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子どもの頃、「ミニ四駆」に夢中になった人は多いのではないだろうか?実は今、ミニ四駆は第3次ブームを迎えて長期にわたる盛り上がりを見せており、もはやホビーの一大ジャンルとして確立しつつある。
激しい市場の変化とめまぐるしい技術革新で商品ライフサイクルが短くなる中、「ミニ四駆」が盛衰の波を越えて市場を拡大し、定着するに至ったのはなぜなのか。大人になった「コロコロ」世代のための雑誌『コロコロアニキ』の発起人・小学館の石井宏一氏へのインタビューから歴史をひも解き、ミニ四駆人気の秘密を探る。
『コロコロ』でのミニ四駆漫画連載がブームに火をつけた
「ミニ四駆」が世に放たれたのは1982年のことだ。田宮模型(現・タミヤ)が発売した最初のミニ四駆は、フォード・レンジャー、シボレー・ピックアップといった、いわゆる「四駆」と聞いてイメージされるような走破性に特徴のある実車をモデルにしたものだった。
その後、1986年に当時流行っていたRCカーで人気だったホットショットやホーネットなどの車種をコンパクト化した「レーサーミニ四駆」が発売された。定価は600円。RCカーは小学生にとっては高価で誰もが持てるものではなかったが、600円なら小遣いでも手が届く。この価格設定がブームの要因の一つになったことは間違いないだろう。
1987年12月号から『コロコロコミック』で徳田ザウルス氏の『ダッシュ!四駆郎』の連載がスタートしブームに火をつけた。翌年1988年には第1回のミニ四駆日本選手権(ジャパンカップ)が開催され、全国で5万人を超える動員数となる。そして1989年には『ダッシュ!四駆郎』がテレビアニメ化されたことで、ミニ四駆人気はさらに子どもたちの間で広がっていった。その間「レーサーミニ四駆」シリーズが続々発売され、1991年までのシリーズ累計出荷台数が6,000万台を超えたこの頃までが、第1次ミニ四駆ブームだといわれている。

情報発信を絶やさず、メディアミックス戦略で第2次ブームへ
第1次ブームの終焉からあまり間を置かず、1994年に第2次ブームは火がついた。このきっかけとなったのは、タイヤをカウルが覆う空力性能に優れたボディを採用した「フルカウルミニ四駆」シリーズの発売だ。
そして同じ頃『コロコロコミック』では、こしたてつひろ氏によるミニ四駆漫画『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』の連載が始まり大ヒット。再びブームの起爆剤となったのだった。

「実は第1次ブームが終わった後も、メーカーのタミヤと『コロコロコミック』が連携して情報発信を絶やさなかったと聞いています。情報を少しずつ誌面に載せ続け、かつての小学生レーサーがみんな卒業して新しい世代に入れ替わった時機に『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』の読み切りを掲載したところ、ものすごい人気が出たんです。当初は読み切りを前後編2回掲載の予定だったのが、反響のすごさにそのまま連載になったと聞いています」(石井氏)
『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』はその爆発的な人気から、テレビアニメ化、ゲーム化、映画化までされ、強力なメディアミックス戦略のもとブームをさらに加熱させた。1997年にはミニ四駆シリーズの累計販売台数が1億台を突破したが、その後徐々に熱が冷め、1999年に『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』の連載が終了、それまで続いてきたジャパンカップも最後の開催となり、第2次ブームが終焉を迎えることになる。
ジャパンカップ復活が第3次ブームの契機に
「第2次ブームの後も、やはりタミヤさんは火を絶やすことなくミニ四駆の新シリーズの開発や情報発信を続けていました。そして2012年、1999年以来13年ぶりとなるジャパンカップを復活させました」(石井氏)
これを契機に、第1次ブームの時の“四駆郎”世代、第2次ブームの“レッツ&ゴー”世代がミニ四駆の世界に戻り、第3次ブームが始まった。ジャパンカップも復活後は2019年まで毎年開催されており、2020年も8月2日よりスタート。盛り上がりは今も続いている。

