部。美しくも醜くもない」

「みんなの肌が違うっていうことは受け入れられるけど、ニキビが“美しい”ってのはヘンだよ。誰かのニキビのことなんて、誰も気にしてないし」

同番組で取り上げられるテーマは、多くのティーンエイジャーが抱えている普遍的な問題。例えば、「自分にとって“毒”になる友達をどうするか?」「大学進学の不安と人生に対する恐れについて」「ベストフレンドとデートするリスク」など。5人は自分の経験をシェアしたり、アドバイスを与えたりすることもあれば、テーマについて思うことをひたすらおしゃべりするという回もある。

立ち上げから数カ月で10万ダウンロード

Teenager Therapy

言い出しっぺはゲイルさん。貧しい家庭の出身で、いつも自分の経済状況を恥じていたが、ある時、友達が同じ悩みをオープンに話しているのを聞いて、ほかの人も同じ悩みを抱えていることに気付いたという。

「自分の抱えている問題についてオープンになることは、他の人が心を開くのを助けます。僕は自分の問題を恥じる代わりに、それを自分の物語の一部にするということを学びました。それがどんなに慰めと安心をもたらしたか分かりません。それが、まさにこのポッドキャストを作った理由です」。ゲイルさんは、ポッドキャストのトレイラーで語っている。

そして、ゲイルさんがインスピレーションを受けたのが、カップルの悩みを取り上げたポッドキャスト番組『Couple’s Therapy(カップルズ・セラピー)』。ターゲットを10代の若者に置き換えて、2018年9月に『ティーンエイジャー・セラピー』を立ち上げた。ゲイルさんと楽しいおしゃべりを展開する4人の仲間は、トーマス・パームさん(16歳)、アイザック・ウルタードさん(17歳)、ケイラ・スアレスさん(17歳)、マーク・ユーゴさん(16歳)。ポッドキャスト3年目に突入した現在は、5人とも高校4年に在籍する。

マーケティング活動の資金がない高校生たちは、リスナーを獲得するために工夫もした。ゲイルさんが『ニューヨークタイムズ』に語ったところによると、彼は以前にバンド「21 Pilots」のファンページとして使っていた「インスタグラム」のアカウントを再利用。同ページにはすでに2万人のフォロワーがいたため、それを「ティーンエイジャー・セラピー」にそのままスライドさせた。また、ティーンエイジャーに人気のインスタグラムページに番組のことをポストしてもらうよう頼んだりもしたという。

こうした努力が奏功し、同番組のダウンロード数は初回エピソードから数カ月以内に10万回を記録。個人のポッドキャスターが何年もかかるレベルに、超高速で到達した。2020年8月末現在のリスナー数は、音楽・ポッドキャストの配信アプリ「スポティファイ」だけで44万人。総ダウンロード数は170万回、ストリーミング数は440万回に達している。

ポッドキャスト市場は若者層で拡大

番組の成功は、ポッドキャストの拡大期とも重なった。「エジソン・リサーチ」と「トリトン・デジタル」の調査によると、12歳以上のアメリカ人のうち「ポッドキャストを聴取したことがある」と答えた人は2018年の36%から2019年は51%に増加。これは約1億4,400万人と推定される。さらに、「過去一カ月にポッドキャストを聞いた」人は全体の3分の1に上り、2018年時点の4分の1から拡大。年齢別でみると、特に55歳以上のシニア層と12〜24歳の若者層の伸びが大きく、若者層のうち「過去一カ月にポッドキャストを聞いた」人は2018年時点の30%から2019年は40%に増加した。

エジソン・リサーチのシニア・バイスプレジデント、トム・ウェブスター氏は、若者層のポッドキャスト聴取が伸びている背景として、スポティファイがポッドキャストを加えたことを挙げている。スポティファイは近年ポッドキャストに注力しており、人気番組を制作する「ギムレット・メディア」やポッドキャスト制作アプリの「アンカー」を買収している。

「Teenager Therapy」YouTubeより

「ティーンエイジャー・セラピー」の人気の理由について、メンバーの一人、アイザックさんは「本物感」を挙げている。「ほかのポッドキャスターやインフルエンサーは彼らの友達グループがパーフェクトで、互いに悩みを抱えていないように見せているけれど、ティーンエイジャーたちは現代の社会にもっと『本物』を求めていて、僕たちが互いの欠点を指摘したり、悩みを話し合ったり、違った観点を持っていたり、生の自然体であったりすることを気に入ってくれているんだと思う」(アイザックさん、以下カッコ内は同様)。

コロナ禍でティーンエイジャーの孤独感に対応

ロックダウン中は通学途中のポッドキャスト・リスニングがなくなったため、リスナー数は「思ったほど劇的には伸びなかった」というが、家でヒマな時間に番組を聴いていたティーンエイジャーは多い。ロックダウン中の彼らの孤独感や沈鬱感は強く、同期間中にはいつもより多くのメッセージが寄せられたという。「もがいているリスナーたちは、すごく表現豊かなメッセージを送ってきて、アドバイスのほか、家では得られないような慰めを求めてきたりしました」。

10代の若者の間でいちばん多かった悩みは、「ロックダウン中もどうやって日々のルーティンを維持して、モチベーションを失わないようにするか」。5人はリスナーに対し、朝早く起きて運動をしたり、大好きな趣味に没頭したりするルーティンを確立するよう勧めたという。「そして、必要ならばリラックスすること。常に何か生産的なことをしなくちゃ、という差し迫ったプレッシャーを感じる必要はないんです」。メンバーの視点はどこまでも等身大で、10代の若者の心に自然に刺さる。

メンバーの何人かは日本語を勉強しており、アイザックさんは高校の交換プログラムで昨年夏に10日間日本を訪れた経験もある。彼は日本の男子高校生と友達になり、ある時学校生活について語り合った。「はじめのうち彼は学校が好きだと言っていたけど、もっとつっこんで話してみたら、実は勉強が嫌いで、早く高校を卒業してキャリアに集中したいと言っていたんだ」。アイザックさんは自分を表現することにおいて、日米間の文化の違いを強く感じだという。

アイザックさんによれば、『ティーンエイジャー・セラピー』の日本人ファンはまだ少数だが、「日本のリスナーと交流して経験を聞ければ、すごくエキサイティング!」とコメント。日本のティーンエイジャーに対しては、「目立ったり、人と違ったりすることを怖れないで、自分自身でいること。ほかの誰かのフリをすることは、メンタルヘルスに大きな負担になるよ」とのメッセージ。悩みを自分だけで抱え込むのではなく、友達や家族と共有したり、ありのままの自分を表現することの大切さを説いている。

5人の高校生は来年、大学に進学する予定。大学でもしばらくは番組を続けたいという。

取材・文:山本直子
企画・編集:岡徳之(Livit