衰退する世界の新聞業界、読者の平均年齢は60歳?

「新聞業界の衰退」は日本だけでなく世界的なトレンド。ミレニアル世代などの若い世代は新聞を読まなくなっている。これは新聞読者の平均年齢を見れば一目瞭然だ。

英国のメディアマーケティング会社InterMediaのまとめによると、英紙The Independent(紙版)の平均年齢は43歳。これが主要各紙の中で最も若い年齢となったのだ。The Independent系列の朝刊紙「i」の平均年齢は50歳。The Daily Telegraphに至っては、読者の平均年齢は61歳に達するという。

新聞読者の高齢化?(写真はイメージ)

これは英国の数字だが、少子高齢化が進む国では概ね同様の傾向と考えられるだろう。

こうした状況を見る上で注意すべきは、新聞離れが必ずしもニュース離れとイコールではないということ。

以前にお伝えした通り、世界各地の若い世代の間ではニュース需要が高まっている。世界経済フォーラムの委託でニールセンが世界6カ国(米、英、独、印、中、韓)・9,100人以上を対象に実施したデジタルメディア消費調査で、全体の53%が今後有料ニュースサービスの利用を検討していると回答したのだ。

また6カ国中、米、英、独の3カ国では、16〜34歳の層における有料ニュースサービス利用検討割合が、55歳以上の層に比べ2倍多いことも明らかになった。

フェイクニュースが蔓延するソーシャルメディアに嫌気がさし、信頼できるニュースメディアの価値を見直す人が増えていることを示唆する数字だ。このニールセンの調査が実施されたのは2019年10〜11月。コロナ禍で、信頼できるニュースメディアに対する需要は一層高まっていることが考えられる。

こうした数字を見ると「(新聞メディア)が若い世代を取り込むには、デジタルシフトが必要だ」という考えに至るはず。新聞や雑誌など記事ベースのニュースメディアにとって「デジタルシフト」とは多くの場合、記事のオンライン配信ということになるだろう。

オンライン配信することで、一部の若い読者を獲得することはできるかもしれないが、すでにオンライン配信しているニュースメディアは多数あり、ロイヤルな読者を獲得するのは困難かもしれない。若い世代のニュースメディア需要を最大限に取り込むには、もう一歩踏み込んだ施策が必要になりそうだ。

新聞を聞く?ニューヨーク・タイムズ紙が本気で取り組むポッドキャスト事業

この点、米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は「新聞は読むもの」という常識を覆す施策を遂行し、現在のところ新聞メディアの中で顕著な変革と成功を実現している。

NYTがこのところ注力しているのが、ポッドキャストによる音声コンテンツの拡充だ。ポッドキャスト施策によって、米国の若い世代の間では、新聞は「読むもの」から「聞くもの」に変わりつつあるようだ。

マンハッタンにあるニューヨーク・タイムズ本社ビル

同紙が2017年に開始した「The Daily」。NYTの政治ジャーナリスト、マイケル・バルバロ氏がホストを務めるポッドキャスト番組だ。平日毎日20分前後、その日NYTが報じたニュースについて、考察したり、関連情報を伝えたりしている。Voxによると、The Dialyのダウンロード数は、2018年6月時点で平日1日あたり110万回、また2020年1月時点では200万回に達したという。

NYTは2019年9月時点でThe Dialyの累計ダウンロード数が10億回を超えたと発表している。

ポッドキャスト分析サービスのPodtrackによると、2020年3月の世界全体のダウンロード/ストリーミングランキングで、NYTは、1位NPR(約2億1,500万回)、2位iHeartRadio(約2億回)に次ぐ3位にランクイン。ダウンロード/ストリーミング回数は約1億2,800万回となった。番組数(Active Show)は、NPRが49本、iHeartRadioが387本、NYTが10本。番組あたりのダウンロード/ストリーミング数では、NYTがトップとなる。

実際、Podtrackの番組別ランキング(2020年3月)では、3位の「UpFirst(NPR)」、2位の「NPR News Now(NPR)」を抑え、NYTの「The Daily」がトップとなっている。

ニューヨーク・タイムズ紙の人気ポッドキャスト「The Daily」

どのような年齢層がThe Dailyを聞いているのか。Podtrackのデータから推測することができる。

それによると、トップ番組のリスナーにおける最大の年齢層は25〜34歳で、その割合は45%以上であることが判明。次いで18〜24歳の層が15%以上、45歳以上が15%前後、35〜44歳の層が12〜13%。ミレニアル世代のポッドキャスト利用が圧倒的に多いことが示されたのだ。米ミレニアル世代の間では、新聞は読まないが、新聞社が配信するポッドキャストで「ニュースを聞いている」人が非常に多いようだ。

ニューヨーク・タイムズ紙、ポッドキャスト・スタートアップ買収で体制強化

NYTのポッドキャスト投資はこれにとどまらない。2020年3月23日には、ポッドキャスト・スタートアップのAudmを買収したと発表。ポッドキャスト・コンテンツ拡張路線が顕になった形だ。

ニュースのポッドキャスト配信では、文章読み上げソフトが使われることが多い。しかし、Audmはプロのナレーターを採用、人間味ある音声コンテンツの制作に強みを持つスタートアップだ。

AudmはNYTに買収される以前からThe New YorkerやThe Atlanticといった米ニュースメディアの音声化を担い、同プラットフォーム上でサブスクリプションサービスを展開。買収後も他メディアのポッドキャスト制作は継続するとのこと。

Audmウェブサイト

NYTはニューヨーク・タイムズ・マガジンの記事の音声化にも着手することを明らかにしており、様々な分野の記事をポッドキャストで配信する準備を着々と進めている。

このほか、NYTはノンフィクション・ポッドキャストで最も成功したシリーズの1つといわれる「Serial」の制作会社Serial Productionsの買収にも興味を示しているとも報道されている(2020年1月)。ダウンロード数3億回以上、評価額は7,500万ドル(約80億円)といわれるポッドキャスト企業だ。

4月末時点でこの報道に関する最新状況は不明であるが、NYTがポッドキャスト事業に本気で取り組んでいることは明白だ。

新聞は見るものから聞くものへ。世界的に大きな影響力を持つ新聞メディア、ニューヨーク・タイムズ紙のポッドキャスト拡張取り組みは、新聞メディアのあり方をどう形作っていくのか、今後の展開が楽しみだ。

[文] 細谷元(Livit