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グローバル公開から3年目を迎えたショートムービー投稿サービス「TikTok(ティックトック)」が好調だ。
150の国と地域で75言語に対応するモバイル向けアプリは、2020年第1四半期(1〜3月)のダウンロード数が全世界で3億1,500万にもなり、「ポケモン GO」がもつ最高記録(3億800万)を上回る数字をたたき出した。累計ダウンロード数は20億に近づき、「TikTok」を運営する「ByteDance(字節跳動、バイトダンス)」の企業評価額は1,000億ドル(約10超7,000億円)に達すると見られている。
ユーザー数、アクセス数で順調に見える「TikTok」だが、IPOの噂がささやかれはじめた2019年には収益や安全保障の問題が指摘され、運営方向の見直しを進めている。コンテンツのジャンルを拡げたり、新たなビジネスモデルを取り入れ、収益に向けた新たな取り組みに力を入れている。
米国・EUの逆風が改革を加速
「TikTok」を運営するByteDanceは中国の北京をベースとするスタートアップで2012年3月に設立された。ロサンゼルス、東京、ロンドンなどのグローバル拠点に加えて世界15カ所に研究開発拠点を持ち、約6万人(2019年度11月時点)の社員を抱える。創設者兼CEO兼会長の張一鳴(Zhang Yiming/チャン・イーミン)はMicrosoft(マイクロソフト)に務めた経歴もあるシリアルアントレプレナーで、2012年8月にAIを活用したニュースアプリ「Toutiao(今日頭条)」を立ち上げ急成長させた。
その後、チャンは大学のときのルームメイトで共にByteDanceを創業した梁汝波(Liang Rubo /リアン・ルボ)と2016年9月に中国版「Douyin(抖音)」を立ち上げ、2017年5月にグローバル版「TikTok」をスタート。同年11月には当時大人気だったリップシンクアプリ「musical.ly」を買収し、18年8月に完全統合している。
「TikTok」がヒットした理由は、独自のアルゴリズムで、スワイプするだけで動画が次々に再生されるところにある。他のSNSのようにフォローする相手を探す必要がなく、投稿者にとってはフォロワーがゼロでも再生してもらえる可能性がある。あまりにも中毒性が高いことから、アプリの使用時間を制限する機能が搭載されているほどだ。
ByteDanceは本社が中国内にあることから米国政府からは国家安全保障面の問題があると以前から指摘されている。EUでも個人情報保護に関する懸念から調査を行う用意を始めており、オランダでは子どもの利用が多いことからプライバシーと安全面での調査を開始すると発表している。
それ以上に課題とされているのが、「TikTok」で収益をあげる仕組みを確立させることだ。ByteDance は昨年後半にようやく運営を黒字化したところで、稼ぎ頭である「TikTok」にこれからより力を入れていくと見られている。コンテンツを投稿してもらうためのプロモーションとあわせて、もっとわかりやすくマネタイズにつながる、ECやブランドとのタイアップにも力を入れている。
テック企業ならではの技術力
「YouTube」の再生回数や「Instagram」の「いいね」の数のような、スポンサーから対価が支払われる指標に代わるものとして、「TikTok」がテストしている方法のひとつが、投稿コンテンツからECサイトにジャンプできる機能だ。中国版で導入済みの機能は「Instagram」の「Shop Now」と同じく、パブリッシャーが直接収益をあげる機会を提供する。
また、テクノロジー企業らしく投稿者向けにインサイト機能を提供しており、直近7日間のコンテンツの視聴回数や人気順位、フォロワーの推移や分布などが分析できる「Tiktokプロアカウント」を実装している。コンテンツを見つけてもらいやすくするため、話題のハッシュタグのランキングも提供しており、meme(ミーム)投稿を盛り上げるハッシュタグチャレンジはコロナ禍にあるユーザーを巻き込むテーマの提供でヒットが続いている。
特に10代向けのプロモーションは影響力があり、成功事例としてインドのブランドやユニバーサルスタジオの新作宣伝を紹介している。そうしたプロモーションへの好感度を高めるために、社会課題解決をテーマにした投稿を提案する「for good」も展開しており、教育サポートや動物保護、気候変動問題などを取り上げている。
他にも、「TikTok」で蓄積された技術を元に強力なリコメンド・アルゴリズムを活用した広告プラットホームの「Pngle」を提供している。広告フォーマットと予測評価モデルを掛け合わせることでターゲットや訴求内容にあわせて最適な広告手法を選べるムービー広告は、「TikTok」以外のアプリに向けて提供される。
こうした動きとあわせて大きな話題となっているのが、ディズニーに20年間務めた元Disney+代表のケビン・メイヤーを「TikTok」のCEO兼ByteDanceのCOOに迎えたことだ。マーベルやピクサー、ルーカスフィルムの買収を担当し、2019年に立ち上げたばかりのDisney+を成功させた人物の電撃的な人事異動は、ByteDanceのIPOと何よりもサービスとしての「TikTok」に大きな変革をもたらす可能性がある。
TikTokがしかける日本独自の動き
日本の「TikTok」の運営は、2日本法人のByteDance株式会社が2017年8月から開始している。最もダウンロードされたアプリに選ばれた2018年度の月間アクティブユーザー数は950万人とされている。
コンテンツに関しては、番組や有名人とのタイアップをはじめ「for good」 コンテンツを展開。親子向けの「TikTok安心安全啓発イベント」を世界で初めて開催するなど、安全性をアピールしてきた。19年8月からは「TikTok安全推進チーム」アカウントからインターネットの安全利用に関するオリジナルの動画を配信しており、再生回数は累計で1,000万回を突破した。
ByteDanceにはソフトバンクも投資しており、日本法人は今年3月に経団連、4月に電子情報技術産業協会(JEITA)に入会し、COVID-19関連の支援、寄付などにもかなり力を入れている。運営もあくまで日本独自に行っていることを強調しており、そうした影響もあってかここ最近では自治体との連携が増えている。
横浜市が全国初となる連携協定で医療方向を行ったのをはじめ、東京都や大阪府は公式アカウントに知事が登場してコロナ対策に関する情報発信を行っている。神戸市では癒し動画を募集するキャンペーンから職員の募集まで幅広く利用するなど、いずれも若い世代に向けた情報発信ツールとして活用している。
もちろん、広告配信プラットフォームとしての運営にも力を入れ、オンラインでアカウント開設から広告配信まで実施できる「TikTok Adsオンラインアカウント」を2020年4月から正式スタートしている。また、クリエイター支援の第2弾として行われたサントリーとのクリエイティブコンテストは総再生回数が1.3億回を越え、投稿作品そのものが広告とつながるスタイルを定着させようとしている。
LIVE配信、音楽、ゲーム…TikTokの可能性は
だが、インターネットユーザーは熱狂すればするほど飽きるのも早い。「#STAY HOME」で利用時間が増えた分だけ、消費されたコンテンツをショートムービーだけで補うのはなかなか大変だ。
そこで「TikTok」が次に取り組むのが「TikTok LIVE」によるストリーミング機能だ。15秒動画というアイデンティティを大きく変える取り組みは中国で実装済みで、多くのストリーマーの間で実装が期待されている。国内ではいくつかの試験配信が行われており、学びをテーマにした「TikTok教室LIVE配信」では13歳以上を対象にするなど、これからどのように運用されるかが注目されている。
TikTok全体に関しては、ケビン・メイヤーが音楽と動画配信と相性がいいゲーム中継のeスポーツに力を入れるとの情報もある。GoogleのYoutubeをはじめ、AmazonのTwich、MicrosoftのMixerといった超競合が先行しているだけに、既存の機能だけで参入するというのは考えにくく、これまでにない新しい機能を提供するのかもしれない。
企業ミッションに「創造性を刺激し、喜びをもたらすこと」を掲げ、主にアクトアウトミーム(act-out meme:特定の動作や演技を行うミーム)で成長してきたTikTokだが、パブリッシャーとユーザーの両者を惹きつける新たなインターネットミームを生み出せるのか? これからの動きがますます気になるところだ。
文:野々下裕子