「実は2014年に、かつての『コロコロ』読者に向けた『コロコロアニキ』を創刊したのも、ミニ四駆熱の再燃あってこそだったんです。現在、『コロコロアニキ』では武井宏之氏の『ハイパーダッシュ!四駆郎』と、こしたてつひろ氏の『爆走兄弟レッツ&ゴー!! Return Racers!!』の2本のミニ四駆漫画が大人気連載中です。また、のむらしんぼ氏の『コロコロ創刊伝説』でもミニ四駆第一次ブームの誕生から終焉までを1年以上に渡って描いてきましたが、大きな反響がありました。」(石井氏)
世代を超えて引き継がれるミニ四駆への熱狂
石井氏は、かつてのミニ四駆ファンが、今度は情報の発信者側に回るようになったことが第3次ブームの背景にあると指摘し、「今は“ブーム”というよりホビーとして“定着”しています」と話す。
「今では子どもよりも大人のファンが多く、20代後半〜40代までがミニ四駆を楽しんでいる中心的な世代です。東京都内にはミニ四駆バーもあるほどです。店内にはコースが設置されていて、ミニ四駆が走るのを観ながらお酒が飲めるという(笑)」
そのような状況から、目下のところミニ四駆情報の発信は大人向けの『コロコロアニキ』の方が充実している。子ども向け『コロコロ』本誌ではモノクロ1ページの「ミニ四駆爆走情報局」のみ。ただ、毎号必ず取り上げて情報発信を絶やさないようにしているそうだ。
「ジャパンカップの予選には1,000人から多いところでは3,000人以上が参加していると聞いています。当時もミニ四駆はマンガから入った人、アニメから入った人、マシンから入った人、いろんな入り口がありましたが、今は“四駆郎”世代も“レッツ&ゴー”世代もいて、そのいずれの人もが集まれる場所になっています。参加者は2世代、3世代にわたることもありますし、チームでやっている人もいれば、大人ひとりの参加もあります。女性もいます」
親がミニ四駆を走らせているのを、子どもが見て自分もやってみたくなる、そのような好循環も生まれているのだろう。
「ホビーには流行の波があり、立体ホビーブームのあとにはカードゲームブームが来て、そのあとには別の○○が……という形で循環するんです。ミニ四駆も、再び子どもの間でブームが来るかもしれないと思っています」
SNS・スマホがミニ四駆をジャンルとして定着させた
第2次ブームが終わった後、第3次ブームが2012年に始まるまで10年以上の間が空いたことになるが、ちょうどその期間は、ブログやSNSが台頭し普及していった時期と重なる。もっぱら情報の受け手だった人たちが自由に発信できるようになったことが、ミニ四駆ファンのコミュニティを形成して、ブームに継続性を持たせた要因の1つになっているのだろう。
「パーツも改造ノウハウもかつてより厚みが増して、奥が深くなっています。昔は『コロコロ』の改造記事が重要な情報源でしたが、今はSNSがあったりサークルがあったりして、そのつながりでさまざまな情報交換がされています」
また、スマートフォンの普及も“定着”に一役買っている。今年1月15日に正式にサービスを開始したバンダイナムコエンターテインメントのスマートフォン向けゲーム『ミニ四駆 超速グランプリ(超速GP)』は、リリースから1カ月も経たない2月6日に100万DL突破のアナウンスをした。

YouTubeでもタミヤの公式チャネルからの発信だけでなく、リアルのミニ四駆レーサーや超速GPのユーザー自身がマシンセッティングを公開する動画などが多数アップされている。いつでも携帯するスマートフォンで、情報交換したりゲームで遊んだりできる環境が、ファンの裾野を広げるとともに、ミニ四駆をより身近なものにしている。
「『コロコロアニキ』読者がミニ四駆のイベントに行ったりSNSでコミュニケーションしたりと活発に活動してくれているのもよく見ます。やっぱり、子どものころにハマったものは特別なんでしょうね。熱量が非常に高いです」
「個性を出し競い合える」ことが子どもも大人も夢中にさせる
SNSなどで情報が交換されすぎると、最速セッティングが似通ったりはしないのだろうか。
「特定セッティングへの固定化を防ぐために、ジャパンカップはコースを毎回変えています。それに『コンクールデレガンス』といって、マシンの見た目を競う企画もあり、楽しみ方自体がいろいろです。「コロコロ」的には『自分だけの改造ができて、他の人と競い合える』、これがホビーで重要な要素なんです。改造できる余地がないと面白くない。かつ、勝ち負けが付きやすいものは分かりやすくて楽しい」
『ダッシュ!四駆郎』の作中、四駆郎の台詞に「ミニ四駆はおもちゃじゃない!」という言葉がある。
「ミニ四駆に限らず、『コロコロ』では「おもちゃ」とは呼ばない。読者を子ども扱いしない。それが原点です。第1次ブームの当時から、ミニ四駆の記事ではクルマに関する難しい専門用語でもあえて使ってきました」
英語の「hobby」は「趣味」と訳されることが多い。一般的な日本人にとって「趣味」というと読書や映画鑑賞など“余暇の楽しみ”のイメージがある。しかし、英語のネイティブ・スピーカーからすると「hobby」には、「向上心を持ちながら、一人で長期にわたって打ち込む活動」といったニュアンスがある。ミニ四駆は趣味のための「おもちゃ」ではなく「ホビー」なのだ。
「ミニ四駆も無改造だと物足りなく感じてしまう。そこから改造すればした分だけ速くなるのが楽しいし、見た目だって自分だけのものにしたい。それで他人と分かりやすく競えると、さらに燃える」
ミニ四駆の登場から30年以上経過し、モデルは増え定価も上がったが、それでも1台1,000円前後から入手できる。強化パーツも数百円単位だ。「車離れ」を言われるミレニアル世代にとっても、ミニ四駆なら容易に手を出せる範囲だ。石井氏が指摘するように、ミニ四駆は共通のフォーマットがありながらも自分だけのものにアレンジして個性を出せるさらに他人と競える要素がある。そこに加えて、SNSがその楽しみ方を広げたからこそ、今、子どもも大人もミニ四駆に夢中になるのだろう。
取材:飯田一史
文・編集:畑邊康浩