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デジタルサービスを手掛けるテック産業が、2010年代の雇用拡大や経済成長に大きく貢献したことは明らかだ。アメリカでは2010年から2018年の間に、ソフトウェア開発、データ処理、システムデザイン、ウェブ制作やデジタルリサーチといったテックジョブの雇用が約100万件増加している。
その一方で、テック産業によって「発展し続ける大都市」と「取り残される地方」との分断が深められるという社会課題も顕在化している。米シンクタンク・ブルッキングス研究所のレポートによると、テック産業は全米に広がるよりも、むしろ特定地域への集中を加速させていることが明らかになった。
トランプ大統領の誕生により明らかになったアメリカの分断
アメリカの分断に世界の注目が集まったのは、2016年のアメリカ大統領選の時だろう。発展し続ける豊かな大都市に対し、経済成長に取り残され困窮する地方という対立構造が報じられ、結局後者の後押しによってトランプ大統領が誕生することとなった。
このアメリカの分断には、大都市と地方の産業構造も大きく関わっている。ブルッキングス研究所の分析によると、分断は1980年代から始まったという。デジタルテクノロジーとイノベーションが経済活動の中心になるに従い、海岸部の特定の地域に新しい技術と人材が集中し、賃金面でも雇用機会においても地方との差が大きくなっていったのだ。
ブルッキングス研究所が2019年12月に発表したレポートによると、イノベーション領域における過去15年間の雇用増加分のうち、90%がわずか5つの都市で占められていたという。ボストン、サンフランシスコ、サンノゼ、シアトル、サンディエゴだ。
イノベーション領域の雇用者数におけるこの5都市のシェアは、2005年の17.6%から2017年には22.8%にまで増加していた。その一方で上位10%以下の都市はシェアを失う結果となっていた。
テック産業はサンフランシスコ・サンノゼ等の大都市への集中を加速
イノベーション領域の発展が大都市に大きく偏っているというブルッキングス研究所の分析結果は、驚きを持って受け止められた。その一方でグーグルやフェイスブック、アマゾンなどBig Techと呼ばれるIT大企業はもっと広範囲で活動していて、調査対象をテック産業に絞れば、雇用は海岸部の幅広い地域、さらには内陸部にも広がっているはずだ、とする反論もあった。
しかしブルッキングス研究所が2020年3月に発表した新たなレポートによって、残念ながらこの反論は否定されることとなった。結果はむしろ逆で、テック産業の雇用は均一化されるどころか、少数の都市への集中度合いを強めていたのだ。
2018年時点で、全米のテック産業雇用の44%がわずか10都市によって占められ、2010年比で増加した100万件のテック系雇用のうち約半数も、これら10都市で発生していた。
テック業界の「スーパースター」である2都市、西海岸のサンフランシスコとサンノゼは2010年時点でもテック系雇用の多くを生み出していたが、2018年までの間にさらに20万件の雇用を増やしている。この2都市が全米のテック産業雇用に占めるシェアは2010年時点で7.5%だったのに対し、2018年には11%まで伸びている。
地方都市でもテック産業は伸びているがシェアは落とす結果に
アメリカ内陸部には、2010年代にテック産業の地域中核として急成長を遂げた都市が多くある。たとえばチャールストン、シャーロット、カンザスシティ、インディアナポリスなどで、いずれも年間6-7%を超えるペースでテック産業が伸びている。
さらにアクロン、メンフィス、ルイビルといった内陸部の都市にも、活きの良いスタートアップはいくつも登場している。これらの都市において、テック企業の雇用が成長・希望・高給をもたらす存在であることに間違いない。
しかしアメリカ全体でみると、テック産業は各地方に散らばるよりも大都市に集まる傾向を加速させている。
アメリカ内陸部の都市で、テック産業の雇用シェアを2010年比で0.2%以上伸ばすことができたのはデンバー、フェニックス、シャーロットのみで、その他の都市はかろうじてプラスか、シェアを落とす結果となっている。特にプロビデンス、リトルロック、バージニア・ビーチなどは5%以上シェアを落としている。
もちろんほぼ全ての都市でテック産業自体は伸びているのだが、テック強者である上位10都市の伸びの方が圧倒的に大きいということなのだ。
テック産業の「勝者総取り」の力学がアメリカの分断を加速させている
テック業界は“Winner-take-most”(勝者総取り)の力学が働きやすいことで知られている。グーグル、フェイスブック、アマゾンなどがその顕著な例で、同種のサービスをほぼ駆逐し絶対的なシェアを手にしている。ブルッキングス研究所の調査結果を踏まえると、勝者総取りの力学が、テック強者の大都市とそれ以外の中小都市の間にも強力に働いていると言えるだろう。
テック産業が地域にもたらすのは高待遇な雇用だけでなはない。テック企業従業員の消費行動によって地域経済にもたらされる資金や、彼らの存在によって発生する公共事業やサービス産業といった副次的な恩恵も意味する。
サンフランシスコ・サンノゼで2010年~2018年に増えた直接的なテック系雇用は20万件だが、周辺産業も合わせると新たに生み出された雇用は35万件にも上るという。
特にテック産業が集中する都市では、都市全体のITインフラが急速に発展する。高速インターネット回線や公共交通機関が充実し、住む人々のQOLが向上する。それにより、生活コストが高いにもかかわらず、テック強者の大都市は新しい雇用や新しい居住者を呼び込み、どんどん強くなっていくのだ。その一方で、地方の都市はテック産業に紐づく経済成長からも取り残されていくことになる。
テック業界にとっても、特定の都市への集中が進み過ぎることは危険だ、とブルッキングス研究所は警鐘を鳴らす。新しいアイディアを考え出したりや決断をする上で重要な多様性が失われてしまう可能性があるというのだ。
どうすればテック産業の持つ「勝者総取り」の力学を弱め、大都市以外でもテック産業を花開かせられるのか?ブルッキングス研究所は、内陸部を網羅する形で8-10か所の「イノベーション拠点」都市をつくり、テック企業のR&D機能を移したり、まとまった人員を配置したりすることを提案している。
文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit)