パンデミックをきっかけに、オンライン教育・学習は急速に身近なものになりつつあるが、それは子供たちや学生に限ったことではない。ビジネスパーソンの間でも、在宅勤務や外出自粛で生まれる余剰時間を使って、オンラインで新しいスキルを学ぶ人が増えている。

世界最大のビジネス系SNSであるリンクトインでは、4月のオンラインコース視聴時間が計770万時間と、3月比で2倍以上、2月比では3倍近く増加した。人気のコースは主に、在宅勤務・リモートワークにおけるマネジメント力や生産性スキルを学ぶもので、なかでも「在宅勤務のタイムマネジメント」の視聴者数は、26万人にまで達した。

働く環境が激変している今、各国でビジネスパーソンは、オンラインでどのようなスキルの獲得を目指しているのだろうか。

パンデミックで急成長するオンライン教育市場

パンデミックによるオンライン教育市場の伸びは予想以上だ。米国では、教師による課題管理サポートアプリ、Google クラスルームの3月末からの1週間におけるダウンロード数が、今年1月と比較して580%の伸びを示し、ZoomやTikTok、Housepartyといった人気アプリに続き、ゲーム以外のアプリのダウンロード数で4位にランクインするまでになった。教師・生徒・保護者のコミュニケーションアプリとして人気のRemind、ClassDojoも、それぞれ290%、565%の伸び率を示した。

このように、若年層では休校に対応するための教育アプリの利用が急増しているのが特徴だ。一方で、ビジネスパーソン向けでは、オンラインスキルラーニングサービスの利用者が急激に多くなっている。

その一つがLinkedInラーニングだ。全世界で6億7千万人以上、日本でも200万人以上が登録しているリンクトインは、登録者が自身のキャリアを公開し、他の登録者と交流をしたり、企業のリクルートの場とすることで、キャリア形成に役立てるためのビジネス特化型SNSだが、学習サイトのLynda.comを15億ドルで買収したことで、現在はビジネスパーソンに向けたオンライン教育機能も備えるようになった。

この分野ではUdemyなどのサービスがすでに有名だが、LinkedInラーニングはサブスクリプションであることが特徴で、月数千円でビジネス、クリエイティブ、テクノロジーの3つのカテゴリに分類された約16,000以上のコースにアクセスできる。スマホアプリも用意されており、吹き替えで日本語対応したコースもあることで日本のビジネスパーソンの間でも徐々に人気が高まっている。

多くの世代でオンライン学習が一般的に PIXABAYより

そんなLinkedInラーニングで、もともと人気の高かった在宅勤務や、オンラインで仕事をするスキルに焦点をあてたコースは、パンデミックによりその視聴率が3,000%~5,800%の急上昇を記録するまでとなった。

在宅勤務への移行で通勤や飲み会がなくなってできた時間や、外出できない余暇時間を自己研鑽にあてようという人だけではない。フルリモートなど、これまで体験したことのない働き方に戸惑いを感じている人、解雇や減給されたり、その可能性を感じているといった人による転職、再就職のための取り組みとしての利用も増えている。

実際、最も利用があったのは、外食、エンターテインメントや旅行、不動産など、パンデミックの影響を最も受けた業界のユーザーだったようだ。

人気コースにみるwithコロナ時代に必要なスキル 

そんなLinkedInラーニングで、4月に最も人気のあった10のコースをみると、「Excel必須研修」や「対人コミュニケーション」といった基本的なビジネススキルのコースの他、「在宅勤務のタイムマネジメント」「リモートワークの基礎」「ハイパフォーマーの6つの朝の習慣」「Zoomを学ぼう」「リモートワークのコツ」「Microsoft Teamsの必須トレーニング」といった、パンデミック中のワークスタイルの変化に対応するためのものが目立つ。

履歴書作成、プログラミング言語などの、技術的なスキルのコースの視聴も同時期に増加していたのだが、トップ10入りはしていなかった。

在宅勤務スキルの講座は特に人気 PIXABAYより

この4月の人気ランキングからは、パンデミックによる急速な労働環境の変化で、世界のビジネスパーソンが何に悩み、必要性を感じたのかが伝わってくる。

それまで在宅勤務の経験があまりなかった人にとって、このパンデミックでの急激な在宅勤務へのシフトには、なにかと困難なことが多い。ZoomやSlack、Microsoft Teamsといった、リモートワークで必要とされるツール自体を使いこなすスキルが必要なのはもちろんだが、それと同じくらい、いやそれ以上に在宅勤務で難しいのが、モチベーションの維持とタイムマネジメントだ。  

視聴数ベスト10入りした「在宅勤務のタイムマネジメント」コースは、生産性向上と時間管理のベストセラー作家である講師から、生産性を最大化するためのワークスペースの作り方やスケジュールの組み立て方、休憩の取り方、集中力を維持するためのパソコンの設定方法から、リモートでのチームワークの構築、バーチャルミーティングの生産的な進め方が学べると人気だ。

通勤や同僚との挨拶なしに、朝うまく頭を仕事モードに切り替えられない、逆に夜働き過ぎてしまうといった、突如、在宅勤務にシフトすることになった多くのビジネスパーソンが感じる悩みに応えるコースとなっている。

また、パンデミックによって失業や減給など困難な状況に置かれた人が多いことを反映してか、この上位10コースには「レジリエンスの獲得」と「ポジティブな変化を起こすためのストレス管理」も入っていた。

逆境でも折れない力をさす「レジリエンス」は、コロナ前からビジネスパーソンに注目されていたスキルだが、多くの人が大小を問わず様々なストレスにさらされたパンデミック下では、さらにその必要性が強く認識されたのだろう。

このコースでは、ビジネススクール教授、コミュニケーションコーチである講師が、困難な状況から立ち直る精神力と思考法を身につけるためのトレーニングテクニックを一つひとつ解説しており、レジリエンスを身につけるための自分の「打たれ強さ」の客観的な分析法や、その向上のためのトレーニングを学ぶことができる。

長びくパンデミックの中、直接打撃を受けた業界以外でも、先行きの不透明さや、働き方の急激な変化に戸惑うビジネスパーソンは多いが、そんなユーザーにLinkedInラーニングは、前向きでいるための一つの方法として、明確な目標を設定することを提案している。

世の中の変化に対応した新たなキャリアを築くため、そしてwithコロナ時代に前向きに向き合うため、急成長の兆しを見せているビジネスパーソン向けオンラインラーニングに注目だ。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit