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シンガポール並みに安全な国ルワンダ
このほどアフリカ初の国産スマホをローンチし話題となったルワンダ。100万人ともいわれる人々が殺された1994年の悲劇を乗り越え、急速な速度で経済成長を実現し、今や「アフリカのシンガポール」と呼ばれるまでになっている。
「アフリカのシンガポール」と呼ばれる理由の1つが、同国の厳格なごみ対策だ。2008年に施行されたビニール袋禁止令をきっかけとし、ごみ問題への対策が本格化。通常、新興国の都市ではごみが散乱している姿をよく見かけるが、ルワンダの街ではごみが落ちてない。
ごみが落ちてないきれいな街並。これは、観光やビジネス旅行客を呼び込む上で重要な要素となる。ルワンダを観光・ビジネスハブにするという目的のもと、同国カガメ大統領が強いリーダーシップでさまざまな施策を進めているところだ。
ルワンダ首都キガリの様子
ルワンダがテクノロジー人材の育成に力を入れ、アフリカのテックハブを目指している点もシンガポールとの共通点といえるだろう。アフリカ初の国産スマホが登場したいうニュースからも、同国が本気でテクノロジーハブを目指していることがうかがえるのではないだろうか。
さらに安全性という視点からもシンガポールとの共通点を見出だせる。英テレグラフ紙が伝えた2017年世界経済フォーラム「安全な国・世界ランキング」で、ルワンダはなんと6位のシンガポール、7位のノルウェー、8位のスイスに次ぐ9位にランクインしたのだ。
米世論調査会社ギャラップが2017年8月に発表した「法の支配・安全性レランキング」でもルワンダは世界11位、アフリカ2位にランクインし、その安全性の高さが際立つ結果となった。同調査ではルワンダ回答者の87%が法の支配が機能しており、安心できると答えている。このランキングでシンガポールは1位だった。
「アフリカのシンガポール」ルワンダの観光戦略
さまざまな共通点を持つルワンダとシンガポールだが、もちろん異なる点もいくつかある。その1つとして挙げられるのが、シンガポールが都市国家として発展を遂げてきた経緯を持つ一方、ルワンダはその膨大な自然資産を生かした別の発展経路を模索しているという点だろう。
このことは観光の違いに見て取ることができる。シンガポール観光を象徴するのはマリーナ・ベイ・サンズやカジノ、さらにはユニバーサル・スタジオ・シンガポールやF1など、都市型の宿泊体験・アクティビティといえるもの。
都市型観光アクティビティを売りにするシンガポール
一方、ルワンダ観光を象徴するのは「ゴリラトレッキング」や「エコロッジ」など自然資産を生かしたものだ。
日本ではシンガポールは物価が高いというイメージがあり、観光もラグジュアリーなものだという印象がつきまとう。実際、マリーナ・ベイ・サンズの宿泊料は1泊600〜1,000シンガポールドル(約5〜8万円)ほど。一般的なホテルと比較すると高い値段設定だ。シンガポールでは不動産価格が高く、他のホテルでも割高感は否めない。
シンガポール観光のこうした状況を念頭に、ルワンダ観光を想像すると割安で行けるのではないかと思ってしまうのではないだろうか。
しかし、実際はそうではないようだ。自然資産の重要性を認識しているルワンダ政府は「過剰観光」による自然・文化破壊を阻止すべく、同国観光産業のターゲット層を「エコ意識の高いハイエンド観光客」に設定。それにともない宿泊料やアクティビティ価格もかなり高額になっているのだ。
同国が誇る観光アクティビティ「ゴリラトレッキング」。絶滅危惧種に分類されているマウンテンゴリラに出会えるトレッキングツアーだ。
マウンテンゴリラの保全活動に力をいれるルワンダは、ゴリラの生息地であるVolcanoes国立公園の入山料をこれまで750米ドル(約8万1,000円)に設定、また観光客の入山制限を行い、持続可能なアクティビティとして運営してきた。高額な入山料にもかかわらず、予約が取れない人気ぶりだったといわれている。
この高額な入山料、2017年5月には750ドルから1,500ドルに値上げされ、一層ラグジュアリーなアクティビティとなった。
ルワンダに生息する絶滅危惧種マウンテンゴリラ
こうした資金はゴリラの保全活動に活用され、これまでに一定の成果を出している。一時は2008年にその生息数が690頭に減り、国際自然保護連合によって絶滅の恐れがもっとも高い「絶滅危惧1A種」に分類されたマウンテンゴリラだが、2018年には1,000頭以上に回復し、危険度が1つ下がり「絶滅危惧1B種」となった。
他ではできない自然体験を得て、地元の自然環境にポジティブなインパクトを与えるのなら高額のプレミアムを支払ってもかまわないと考えるエコ意識の高いハイエンド観光客がルワンダに集まっていることが示唆されている。
エコ意識の高いハイエンド観光客が集うルワンダのラグジュアリーロッジ
それはエコツーリズムを意識したラグジュアリーロッジの増加からもうかがうことができる。
代表的なエコ・ラグジュアリーロッジの1つ「Bisate Lodge」。1人1泊1,100ドル(約12万円)からというロッジ型の高級宿泊施設。ゴリラトレッキングができるVolcanoes国立公園の隣に位置している。
2人宿泊可能なロッジが6棟あるのみ。もっとも多いときでも宿泊客は12人にとどまることになる。
Bisate Lodgeを運営するのはボツワナのエコツーリズム会社「Wilderness Safari」。ルワンダのほかに、ボツワナ、ケニア、ナンビア、南アフリカ、ザンビア、ジンバブエでエコ宿泊施設運営や保全活動を実施。Bisate Lodgeでは植樹活動を行っており、これまで1万5,000本の植樹を行った。
ほかには絶滅危惧種の保全活動や保護区の運営を行っており、実際に行動するエコツーリズム会社として注目されている。
Bisate Lodge(Wilderness Safariウェブサイトより)
このほかOne&Only ResortのNyungwe House、Mantis Colleciton、Singitaなどのエコ・ラグジュアリーロッジが登場し、同国が狙うハイエンド観光客の取り込みを加速させている。
過去、旅行が特別だった時代、旅行に行くこと自体が「ラグジュアリー」と考えられていたようだが、LCCなどの登場によって誰もが簡単に旅行できるようになったいま、ラグジュアリーの意味も変化したといえるだろう。
ルワンダが示すのは「ありのままの自然」を体験するラグジュアリー。世界的にマスツーリズムからエコツーリズムへ関心が移っており、テックだけでなく観光分野でもルワンダの存在感は今後一層ましていくことになるだろう。
文:細谷元(Livit)