キユーピー株式会社は、国立大学法人横浜国立大学、学校法人東京医科大学と共同で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募する「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」に応募し、「説明できるAIの基盤技術開発」に採択されたと発表。キユーピーは本研究を通して、将来の発がんリスクを判定する技術の開発・実現を目指すという。

​がんは、さまざまな生活習慣が複合的に関与する生活習慣病で、食生活とも深く関係すると考えられている。キユーピーは、食生活の提案でがんを予防することを目的に、2013年から東京医科大学の落谷孝広教授(当時、国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 分野長)と共同研究を実施している。

共同研究の内容は「血液中に存在するマイクロRNAという微量成分の発現量により、将来の発がんリスクを判定する研究」と「がん予防の観点から、特定の食成分の摂取によるマイクロRNA発現量の改善に関する研究」。

AIで発がんリスクの低減につながる食提案を提案

複雑なマイクロRNAを人工知能(AI)で解析し、将来の発がんリスクを判定する際、判定根拠として「どのマイクロRNAの発現量が変化しているか」を同時に示すことができれば、がん予防のために改善すべきマイクロRNAが明確になり、発がんリスクの低減につながる食提案が可能となる。しかし、既存のAIでは判定結果は出せても、根拠を示すことはできない。

このような課題を解決するために、2019年度に採択されたNEDOの単年度事業「AIの信頼性に関する技術開発事業」において、横浜国立大学と東京医科大学と共同で、判定根拠を同時に示せるAI「説明可能なAI=explainable AI(XAI)」開発について研究を実施した。なお、説明可能なAIについては後ほど説明する。

発がんリスクを判定するサービスを事業化

今回、2019年度の研究を継続・発展させた「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」に応募し、採択された。5年におよぶ本研究では、マイクロRNAと将来の発がんリスクとの関係の研究を継続しつつ、医療現場と連携した社会実装も検討予定という。

キユーピーは、本研究成果を活用し、血液中のマイクロRNAを測定することで、将来の発がんリスクを判定する「発がんリスク判定サービス」を事業化。マイクロRNAの発現量を改善する食生活の提案や食品の販売を組み合わせることで、がん予防の実現を目指すとしている。

キユーピーらが研究した「説明可能なAI」とは何か

今回、キユーピーが横浜国立大学と東京医科大学と共同で研究した「説明可能なAI=explainable AI」について、Ledge.aiでは過去に、株式会社HACARUSのデータサイエンティストである宇佐見一平氏に解説してもらった。

ここでは手短に該当箇所だけ引用しておきたい。

「説明可能なAI」という言葉はご存知でしょうか。

説明可能なAIとは、米国のDARPAの研究が発端の概念で、モデルの予測が人間に理解可能であり、十分信頼に足る技術、またはそれに関する研究のことを指します。

(中略)

近年AIが注目されるようになった要因の一ひとつとして、ディープラーニングの隆盛が挙げられます。

ただし、ディープラーニングは非常に強力な一方、モデルがブラックボックスになってしまうという問題点があります。つまり、AIの予測結果がどのような計算過程を経て得られたものなのかわからないため、精度が高かったとしても、その予測の根拠がわからなくなってしまうのです。

とくにモデルのブラックボックス化が問題視される例としては、医療業界や金融業界などが挙げられます。医療業界では「なぜAIがそのような診断を下したのか」を患者さんに説明できなければ、診断にAIを採用することは困難です。また、AIが間違った判定を下した場合に、なぜ間違ったのかを検証することができません。

このような背景があり、説明可能なAIに注目が集まっています。実際、権威あるデータマイニングの学会として有名なKDDの昨年度の発表のひとつに、説明可能なAIをテーマにしたものがありました。また、GoogleのExplainable AIのみならず、富士通や日立も説明可能なAIに関するサービスを発表しています。

記事のなかでは、このように「説明可能なAI」はもちろん、グーグルが2019年11月21日に発表した、説明可能なAIを実現するためのツール「Explainable AI」についても言及している。気になる人はチェックしてみてほしい。

サムネイル画像は「食生活の提案によるがん予防」のイメージ