NTTデータ経営研究所およびJTB、 JALは、慶應義塾大学の島津明人教授監修の下、新しい仕事のスタイルである「ワーケーション」の効果検証実験を実施し、その結果、ワーケーションが生産性・心身の健康にポジティブな効果があることが分かったと発表した。
現在、テレワークと心身の健康・生産性を両立できる働き方として注目されているワーケーションにおいて、実際の労働生産性や心身の健康に与える効果・効用に関しては定量的研究が存在しないという。
そのため、経営者や人事担当者はエビデンスに基づいてワーケーションの推進判断を行うことが困難であり、制度や支援の普及も進んでいない状況にあるとのことだ。
こうした状況を受け、今回、ワーケーションの効果・効用に関するエビデンス獲得並びに効果的なワーケーション施策の策定・普及を目的とし、3社は連携しワーケーションの科学的研究を開始。
結果のポイントとして以下が挙げられている。
- 経験することで、仕事とプライベートの切り分けが促進される
- 情動的な組織コミットメント(所属意識)を向上させる
- 実施中に仕事のパフォーマンスが参加前と比べて20%程度上がるだけでなく、終了後も5日間は効果が持続する
- 心身のストレス反応の低減(参加前と比べて37%程度)と持続に効果がある
- 活動量(運動量)の増加に効果がある(歩数が参加前と比べて2倍程度増加)
実験環境は、WiFi環境とソーシャルディスタンスを保持した執務エリアを用意。また自室における執務も可(執務エリアではマスク着用、手指消毒の徹底)。
解析の方法は、実験参加者1人ずつの尺度得点を、個人内で標準化し、ワーケーション前に始めて記録した時点t=0(最初期の記録)をベースとして、その後の変化を統計検定(反復測定分散分析および多重比較)。
具体的な結果の内容として、1つ目は、今回の全実験期間のデータを対象に、それぞれの指標間の相互関係を知るために、相関係数を算出。
「ワークエンゲイジメント」・「仕事のパフォーマンス」・「メンタルストレス」と、「Segmentation preference(公私分離志向)」・「リカバリー経験」の間が高い相関を示したという。
公私分離志向が強くなり、リカバリー経験を持つことで、仕事の生産性が上がり、メンタルの健康状態の改善につながることが示唆されたとのことだ。
2つ目のポイントは、ワーケーションの前後でSegmentation preferenceを比較したところ、ワーケーション後にスコアが上昇。ワーケーションの経験を通し、公私を分離する志向が促進されたという。
ワーケーションは、表面的に見ると公私が混ざり合う取り組みながら、むしろ逆の結果(仕事とプライベートのメリハリがつくようになる)となることが分かったという点で新しい発見であるとしている。
3つ目の結果として、ワーケーション期間中に、情動的な組織コミットメントが上昇し、期間終了後もその上昇が維持されたという。
情動的なコミットメントはワークエンゲイジメントと高い相関を示した。これにより、ワーケーションが、従業員の会社に対する情動的な愛着や帰属意識を促進し、結果的にパフォーマンス向上にも寄与することが期待されるとしている。
また、ワーケーション実施中は仕事のパフォーマンスが20.7%上昇し、終了後も5日間効果が持続。向上はワーケーション終了後1週間も持続したという。
さらに、パフォーマンスの向上だけでなく、仕事のストレスを37.3%低減。これも終了後5日間ほどは持続したとしており、ワーケーションは心身のストレスを低減させ健康状態を改善させる効果が期待されるとのことだ。
しかし、「疲労感」は下がりにくい傾向も見られ、ワーケーションは活動が増える分、身体的疲労感を伴うことが確認された。
また、活動量(歩数)の分析の結果、ワーケーション期間中は運動量が2倍程度に増加。コロナ禍における在宅テレワークの強制は、運動量の大幅な低下やそれに伴う糖尿病や循環器系の重大疾患へのリスクが指摘されているが、ワーケーションの取り組みは身体的な健康にも寄与するとされた。
今回の実験は、脳科学を基軸とした、労働生産性向上コンサルティングをNTTデータ経営研究所、ワーケーションを適用したコンテンツ開発や企業と地域のマッチングをJTB、従業員のワーケーションの推進と地域活性化・ワーケーション商品の開発検討をJALが実施。
同社らは今後、今回の実証実験のスキームを活用し、自治体や企業に対して効果検証支援を行っていくという。
また、データに基づくワーケーションの科学的な検証と普及を通して、企業の生産性の向上、従業員の健康、地域の活性化、旅客需要の再興に貢献していくとのことだ。