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オンラインゲームでMBAに相当するスキルを習得したゲーマー
就職・転職では「学生時代にがんばったこと」や「前職での実績」を問われることが多い。近い将来、こうしたお馴染みの質問の中に「ゲーム履歴とゲームでの実績」を問う質問が加わるかもしれない。
このところ海外では一部の経営者や研究者の間で、ビジネスにおけるビデオゲームの効用に関する議論がなされているのだ。ゲームを通じて、リーダーシップやコミュニケーションなどのソフトスキルだけでなくデータ分析などのハードスキルを習得できるというもの。MBAに相当するビジネススキルを学べるというビジネスパーソンも登場している。
マーケティング会社を経営するマシュー・リッチ氏は、オンラインゲームEVEのハードコアプレイヤー。ゲーム系英語メディアKotakuの取材で、EVEで培ったスキルがビジネスに大いに役立っていると指摘する。
EVEは大規模多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)。宇宙で生活する一市民となり、宇宙船を乗りまわして生活するゲームだ。自由度が非常に高く、1人でプレイすることも、企業を興し複数人で同盟を組みプレイすることも可能。戦闘だけでなく、宇宙船を開発する鉱物の生産、採掘、販売、またその領有権争いなど、実世界を政治・経済を反映したデザインとなっている。
この世界がビジネススキルにどう結びつくのか。
リッチ氏によると、まずEVEは自由度が高いため、ゲーム内で活動するにはクリエイティビティが必要になる。ゲーム内に構築された経済圏において、問題を発見し、発想力を生かし、問題を解決することが求められるという。リッチ氏は「EVE精神の中心にあるのはアントレプレナーシップだ」と指摘する。
リッチ氏の場合、ゲーム内で興した企業が巨大なコミュニティに成長、そのマネジメントも必要だったという。また事業で利益を出すためには、運搬コスト、燃料、税金、ブローカー料などを考慮しなければならず、スプレッドシートで綿密に計算するスキルも習得したとのこと。ちなみにEVEはゲーマーの間で「スプレッドシート・シミュレーター」と呼ばれている。ゲーム内では、需給によって価格がダイナミックに変動するため、価格変動によるコストや利益への変化にも注意が必要になる。
問題解決力、マネジメント力に加え、EVEではセールススキルも高めることができる。実際の人がプレイしているEVEでは、企業を興した際、他のプレイヤーにその企業/コミュニティに参加してもらうには、自身がブランドとなり、信用を勝ち取ることが必要になる。自身を売り込むセールススキルを磨くことが必須になるのだ。
リッチ氏はEVEで学んだスキルを実際のビジネスにも応用。マーケティング会社の経営者として、家電製造業のカナダ市場参入を支援している。リッチ氏いわく、EVE Onlineをプレイしているのあれば、MBAを持っていることに相当するとのこと。
ゲーマーのデータ分析力は、金融会社が欲しがるスキル
ゲームはMBAだけでなく、財務アドバイザーとしてのスキルを磨くこともできるようだ。
半導体マイクロン社の記事によると、隠れた名門ビジネススクールといわれる米バックネル大学で財務会計・マネジメントを教えるカーティス・ニコルズ氏は、EVE関連のスプレッドシートや他のゲームにおけるプレイヤーのデータ分析を観察、そこから、これらゲーマーのデータ分析スキルは、金融会社が求める高いレベルのものであることが分かったと指摘している。ゲーマーは、スプレッドシートによるデータ分析から、ゲーム内で優位に立つ方法を探し出すことに長けているというのだ。
このニコルズ氏自身も「ワールド・オブ・ウォークラフト(WoW)」というMMORPGの熱心なプレイヤー。このゲームからもビジネスに役立つスキルを身につけられると指摘する。
恒久的な戦争状態にあるWoWの世界では、プレイヤーは生き残りのためギルドと呼ばれるグループに所属することになる。ギルドには、ギルドマスターと呼ばれるリーダーがおり、グループを率いている。ニコルズ氏はギルドマスターとして20〜30人のギルドを統率。その中には、役割ごとに分けられた小チームがあり、それぞれをギルドアシスタントがプロジェクトマネジャーのごとく管理している。
ギルドマスターは、こうした小チームのリーダーとコミュニケーションを取り、キャラクターごとの特徴を加味した適材適所の人材配置を行い、ゲームを有利に進めることが求められる。リーダーシップ、コミュニケーション力が問われるのだ。これは、リーグ・オブ・レジェンドやオーバーウォッチなど他の人気オンラインゲームにも当てはまるという。
ニコルズ氏は、ワールド・オブ・ウォークラフトの優秀プレイヤーとは、リアルタイムでデータを分析し、難しい問題を時間的制約の中でマネジできる人であると指摘する。感情ではなく、データをもとにした議論ができるかどうかがカギになるとのこと。
今後10年以内、企業によるゲーマー積極採用が増える可能性
ゲームで育ったミレニアル世代の多くが30〜40歳に突入。企業の中で意思決定を担うポジションに就くようになっている。こうした状況に言及し、ニコルズ氏は今後10年以内に、ゲームとビジネススキルに対する見方は大きく変わり、ゲーマーを積極的に採用する企業が増えるだろうと予想している。
英国では、ゲームを通じたビジネススキルアップを支援するGame Academyという企業が登場。利用者のゲームスキルを分析し、ビジネスでの適正を評価、リーダーシップなど不足するスキルをゲーム内で補う支援を行っている。Game Academyは、ベンチャーキャピタルZincのポートフォリオ企業の1つ。このZincには、スカイプ共同創設者ニクラス・ゼンストローム氏率いる投資会社Atomicoやロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが投資会社として名を連ねている。
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[文] 細谷元(Livit)